Excelの利用状況(2020年)/後編
「この業務をこなすなら本当にぴったりはまる運命のツールではないのに、使ってしまう……」――予算の都合などでシステム化できない領域を支えてきたツールとしてのExcelの功績は大きい。だが「Excelロックイン」状態に苦慮してきた企業を中心に最近は状況が変化してきたようだ。
キーマンズネットは2020年1月10〜27日にわたり、「Microsoft Excelの利用状況」について調査を実施した。全回答者数205人のうち事業部門は44.4%、情報システム部門は32.7%、事業部門が40.9%、管理部門が16.6%、経営者・経営企画部門が6.3%といった内訳だった。
今回は「Microsoft Excel」(以降、Excel)について、他ツールへの置き換え状況などを調査した。前編で紹介した通り、Excelは回答者全体の98.5%とほぼ全ての企業が使っている状況であると同時に、約6割が利用に際して課題を持つことが明らかになった。そこで後編の本稿ではExcelに対する課題とその対応状況を見ていく。Excelにロックインされたかのような企業の声もあるが、代替ツールの発展で状況は変わりつつあるようだ。
なお、グラフ内で使用している合計値と合計欄の値が丸め誤差により一致しない場合があるので、事前にご了承いただきたい。
定番の「マクロ問題」の本質、「マクロ以外の不満」登場に見る環境の変化
まず、Excel利用者はどこに不満を持っているのだろうか。多くの読者が想像する通り、過去の調査でもやり玉に挙がることが多かった「マクロ」の問題は今回もやはり多く挙がった。
マクロに関する問題は今に始まったものではなく、マクロ機能の登場とともに長年語られてきたものだ。マクロは個人で利用する分には何の問題もなく、作業の効率化を図る道具としては大変優れた機能であることに変わりはない。だが個人のスキルに依存した非常に凝ったマクロプログラムを、複数人が共有するような業務用のスプレッドシートで展開したり、引き継ぎが必要な業務で引き継ぎ資料もなく利用できてしまうことに、問題の本質がある。
「マクロにより作成されたシステムが、作成者以外だと改修しづらい」や「知識がないとマクロ(開発機能)が使えない」といったVBAで作成されたプログラムに関する不満はこうした問題によるものだろう。
SaaS版利用者の意見も散見されるようになった点は今回の調査の特徴と言えるだろう。「起動が遅い」(Office 365利用者)といったクラウド版Officeへの不満も上がる。インターネットへのセッションが膨大になったことから通信負荷を低減すべく各社さまざまなソリューションを展開する。例えばインターネットブレークアウトのような手法が注目を集める。この他、「SaaSの自動保存の概念に付いていけない人が出てきた」との意見もあった。
「バージョン変更で各コマンドの位置や使い方が変わってしまった」と、バージョンアップに伴う学習コストの負担を嫌う声も散見された。
「Excelロックイン企業」を脱出できるか? 4割が脱出を実施・検討
さて多くの不満が寄せられるExcel。こんなにも課題があるならば、できるだけExcelを使わない業務を目指したいところだ。
調査ではExcelから他ツールに置き換えを検討した企業がどれくらいいるかを尋ねた。その結果、「置き換えたことはない」が55.9%、「置き換えたことがある」が32.7%、「今後、置き換える予定」が8.4%、「置き換えたが機能せずExcelに戻った」が3.0%と続き、まとめると全体の41.1%が他ツールへの置き換えを実施または検討していることが分かった(図1)。
「Excelロックイン企業」脱出方法は? やっとITの恩恵を受けられる現場
ではExcelの置き換え先はどういったものを選定しているだろうか。置き換えを実施・検討しているとした回答者に、具体的な検討ツールを聞いた。その結果は課題に対して非常に健全な選択肢が上がったように見受けられる。
「BIツール」「Microsoft Access」が同率で33.3%と最も多く、次いで「プロジェクト管理ツール」22.2%、「G-Suiteなどの類似のクラウドサービス(Googleスプレッドシートなど)」20.8%、「帳票作成ツール」が18.1%と続きいた(図2)。
