業務自動化の切り札「プロセスマイニング(Process Mining)」とは何か:プロセスマイニング入門〜マニュアルのない業務の真実を「発見」する技術(1)(1/4 ページ)
生産性向上の切り札、業務標準化。標準化は将来的な自動化の第一歩でもあるが、多くの企業が失敗を経験する。その理由は「業務の真実」を発見できないことにある。いま、この課題を解決する手法として「プロセスマイニング」に注目が集まっている。本稿ではまず概要を見ていく。
最近注目を集めるRPAに代表されるように、従来人間が行ってきた業務の一部はソフトウェアやロボットで代用できるようになってきた。このとき「今ある業務の何をどう自動化するか」を設計するのは、各部門の業務の詳細を理解する必要があり、手間がかかる点だ。手軽に実装できるRPAでは、そもそも業務分析や実装そのものを各現場部門にまかせてしまうことで「野良ロボット」が問題になることも少なくない。
こうした問題を解消するものとして、「プロセスマイニング」という自動化の設計を支援する手法が注目を集める。本連載ではこれから数回にわたり、プロセスマイニングの概要と先行事例、具体的な導入方法について紹介する。第1回の今回はプロセスマイニングの概要を見ていく。
筆者紹介:松尾 順
ハートコア株式会社 Digital Transformation(DX)事業本部 ProcessMining部 シニアマネージャ/データサイエンティスト
マーケティングリサーチ会社、シンクタンク、広告会社、ネットベンチャーなどを経て現職。専門はマーケティングリサーチ、データ分析、ダイレクトマーケティング、CRM、事業開発。現在は「プロセスマイニング」の導入コンサルティングを行う。
プロセスマイニングは業務の記録の塊から「真実を採掘」する技術
プロセスマイニングを簡単に説明すると、私たちが日々の業務のために利用しているさまざまなシステムやアプリケーションを通じて生み出される「イベントログ」の分析を行うものだ。サンプル抽出などではなくログ全体を分析することで「現実の業務プロセス」を明らかにできるのが、プロセスマイニングの魅力だ。現実に即してムダやボトルネックなどの課題を発見できるのでプロセス改善の策を講じやすくなる。
プロセスマイニングに“マイニング(採掘)”という単語が使われているのは、業務プロセスを詳細に記録したイベントログデータに数百、数千万レコード以上のビッグデータを対象とするからである。
この膨大なビッグデータであるイベントログはいわば「宝の山」。採掘すれば、ダイヤモンド(価値ある知見)が見つかるかもしれないという期待がプロセスマイニングにはある。もちろん、ビッグデータの分析なので、プロセスマイニング専用のツールを用いることが前提だ。
では、全体図をもとに、プロセスマイニングの概要を説明しよう。
私たちが働く(1)現実世界(World)では、組織に属するスタッフや機械・機器、ロボットがさまざまな業務プロセスを実行する。だが、現在はそのほとんどが(2)何らかのソフトウェアなどのシステムで遂行される。このソフトウェアやシステムを操作すると、その裏では詳細な(3)イベントログが記録される。
例えば、業務アプリケーションを介して、発注書を発行する操作を行ったとしよう。この時、ツールの利用者や発注書の金額、発注先、書類の申請時間などの情報はイベントログとして記録される。プロセスマイニングでは、このイベントログをプロセスマイニングツールで分析する。
プロセスマイニングを実際に行う場合、まず行うのが業務プロセスのフローチャート生成だ。このフローチャートは、現実の業務プロセスを可視化した(4)プロセスモデルといえる。
プロセスマイニングの概要(Wil van der Aalst, Process Mining: Data Science in Action, Springer, 2016.を基に筆者が和訳の上、一部加筆修正)《クリックで拡大》
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