調査で分かった「日本企業のDXがいまいちな理由」デキる企業は何が違うか
「ビジネスモデル開発? イエイエ、メッソウもございません」――目先の成果を求める日本企業のDXは総じて保守的。そんな結論が調査から明らかに。この状況で成果を出す日本企業がやっていること、特徴も分かった。
NTTデータ経営研究所が「企業のデジタル化への取り組みに関するアンケート調査」の結果速報を発表した(2019年8月20日)。同アンケートは国内大企業と中堅企業を対象に、2019年7月23日〜2019年8月4日の期間、デジタルトランスフォーメーション(DX)に対する取り組みの実態を調査したものだ。
東京商工リサーチのデータベースで売り上げ100億円以上の企業1万4509社を対象にWebアンケート(一部、FAXまたは電子メールにて受付)を実施したもの。有効回答数は663件だった。なお、同社のDXの定義は「進歩したIT(AI、IoT、RPAなどのデジタル技術)を取り込み、業務プロセスやビジネスモデルの変革、新たな商品・サービスの開発等を実現すること」である。
売上高500億円以下企業は未着手、着手企業も「うまくいっているわけではない」らしい
DXへの取り組み状況について見ると「DXに取り組んでいる」とした企業の割合は全体の42.7%、「具体的に取り組んでいないが興味がある」と回答した企業の割合は全体の42.2%だった。
DXへの取り組み比率は企業規模が大きいほど高くなる傾向にあり、売上高が1000億円以上の企業では77.9%がDXに取り組んでいた。これに対して売上高が500億円未満の企業でDXに取り組んでいる割合は34.0%にすぎなかった。
これらDXに取り組んでいる企業のうち、「DXへの取り組みはこれまでのところうまくいっていると思うか」との問いに、「強くそう思う」または「おおむねそう思う」と回答した割合は42.2%、「そう思わない」または「あまりそう思わない」と回答した割合は47.6%。全体ではDXに対してネガティブな感触を持っている企業の方が多く、NTTデータ経営研究所では、日本企業がDXに取り組むことは一般的になりつつあるものの、DXに取り組んでいる企業は必ずしもうまくいっているわけではないと分析している。
「DXを実践して成果が出ている」と胸を張って言えるのはたった4.8%の企業
次に、DXへの取り組みの推進段階を見ると、「助走フェーズ」が29.4%、「構想策定フェーズ」が16.4%、「プランニングフェーズ」が11.9%で、これら実践着手前段階が過半数を占めた。これに対して実践段階に当たる、「トライアルフェーズ」は15.3%、「設計・構築フェーズ」は11.0%で、最終段階の「本格活用・展開フェーズ」まで到達しているのは16.0%だった。
「本格活用・展開フェーズ」の企業で「成果が出ている実感がある」と回答した割合は77.0%だった。ただし、「成果が出ている実感がある」と回答した企業のうち、「事前に定めた評価指標に基づいて測定した結果、成果が出ている実感がある」と回答した割合は「本格活用・展開フェーズ」にある企業の29.8%で、これはDXに取り組んでいる企業全体から見るとわずか4.8%にすぎない。
NTTデータ経営研究所ではこの結果を受けて、DXに取り組む日本企業のうち厳密な意味で客観的に成果を出しているといえるのはごくわずかで、実践着手前段階にあるDXの取り組みが実践段階に移行する中で、DXで成果を出すために今後多くの企業が新たなチャレンジに直面すると推察している。
攻めないタイプ、日本企業のDXは受け身で手軽な成果を求めがち
一方、DXの取り組みテーマを「攻めのDX」と「守りのDX」に分けると、日本企業は守りのDXに取り組んでいることが分かった。
NTTデータ経営研究所は、取り組みテーマを攻めのDXと守りのDXに分類した。具体的には、攻めのDXは「顧客を中心としたステークホルダーや自社だけでなくエコシステムを巻き込むテーマ」と定義、(1)既存の商品やサービスの高度化や提供価値向上、(2)顧客接点の抜本的改革、(3)ビジネスモデルの抜本的改革がそれに該当する。守りのDXは「自社でコントロールできる改革的なテーマ」と定義、(1)業務処理の効率化や省力化、(2)業務プロセスの抜本的改革や再設計、(3)経営データの可視化によるスピード経営や的確な意思決定がそれに該当する。
この分類を基に各企業が取り組むテーマを調べると、日本企業の守りの姿勢が如実に明らかになった。またその傾向で、成果が出ているかどうかも明らかになった。
各企業が取り組んでいるDXのテーマを調べると、最も多かったのが業務処理の効率化や省力化で、84.0%の企業が回答した(複数回答)。次いで、業務プロセスの抜本的改革や再設計が61.1%、経営データの可視化によるスピード経営や的確な意思決定が36.1%で、いずれも守りのDXだった。攻めのDXで最も回答割合が高かったのは既存の商品やサービスの高度化や提供価値向上で、34.4%だった。
これらのテーマごとに成果が出ているかどうかを調べたところ、成果が出ている割合が高かったのも守りのDXだった。成果が出ていると回答した割合が最も高かったのは業務処理の効率化や省力化で40.5%。次いで業務プロセスの抜本的改革や再設計の22.7%、顧客接点の抜本的改革の19.8%だった。NTTデータ経営研究所はこの結果について、現在の日本企業のDXは、成果の実感を得やすい「守りのDX」が先行しており、DXの本丸である「攻めのDX」への取り組みは難易度が高いことが示唆されたとしている。ただし同社は、攻めのDXであっても成果を出せる土台を有した企業が増えてくれば、今後取り組みが本格化していくと見ている。
成功企業の特徴、失敗企業と何が違うか
最後に、DXに成功した企業とそれ以外の企業の各経営基盤のスコアを比較して、まだDXに成功していない企業が今後強化していくべき変革の方向性を分析した。
その結果、今後強化していくべき項目の上位5項目は以下の通りだった。
- 【戦略】DXで何を達成するかが明確になっている
- 【戦略】状況に応じてDXの戦略や計画を適宜修正するなど柔軟に運用している
- 【組織】組織間で連携し、全体最適の取り組みを進めやすい組織構造になっている
- 【組織】DXの推進組織またはチームは関係部門を巻き込んで組織の役割を果たしている
- 【ガバナンス】各DX施策を個別施策単位ではなく、施策群として依存関係と進捗(しんちょく)を管理し、整合性をとっている
NTTデータ経営研究所は、DXで成果を上げるには【戦略】と【組織】の両面でDXに適した体制を築くことが重要だとしている。さらに、これから成果創出に向けて取り組みを加速させるDX推進企業は、【戦略】と【組織】、【ガバナンス(DX施策の群管理)】に強化の余地があり、これらの項目について客観的に評価・点検することが必要だとしている。
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