テレワーク環境の整備状況(2020年)/後編
防疫などを理由に全国の企業がかつてない規模で従業員のテレワークを実施しつつある。体験者に「現時点でのテレワーク業務の課題」を聞いてみたところ、設備やルール以外に、予想外の問題が生じていることが分かった。
キーマンズネットは2020年2月7〜21日にわたり「テレワーク環境の整備状況」に関する調査を実施した。全回答者数113人のうち、事業部門が49.6%、情報システム部門が33.6%、管理部門が13.3%、経営者・経営企画部門が3.5%といった内訳だった。
前編では全体の約7割でテレワーク環境が整備されていることを取り上げた。だがその内訳をみると全社員が申請なしで“自由に実施できる”とした回答は15.9%にとどまった一方、部門や職種などによる制約があり、実施できる範囲が「限定的」とした割合は35.4%にのぼった。また、「テレワークテストの実施体験がある」とした回答者を対象に、「実際にテレワークを実施して理解した課題は何か」を尋ねたところ、テレワーク時の作業環境に課題があるとする意見が多数寄せられた。そこで、後編の今回はまず「業務で利用するデバイス」と「自宅で利用するデバイス」がどの程度違うかを確認。テレワーク実施時に使われることの多いコミュニケーションツール類がどの程度使われているかを確認した。また、テレワーク経験者の方には、ご自身の環境における現時点でのテレワーク業務の課題がどこにあるのかを聞いている。今回の結果からは、設備やルール以外にも、テレワークによる円滑な業務遂行の障壁となり得る課題が見える結果となった。
なお、グラフ内で使用している合計値と合計欄の値が丸め誤差により一致しない場合があるので、事前にご了承いただきたい。
自宅にテレワークができる環境があるとは限らない
今回の調査では「そもそも自宅に業務を実施できる環境があるのか」を確認すべく、オフィスだけでなく自宅で利用できるデバイスの種類を聞いた。
業務で利用する環境は調査前の想定通りノートCPの割合が高い結果となったが、デスクトップPCの利用も一定数存在することが分かった。自宅で利用するデバイスではノートPCやタブレットデバイスが多く、自宅にPC環境を持たない回答者もいた。
業務内容によってはそもそもテレワークができる環境が自宅に準備できないケースがあるようで、このような背景も一要因となりテレワークの適用範囲は制限せざるを得ないのだろう。
この他、フリーコメントで寄せられた意見としては、業務端末をデスクトプPCからノートPCに入れ替え切れっておらず、個人利用のPCを持たないため、自宅で業務を追行する環境がそもそもない、とする意見もあった。PCの持ち帰りやBYODがそもそも成立しない環境のため、限られた範囲でしかテレワークが実現しないという状況もあるようだ。
テレワーク支援ツールは何が使われているか
テレワーク実施に当たり、最も多く聞かれるのはコミュニケーション面での懸念だろう。チームメンバーや上司と物理的に距離が離れることで、ちょっとした質問や確認がしづらくなったり、認識の食い違いが出やすくなりはしないか、などの不安は従業員規模や業種、職種を問わず聞く問題だ。こうしたコミュニケーションの課題を解決するテレワーク支援ツール類はどの程度普及しただろうか。
Web会議やビジネスチャット、プロジェクト管理ツールなどのITをチームにうまく取り入れることで、コミュニケーションを円滑にし、物理的なハードルを越えて生産性を向上させるに至った事例も多い。
実際にどのようなツールをテレワークに利用しているかを、複数回答で聞いてみたところ、「Web会議ツール」が63.7%と最も利用率が高い結果となった。次いで「ビジネスチャットツール」が57.5%、「執務環境へのVPN接続」と「リモートデスクトップ」が同率で43.4%、「クラウドストレージ」が36.3%と続いた。
Web会議やビジネスチャットといったコミュニケーションツールの活用が多く、次点でVPN接続やリモートデスクトップなど個人でリモートワークを行う際の効率アップに効果的なツールが挙げられた。プロジェクトなど複数人で業務を進める際に効果的なファイルや文書の共有、スケジュールや納品物の管理を実現するクラウドストレージやプロジェクト管理ツールについては、意外と利用割合が高くはなかった。
