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AIがミスリードする“人件費”にまつわる誤解分かったつもり? AI画像認識

AIを導入すればすぐに人件費を削減できると思っている、AIに仕事を奪われるとやみくもに恐れる――こうした間違いによって、AI画像認識の導入は頓挫してしまいます。その理由とは?

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監修:中尾雅俊

パナソニック ソリューションテクノロジー AI・アナリティクス部ソリューション推進課 主事

2017年にNVIDIAとの協業を担当したことを皮切りに、AI・データ分析中心の業務を推進。初期投資や導入リスクが大きい、「人工知能の現場導入で失敗させない」活動としてセミナー講演など多数実施。受講者からは、「AIがよく理解できた」「そんなノウハウを話しても良いの」と心配されるほど。最近の趣味は実用を兼ねたDIYや果樹菜園など。

監修:矢嶋 博

パナソニック ソリューションテクノロジー 産業IoTSI部ソリューション推進課 係長

製造業向け「AI画像認識ソリューション」のSEとして、営業支援やPoC推進を担当。ソフトウェア開発からITインフラ構築まで、これまでの幅広い経験を生かし、AI画像認識システムの提案から導入、AI学習トレーニングまでを手掛けている。趣味の風景や家族写真撮影に加え、学習用画像収集をライフワークにしている。

 AI画像認識を製造現場に適用する上での留意点や手法を解説する本連載。前回に引き続き、AI画像認識の導入を巡り、企業が陥りやすいミスジャッジについて取り上げます。

         よくあるミスジャッジ
ミスジャッジ(1) AIなら何でもできると思い込む
ミスジャッジ(2) AI画像認識で人件費が削減できると思い込む
ミスジャッジ(3) 画像データ収集の当てなくAI画像認識の導入を決める
ミスジャッジ(4) 頭脳の発育を外部ベンダー任せにする
ミスジャッジ(5) のちのシステム化の構想なくAI画像認識の導入を決める

 今回は、このうち「AI画像認識で人件費が削減できると思い込む」というミスジャッジについて説明します。

AIは人の仕事を奪うのか?

 AIは、いずれ人の仕事の多くを奪うだろう──そのような記事をメディアの間でよく目にします。例えば、半導体の組み付けや自動車の組み立てなどが、人から産業用ロボットに置き換えられたように、現在は人でしか行えないような作業が、早晩、AIで自動化されるというわけです。そういった事態が一部の現場から始まり、徐々にその範囲が拡がることは否定のしようがありません。

 だからと言って、AIの最初の導入目的を「人件費の削減」に定めるのは賢明な選択とはいえません。また、私たち自身も、必要以上にAIを恐れる必要もありません。

ミスジャッジ(2)AI画像認識で人件費が削減できると思い込む

 例えば、製造ラインの中で1人の方が検品を担当しており、その方の代替としてAI画像認識を機能させる例で考えてみましょう。この場合、人件費削減(人をゼロにする)を達成するには、AIが「全ての検査項目に対して認識率100%」を実現しなければなりません。

 製造ラインで検品作業を行う人は、製品にキズがないか、汚れはないか、変形していないかなど、たとえ検査項目になかったとしても「明らかに不良」という判断が行えるはずです。ところがAIには、そのような人の「常識」は通用しません。あらかじめ学習させた一部の項目は、100%に近い認識率になることもあるでしょうし、人の認識率を上回ることもあるでしょう。しかし、人の代替をするには、極端に認識率の悪い項目が1つでもあると、結局は人の介在が必要になってしまいます。

 その結果、人件費の削減ができず、AI画像認識の導入は初めの段階でつまずきます。そして、『AIは使いモノにならない』との結論に至り、AIのせっかくの利点を生かすことなく、プロジェクトを頓挫させてしまう恐れが強まるのです。

 AIに人と同じ能力を求めることは、ある意味で間違っているのかもしれません。それは、人にとって難しいことや簡単なことが、AIにとってのそれと一致しないからです。

 前回説明したように、AIは、5歳の子どもでも分かる食べこぼしをなかなか見つけられない一方で、X線画像からがんの専門医と同等の精度でがん細胞の存在を見つけ出すことができます。

 また、AI(コンピュータ)は、どんな小さなことでも、一度インプットされれば(データを削除しない限り)忘れることはありませんし、ある事象に対して判断した結果は、別のタイミングでも同じ判定を正確に下せます。教わったことを忘れたり、都度、異なる判定を下したりする可能性のある人間にとって、どれも難しいことばかりです。そうしたAIの特性を理解した上で、最初の導入目的は、人の弱点であり、かつAIが得意とする領域にターゲットを絞る。それがAI導入の成功確率を高めることにつながります。その意味でも、画像認識のAIを製造現場のどこに適用するかは、現場を深く知る人とベンダーが一緒になって検討し、推進することが必要です。

 この基本を守っていれば、少なくともAIの導入期は、「AIに仕事を奪われる」というよりも、人の弱点を補完してくれる「パートナー」となってくれるはずです。その後、AIに適切な画像を追加で与え続ければ、頭脳が進化していきます。将来、AIが弱点とする項目ですら人の能力レベルに達するようになり、一部の現場については、実施されている全作業項目をAIが代替できることもあるでしょう。

 しかし、その状態に至るまでには、少なからず時間的な余裕があるはずで、人はそのときまでに、(人にしかできない)新しい業務を行うために必要なスキルを修得しておけばよいのです。特に、物理的なアクションを伴う作業(モノをつまむなど)をAIに全て担わせようとするならば、コスト面の課題解決も含めて、数年のオーダーで実現できるものではないと予想されます。

 一方で、画像認識のAIは、いったん相応のパフォーマンスを発揮するようになれば、24時間365日休みなく働き続け、人では不可能な生産物の全品チェックもこなせるようになります。この辺りの特徴をもとに考えると、製造現場にも、AIの導入価値がすぐに手にできるところがあるはずです。例えば、人は時間経過とともに疲労が蓄積されていき、ポカミスをすることが多くなりますが、AIは同じ水準で作業し続けます。

 以上の記述をまとめると、経営者や現場の管理者がAIの導入検討に際して考察すべき重要なことは、「(1)人とは大きく異なるAIの特性をよく理解し、現場の人を支援するケースを対象に初期導入を図ること」、そして、人の代替を想定するなら「(2)AIの弱点を克服する追加学習を計画的かつ継続的に行うこと」、さらには「(3)人の業務シフトの課題も並行して解決を図ること」の3点に集約できます。

 言うまでもなく、製造現場の方も、AIが形成する「未来の製造業」への備えが必要になります。AIを現場に迎えるにあたり、それぞれの立場の人が、それぞれ何をすべきかを認識し、自らを変えていくことが、AIを使いこなすポイントなのです。

 次回は、3つ目のミスジャッジである「画像データ収集の当てなくAI画像認識の導入を決める」について説明します。AI画像認識によって製造企業が成果を上げるためにぜひ知っておいていただきたい内容です。ご期待ください。

企業紹介:パナソニック ソリューションテクノロジー

パナソニック ソリューションテクノロジーは本格的なICT時代の幕開け前から30年にわたり、IT基盤の設計・構築、ソフトウェア、SIサービスでお客さまの業務課題解決に努めてきました。さらにICTシステムの設計・構築を起点に、Al・データ分析、IoT、働き方改革、そしてBPOまで分野を広げています。製造業や建設・物流・金融・エネルギー・自治体など、さまざまな業界・業務の知見を基としたソリューションで、お客さまの仕事の仕方・プロセスを加速度的に変え、成長につなげていきます。

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