ジョブ型雇用とは? 今までの雇用と何が違うか、ジョブ型雇用に対応した人事ツール4選:日本企業の人事制度はどう変わるか
テレワークの推進や働き方改革の進展をきっかけに、経済界からも提言が出るなど、にわかに注目されるようになった「ジョブ型雇用」。社外でも通用するエンプロイアビリティの高い人材を育成しにくいとされる従来型の雇用と、ジョブ型雇用はどう違うのか。
2020年1月、日本経済団体連合会(経団連)は春闘の経営側の指針として、新卒一括採用や年功序列型賃金、終身雇用制に代表される従来の「日本型雇用システム」を再検討し、自社の経営に最適な雇用システムを確立していくという方針を明らかにした。これは、会員企業に欧米型のいわゆる「ジョブ型雇用」にかじを切るよう求めたものだ。
その後の急激なテレワークへのシフトをきっかけに従業員管理の手法や事業運営の在り方を再検討する議論が進んだのと同時に、日立製作所や富士通、KDDI、資生堂など、国内大手企業が全社的にジョブ型雇用にシフトすると発表したことで、ジョブ型雇用への注目が集まっている。では具体的に「ジョブ型雇用」になると、人事管理などの業務にどんな変化があるのだろうか。マネジメントの方法や評価の手法、組織運営の在り方はどうなるだろうか。
日本型雇用形態と「ジョブ型雇用」の違いは? 仕組みと考え方をわかりやすく説明する
冒頭でも述べたように、多くの日本企業は「新卒一括採用」「終身雇用」「年功序列賃金」という3本柱の雇用形態を守ってきた。総合職という言葉に表されるように、この形態の根底にあったのは、特定の職務を限定することなく、ジョブローテーションによっていろいろな経験をさせることによって、企業が人材を一から育て上げるという前提に他ならない。このような雇用形態を「メンバーシップ型雇用」という。
それに対し、欧米で人材を採用するときは職務を限定して採用することが一般的だ。採用する人材に求められる能力や責任、役割は「職務定義書」(ジョブディスクリプション)と呼ばれる文書にまとめられ、明記されている。これを「ジョブ型雇用」という。
「ジョブ型雇用」では、職務が明確化されている分、仕事の範囲は専門的、かつ限定的になる。賃金も労働時間ではなく職務にひも付けられているため、報酬の評価も成果主義となる。
メンバーシップ型は終身雇用を前提としているため、社員は安定的な地位をある程度保証される。その半面、中途入社や転職などがしにくく、日本における人材流動性の低さの原因の1つだといわれている。
テレワークの普及とジョブ型雇用の関係は
新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、政府がテレワークを推奨したことにより、これまで遅々として進まなかったテレワーク勤務が、半ば強制的に推進されたのが2020年の春だった。2020年6月に内閣府が実施した意識調査によれば、東京23区では55%、全国でも3割以上の人がテレワークを体験したという。
急激なテレワーク化で、さまざまな課題が浮き彫りになったが、その一つが勤務時間の管理だ。
これまでテレワーク向けのソリューションとして、PCの操作状況から勤務状態を把握したり、管理者がPCのカメラで社員の勤務状態を見たりするようなシステムが提案されてきたが、そのような仕組みもなくテレワークに入った企業では、社員の自己申告によって勤務時間を管理している。つまり、出勤時のように正確に勤務時間を把握することが難しくなってしまった。
その一方で、テレワークを体験した一部の従業員の間からは「勤務時間に基づく報酬」というメンバーシップ型雇用の仕組みに疑問が生まれてきたことだ。
在宅での仕事は、従業員からすると勤務時間とプライベート時間の境目をつけにくく、管理者側からすると、労働時間を把握しにくい。同じ時間の勤務であっても個々の従業員の環境によっては「周囲に同僚がいない分、集中できるので仕事の効率がよくなる」「逆に家事などもやるので効率が悪くなる」など、オフィスで働いている時と同じ物差しで測ることに疑問が大きくなってきたからだ。
この点、ジョブ型雇用であれば、職務定義書によって求められた職務をこなせば、かけた時間にかかわらず同じ報酬を得られるので合理的だ。どのような働き方であれ、結果が同じであれば、休憩をしながら数時間掛けても、30分で終わらせてもよい。勤務時間中ずっとデスクに座っている必要もない。
テレワークのように、勤務時間とプライベート時間の区別がつきにくい環境にマッチしているのは明らかにジョブ型雇用の方だ。
ジョブ型雇用を導入するための課題とは
