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テレワーク環境の整備状況(2020年)/前編

有事の事業継続のために、あるいは公共衛生のために、従業員がオフィスに出勤せずに業務を遂行する際に有効とされる「テレワーク」。日本国内での感染症り患者の拡大を受けて多くの企業が対応に追われているところだが、実際にどの程度の環境が整備できているのだろうか。アンケートで生の声を集めた。

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 キーマンズネットは2020年2月7〜21日にわたり「テレワーク環境の整備状況」に関する調査を実施した。全回答者数113人のうち、事業部門が49.6%、情報システム部門が33.6%、管理部門が13.3%、経営者・経営企画部門が3.5%といった内訳であった。

 今回は、有事の際の「行動計画の有無」や「テレワーク実施状況」、テレワークテストの「実施有無」に「実施期間」などの調査結果を紹介する。なお、グラフ内で使用している合計値と合計欄の値が丸め誤差により一致しない場合があるので、事前にご了承いただきたい。

「有事の行動計画があり、従業員も理解している」はたった4割

 日本国内での感染症り患者の拡大を受け、全国的に外出や集会を控えるように呼びかけられた。これを機に在宅勤務や時差出勤などの対応に追われた企業も少なくないだろう。

 災害時や伝染病流行時などの有事の際、事業や従業員を守る「行動計画」が事前に立てられているかどうかは企業対応の初動に大きく影響が出るところだ。

 そこで調査では緊急時の行動計画を策定しているか、行動計画を正しく理解できているかを聞いた。

 行動計画が「ない」「分からない」とした回答は26.6%だった。それ以外の7割の企業では行動計画が「ある」ことが分かった。ただし「ある」と回答した中でも、行動計画があることは知っているが「詳細は理解していない」とする回答者が半数近くに上った。実際に行動計画を策定そ、かつ従業員が詳細を理解できている状態にあるのは企業は全体の4割ほどと見られる(図1)。

災害発生時や伝染病流行時の行動計画の有無
図1 災害発生時や伝染病流行時の行動計画の有無

 具体的な事業継続計画としては「在宅勤務や自宅待機時の就業規則の策定」60.2%、「在宅勤務向けの環境整備」54.2%といった在宅勤務の体制構築から着手している企業が多い(図1)。一方、感染症などで業務にあたる人員の縮小時のリカバリー策として有効な「複数業務習得」(クロストレーニング)や「複数班による交代勤務体制」を整備・実施できている企業はごくわずかだった。

事業継続計画に関連する対策の実施状況
図2 事業継続計画に関連する対策の実施状況

7割の企業が環境を整備も全社訓練の経験は過半数がなし

 有事の在宅勤務体制構築に着手する企業が多いことが分かったが、テレワークについてはどの程度の体制が整っているだろうか。今回の調査では、69.0%と全体の約7割の企業がテレワークが実施できる体制を構築していることが分かった。

 テレワークの実施範囲としては「申請すれば実施できるが適用は限定的」が19.5%と「申請すれば誰でも実施できる」17.7%を抑えてわずかながら最多となった。申請の有無を除いて全体を見ても、テレワークを誰もが実施できるとした割合は33.6%にとどまった。一方、部門や職種の制約によってテレワークを実施できる範囲が限定的とした回答は合わせて35.4%だった。

 では事前にテレワークの実施訓練はどの程度できているだろうか。

 調査では回答者の過半数が「全社でのテストは実施経験がない」と回答する結果となった。

 訓練経験のある方からは「“テレワークデイ”などに合わせて全社で実施」「机上シミュレーションのみ」「自社で独自に全社テレワークをテストしている」などの回答が続いた。

 テストを実施した経験がある企業によると、テレワークテストの実施期間は「1週間程度」が26.1%で最多となった。次点で「1日未満」が21.7%だった。企業の規模や業態などによって、また従業員のセキュリティやITリテラシーの高さによって実施期間は三種三様変わってくるのだろう。

 調査ではこの他、自宅以外の拠点や国内外のリゾート地に拠点を構えて仕事をすることで仕事と休暇の両立ができると昨今注目の「ワーケーション」についての関心度合いを調査した。

 ワーケーションを「既に実施している」「関心がある」が合わせて43.5%と一定の興味・関心が確認できた。半面「勤務先が環境を提供しても試すつもりはない」といった意見も32.6%と同程度の回答を集めておりワーケーションについてはまだ賛否が分かれる状況にあることが分かった。

テレワーク実施状況
図3 テレワーク実施状況

テレワークを試して分かった“3つ”の課題……環境、コミュニケーション、自己管理

 テレワークテストを実施したことがある方を対象に、実際に体験してみて感じた課題や感想についてフリーコメントで回答してもらったところ、大きく分けて3つの課題が浮かび上がった。

 1つ目はテレワーク時の「自宅環境」に関する課題だ。

 仮想デスクトップ(VDI)を利用するケースで特徴的なのが、レスポンスの問題だ。起動時の負荷や通信帯域の問題などが挙げられた。この他にもVPN接続などを利用する場合にも通信環境に問題があり、職場と同等の業務を実施できないという声もあった。他にも、自宅のPC利用環境が不十分で支障が出る、という意見も多かった。

 意外だったのが、「在宅環境のモニター画面大きさに難がある」「自宅では印刷ができない」といったハード面での業務制限を指摘する声が多かったことだ。スプレッドシートや業務アプリ操作など、複数のディスプレイを使いたい作業について自宅の個人的な設備だけでは対応しにくいケースがあるようだ。

 他にもPCや机や椅子、あるいは暖房光熱費など、長時間業務を遂行できるだけの設備が自宅になく、個人的に調達する必要がある点を危惧する声も寄せられた。

 2つ目はテレワーク時の「コミュニケーション」に関する課題だ。

 「社内と在宅の円滑なコミュニケーションが課題」「テレワークを好まない層とのコミュニケーションがとりづらい」「リモートでの対応には限界があるため、社内にいるメンバーとの協力が必要」などの意見だ。

 中には「まだ顔を合わせることが前提の打ち合せや会議がある」「仕事は事務所でするべきとの古い考え方が支配的な職場が少なくない」など完全にテレワークに移行しきれていないケースも見受けられ、実施にあたってコミュニケーション相手との関係性や調整が必要なケースがまだまだ多いようだ。

 3つ目は「テレワーク時の自己管理」の課題だ。

 「環境によっては自分の集中力がもたない」「オフィスの方が仕事がはかどる」「仕事と私用のメリハリを自主的にコントロールする必要があるため、注意しないとだらだら作業になる」といった課題感だ。

 

 一部で在宅勤務を「私用時間中に業務のアイデアをひらめきくようなよい効果もある」と評価する声もあったが、総じて自宅から環境を変えることで「仕事モード」に気持ちを切り替えられたり、業務をしている他者に囲まれることにより自身もメリハリをもって業務に集中することができるといったオフィスのメリットが失われる点を危惧する声が多かった。

 テレワーク環境の整備は多くの企業が実施している状況だが、本格運用に際して発生するであろう課題についての対策はまだ多くの企業が解決できていない状況であることが分かる。それでも、有事の際の事業継続を鑑みるとテレワーク環境や組織的な体制の整備は必至であり、現場の声を取り入れながら早期に対応していくことは無駄にはならないだろう。

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