AIやRPAの台頭で従業員のスキル不足が深刻化――企業ができることは
PwCが発表した「第22回世界CEO意識調査」の結果によれば「自社の従業員に対して、業務上必須のスキルが不足していることに不安がある」と回答したCEOの割合は約8割に上った。実際にどのような悪影響が出ているのか。
AI(人工知能)やRPA(Robotic Process Automation)が業務で活用されるようになるにつれて、従業員に求められる役割や、その役割を遂行するためのスキルが変化している。その人材トレンドの変化に、企業が追随できているわけではないという事実が、PwCの「第22回世界CEO意識調査」の内容から明らかになった。なお、同調査レポートは2018年9月〜10月にかけて、世界90カ国を超える地域の約3200人のCEOにインタビューを実施した結果を基に作成された。
約8割のCEOが、従業員のスキル不足を実感
世界のCEOは、自社の従業員のスキルに対してどのような所感を持っているのだろうか。「社内人材の必須スキルの不足や欠如」が事業にとってどの程度の懸念や不安材料になるかという質問に対し、「非常に強い懸念・不安がある」または「いくばくかの懸念・不安がある」との回答が合計で79%を占めた。
同社によれば、従業員のスキル不足に対して懸念を示す割合は急増している。実際に、2013年までは50%台にとどまっていた数値が、2015年以降は70%以上に増加した。
従業員の必須スキルの欠如は、事業に悪影響を及ぼしていることも分かった。具体的には「効果的なイノベーションが創出されない」(55%)や「想定を超える人件費の増大」(同52%)、「品質水準や顧客体験への悪影響」(同47%)といった影響が出ているという(図1)。
PwCによると、人材のスキル不足に関する懸念は新技術の台頭に呼応して増しており、世界中でその状況は変わらない。中でも懸念を示す割合が高いのは日本(95%)や中欧/東欧(89%)で、イタリア(55%)やトルコ(45%)は低い。
グローバル人材よりも技術に精通した人材が欲しい
CEOが従業員に求めるスキルの種類や特性は、ここ数年で明確に変化していることも分かった。2008年に「グローバルな経験を持つ人材」が求められていたのに対し、2019年は「技術に精通した人材」の獲得が課題となっている。PwCは、イノベーティブ思考を備え、正しい戦略を策定し、事業に必要とされる最適な形でシステムやツールを活用できる人材が必要だと考察している。
CEOは、そうした人材をどのように確保しようと考えているのだろうか。「自社の潜在的なスキル不足を埋めるのに最も重要なこと」を聞いた項目では、「大規模な再教育やスキル向上」と回答した割合が46%で最も多く、次いで「他業界からの採用」(18%)、「教育機関からの強固なパイプラインの確率」(17%)と続いた。
世界経済フォーラムの試算によると、米国で新しいスキルを獲得するのにかかるコストは、1人当たり2万4000ドルだという。企業にとっては小さくない投資となるが、PwCは、必要なスキルを持った従業員を新たに採用することと比べれば、既存の従業員に新たなスキルを獲得させることは魅力的な選択肢だと指摘する。
従業員も、新たなスキルの獲得には前向きだ。PwCの調査によると、デジタルスキルの研修機会を企業が提供した場合、従業員は1カ月当たり2日間は進んで参加するという結果が得られたという。
ただし同社は、企業が提供する既存の研修プログラムの課題として「これから従業員が習得しなければならない複雑なタスクの学習に適した設計ではない」とも指摘する。
この課題を解決し、企業が従業員に新しいスキルを獲得させ、将来に向けてより柔軟性の高い人材集団を構築するためには、「デジタル世界に関する基礎的理解や能力」といった基礎能力の底上げに注力するとともに、獲得したデジタルスキルをアップデートするために、学び続ける企業文化を醸成する必要があると提言した。
さらにAIに関しては社会全体が集合体として直面している課題であるとし、試みを企業の中で閉じるのではなく、官民の垣根を越えた協働的なアプローチが必要だとする。
実際に今回の調査では「企業内でのAI(人工知能)の活用や展開」について、66%のCEOが「政府がインセンティブを提供するべき(ただし具体的な企業施策への干渉は望まない)」と答え、56%が「技術によって職を追われた就労者を守るのは政府の責任」と回答し、76%は「今後のAIの台頭が人々の仕事や社会に与える影響について、政府は国家戦略を策定すべき」とした。
今回の調査を受け、PwCは企業を率いるCEOが今後の就労市場の変化を乗り越えるために、次の5つの項目に注力する必要があると結論付ける。
- 人事関連データの分析レベルの向上
- 経営者たちは、従業員の新しいスキル獲得についての企業としての戦略と、それが各従業員にもたらす意味を明確に提示すべき
- 社外へのストーリーも企業内で働く人々へのストーリーと等しく重要
- 従業員の新しいスキルの構築はあくまでも全体ストーリーの一部
- 職場を変革していく上では、新しい職場管理に関するアプローチが必要
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- タレントマネジメントと人事管理はどう違う? 5つのサービスを比較
企業にとって永遠の大きなテーマといえる「人材の生かし方」。ビジネス環境が急速に変化する中、注目されているのが「タレントマネジメント」だ。従来型の人事管理手法とどう違うのか? タレントマネジメントシステム5選とともに紹介する。 - ジョブ型雇用とは? 今までの雇用と何が違うか、ジョブ型雇用に対応した人事ツール4選
テレワークの推進や働き方改革の進展をきっかけに、経済界からも提言が出るなど、にわかに注目されるようになった「ジョブ型雇用」。社外でも通用するエンプロイアビリティの高い人材を育成しにくいとされる従来型の雇用と、ジョブ型雇用はどう違うのか。 - 8万超の従業員情報を管理するSMBCグループ 経営戦略実現のためITを駆使した人事部の挑戦とは
ITを駆使してグループ人材の活用に取り組むSMBCグループは、国内有数規模の人材管理およびタレントマネジメント業務にクラウドサービスをいち早く採用した。8万人超の従業員を抱えるSMBCグループは新たな人事プラットフォームを導入するに当たり、新システムへの要求のハードルの高さや既存システムとの兼ね合いなどの課題をどのようにくぐり抜けたのだろうか。 - 設計、テストだけ……スキルが偏る“新卒4年目の壁”を破るエンジニア管理術
かつて、新卒採用からおよそ4年でスキルの偏りが発生していたというSI企業クロスキャットは、人材管理のやり方にメスを入れた。そのことが功を奏し、コロナ禍で集団研修といったスキルアップ研修を組まなくとも個別具体の遠隔研修実施が可能となったという。クロスキャットの人事部に話を聞いた。