これまでのメンバーシップ型雇用とは対極のジョブ型雇用。「ニューノーマル(新常態)」が求められるポストコロナの時代に、果たして日本の企業での導入は進むのだろうか。それにはいくつかの課題を解決しなくてはならない。
評価方法、モチベーション管理、エンゲージメントに配慮した仕組み
ジョブ型雇用は勤続年数によらず、同じ職務をこなせれば同じ報酬が得られるようになる。裏を返せば若い社員でも与えられた職務をこなせば何十年も先輩の社員と同じ報酬を得られる。これを今までメンバーシップ型雇用を行ってきた企業が取り入れる場合、留意したいのが、従業員のモチベーション管理だ。能力のある若い社員のモチベーションが上がる一方で既存の社員が強い拒否反応を示し、能力発揮が難しくなるリスクもある。
ジョブ型雇用を導入し始めた企業には、IT技術者のような高い技能が求められる一部の職種に限って導入したり、勤務地や勤務時間を制限する「限定正社員」という仕組みを採用したりしてこの課題に対応しているところが多い。いずれにせよ、既存社員とジョブ型雇用で採用した社員のギャップをどう埋めるかで、ジョブ型雇用導入の成否は決まるだろう。
メンバーシップ型雇用を長らく続けてきた企業では、きちんと機能する「職務定義書」を作れるかも課題となる。今まで育て上げた社員が「なんとなくうまくこなしていた職務」をきっちりと定義して、求める業務内容と与える責任を明文化することは、なかなかハードルが高い。
こうした問題を解決するには、組織が従業員の能力や経験を十分に把握し、目標管理や1to1の面談などを通じて従業員とのエンゲージメントを強化し、モチベーションを維持するための仕組みを整備することが望ましい。また定期的な従業員サーベイなどを通じて組織の課題などを把握し、従業員の能力発揮を支える仕組みづくりが必要となる。従業員の経験や能力を引き出すには従来の人事管理システムだけではなく、従業員個人を把握するタレントマネジメントシステムや目標管理システムなどを上手に取り入れたい。クラウド型で利用できるツールも多いため、テレワーク中でも滞りなく利用できる点もポイントだ。
ジョブ型雇用の従業員管理を支えるHRサービス4選
SAP SuccessFactors
概要
中堅〜大企業向けERPソリューションを提供するSAPが手掛けるSaaS型の人事システム。グローバル人事を想定した機能が豊富。従業員一人一人のパフォーマンス管理や成長支援、後継者育成プログラム支援などのタレントマネジメント機能や従業員エンゲージメント管理機能「SAP Qualtrics Employee Engagement」や従業員ライフサイクル管理「SAP Qualtrics Employee Lifecycle」などを持つ。人事計画向けの機能「SAP SuccessFactors Workforce Analytics」「SAP SuccessFactors Workforce Planning」やコア人事・給与計算機能では従業員管理「SAP SuccessFactors Employee Central」、給与計算「SAP SuccessFactors Employee Central Payroll」、人事ナレッジベース「SAP SuccessFactors Employee Central Service Center」など、多岐にわたる機能がある。
プラン/価格/初期費用
個別見積もり
サービス紹介サイト
https://www.sapjp.com/hr/
提供会社
SAPジャパン株式会社
カオナビ
概要
顔写真を軸に目標管理や評価、フィードバックの情報などの人材情報を一元的に管理するクラウド人材システム。100人未満の組織から使える。「人材データベース」の他、社員情報ごとのソートや社員アンケート、組織ツリー、配置バランス図などの機能を持つ。オプションで定期的な従業員サーベイや適性検査、採用支援機能なども提供する。
プラン
人材データベースなどの基本機能のみの「データベースプラン」、従業員パフォーマンス機能が利用できる「パフォーマンスプラン」、組織配置検討などの機能を持つ「ストラテジープラン」の3つ。
価格/初期費用
個別見積もり
サービス紹介サイト
https://www.kaonavi.jp/
提供会社
カオナビ
おわりに
ここまで見てきたように、メンバーシップ型雇用を続けてきた企業がジョブ型雇用に切り替える過程には幾つかの障壁がある。だが市場の変化に対応するには、従業員の能力を生かし、機動力と生産性の高い組織を目指す必要がある。思いがけず直面した新常態のワークスタイル模索がジョブ型雇用を導入する契機となるかもしれない。
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