「なんであいつだけが……」やってみて分かったテレワークの問題点
最後に自社のテレワーク実施状況についての課題をフリーコメントで聞いているので紹介したい。
接続可能なPC台数が足りない、申請が追い付かない……設備や環境が不十分とする意見
まず多かったのがインフラの整備状況についての課題だ。
「営業部門以外はデスクトップPCを主に利用しているため、モバイル機器への入替えが必要」「テレワーク可能なPCなどの台数が限定されているなど、インフラ基盤が貧弱」といったテレワーク向けのデバイスやインフラの整備が整っていない状況にある点を課題とする意見だ。
Web会議ツールは多くの企業で利用が進んでおり、社内同士の会議では比較的スムーズに運用できているようだが、外部との会議となると安定しないケースもあるようだ。「社内のシステム共通化はできているが、協力会社や提携先とのWeb会議で接続の問題が起きやすい」といった問題を挙げる意見もあった。
テレワークを実施する際は、社内システムにアクセスが集中することもあるが、さまざまなSaaSアプリを多数の従業員が利用することも問題となりやすい。「オンラインストレージへのアクセスに耐えうるネットワーク帯域の確保」といったネットワークやレスポンス面でも整備が追い付いていない点を課題に挙げる声も目立った。
この他、昨今の感染症拡大の阻止を目的として全国の企業がかつてない規模でテレワークを実施する状況があるが、これを契機にテレワークを体験した方々からは、オフィスと同等の作業環境が実現できない点を課題とする意見が多く寄せられた。
長時間のデスクワークに耐える机と椅子、Web会議ツールを使いながら業務を遂行するためのサブモニターの必要性などだ。昨今、ペーパーレスが推奨されてはいるが、印刷しなければならない書類はゼロではないため、自宅に印刷環境がないことも、スムーズな業務遂行の障害となっているようだ。
設備はあれどルールが追い付かない、業務が回らない
これらの意見とは逆に、インフラや設備は十分だが、「ルール作りが全く進んでいない」という問題を挙げる声も複数寄せられた。特に遠隔での業務の進捗管理やテレワーク中のデバイス管理の方法が確立していない、という意見もあった。
また、そもそも家族がいるプライベート空間である自宅が執務環境としては好ましくないとする意見も複数あった。「やはり職場で働いた方が集中しやすく、作業がはかどる」という意見だ。
この他、「多忙なためオフィスで利用するPCを持ち帰りたいが、持ち帰り申請のワークフローが煩雑で実ニーズに追いつかない」という意見もあった。
テレワーク設備もルールも整った企業が抱える「不公平」感という闇
インフラやルールが整備されている企業からは、別の課題が挙がる。
「社員にノートPCや携帯電話を配布したり、リモートで会社のサーバにアクセスでき、自宅や外出先などで業務を遂行する技術的環境はあるが、社員のテレワーク取り組みに対する意識が浸透していない」といった、インフラは整備されているものの利用者側に活用意識が浸透していないという、ある種「ぜいたく」な悩みを抱える意見ももちろんあった。
しかし、より大きな組織の問題があぶりだされたケースもある。雇用契約の種類によってテレワーク労働の可否が変わる企業の場合は、有事にテレワーク推奨となった場合にも出勤しなければならない人が出てくることから、「契約上テレワークを実施できない人員がいることによる不公平感の打開」が課題だとする意見が寄せられた。同じような不公平を訴える意見は業務内容によってテレワークが不可能な部門からも寄せられるようだ。
また、替えがきかない業務のため、やむなくテレワークするケースも少なくないようで「個々の担当者がクリティカルパスになる業務を遅延させない意図で使われる状況がほとんど。働きかた改革のうたい文句とは大きく異なる」と、業務の負荷分散が進まない状況がテレワーク実施の理由になっているとの意見もあった。
今回の調査では、過半数の企業でテレワークを実施する環境の整備が進められているものの、実施に際しては適用範囲や運用ルール面で課題が残さる状況が明らかになった。大規模災害や感染症の流行などの事態に備えるためにも、あらためて、自社のテレワーク環境の整備状況を見直す必要がありそうだ。
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