これを前項で触れたExcelを利用している業務で上位であった帳票や見積作成、分析・レポーティングにガントチャート作成といった業務と対応させてみると、それぞれ「帳票作成ツール」「BI、セルフサービスBIツール」「プロジェクト管理ツール」といった専門ツールに移行したものと推察できる。
過去Excelはマクロの柔軟性の高さから、ツールを導入できない業務を自助努力で効率化するためのツールとして利用されるケースが少なくなかった。本来の機能である表計算ではない利用のされ方をした結果が、本稿冒頭にあるようなマクロへの不満につながったものと考えられる。
現在は各種業務向けに部門予算で利用できるSaaSも多くあり、予算の問題からExcelマクロを駆使する必要のない業務が増えてきたことの表れと言えるだろう。ようやく現場の細かな仕事がITの効率化の恩恵を受けられる状況が来たとも言えそうだ。
この他「Microsoft Access」を挙げる企業も約3割あった。こちらはExcelとの互換性やデータベース構築の柔軟性、レポーティング機能などExcelでは処理しづらい業務を移行しているものと考えられる。
それでもExcelを使い続ける「Excelロックイン」企業の心中は
前項で他ツールに「置き換えたことはない」や「置き換えたが機能せずExcelに戻った」と回答した方が約6割存在したが、なぜExcelを他ツールに置き換えないのだろうか。その理由を聞いたところ1位は「現状で満足している」45.1%、2位は「何に置き換えていいか分からない」38.9%、3位は「費用対効果が測れない」30.1%、4位は「現場の運用を変えることに手間がかかる、現場からの反対が多い」23.0%、5位は同率で「Excel化されたデータの整理ができない」「予算がない」が20.4%と続いた(図3)。
現状で満足している方を除くと、移行先のツール選定や移行することで現場の運用変更が生じ負荷がかかるといった理由が多いようだ。また移行しようにも現状のExcel化されたデータの整理に難航したり、導入することによる費用対効果を算定できないなどといった声も理由として挙げられた。どれも多くの企業で良く聞かれる課題だ。
昨今“脱Excel”といった強いキーワードが先行しており、ともすると全ての業務で利用されているExcelを完全に無くすことを指すように捉えられるケースも少なくない。しかし現実的に考えると業務上Excelを利用していることでボトルネックとなっている業務から優先に他ツールに移行すれば良いだけであり、Excel運用でうまく機能している業務についてすぐに着手する必要性はない。大事なのは自社のどの業務でどのようにExcelが利用されているのかを現状を知ることで、状況に応じて費用対効果を算出し、現場とよくコミュニケーションを取りながらツール選択を行うことだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ITリテラシが高いはずの若手がハマる「働き方改悪」、脳機能から見る組織の課題とは
ソフトウェア市場の拡大により、経費精算など特定の業務に特化した業務用アプリケーションが多数登場している。中には、会議室を予約するためだけのアプリケーションなどもある。ツールが分散した結果、業務を阻害している可能性もあるようだ。 - 3ステップで「脱Excel」 誰でもマネできる業務アプリを最短距離で作る方法
現場の悩みの一つがExcelによる情報管理。管理者依存、マクロ地獄……万能なツールではあるが、厄介な側面もある。Excelに任せてきた業務を効率化するにはどうすれば良いか。業務改善のプロが今日から始められる簡単カイゼン術を紹介する。 - 大規模製品開発プロジェクトの脱Excel管理術とは?
納期がタイト、関係組織が多数……。大規模な製品開発プロジェクトでは自部門の作業であってもExcel管理では間に合わない。 - 0円で脱Excel、400台の“PC管理地獄”から抜け出した情シスの物語
たった3人で400台のPCを管理していた映像センター。Excelでの管理は煩雑で精度も高くない。この状況を0円で脱したという。果たしてどうやって?