API連携、電子決済代行……FinTechと金融業界DX現在地点
銀行オープンAPIや電代業者について法的に定める改正銀行法施行から2年経過を前に、金融業界とFinTech市場の動きが顕著になりはじめた。
2018年6月施行の改正銀行法により、預金者である顧客側から銀行口座にアクセスし、決済指図や口座情報取得といったサービスを提供する電子決済代行業者(以下、電代業者)が法的に定められた。2020年6月には、同法施行から2年を迎え、家計簿アプリや会計サービスといった参照系のサービスは、本年5月末が銀行と電代業者の契約締結猶予期限となる。金融庁によると、2020年3月6日時点での登録業者は72社となった。
同法では、もう一方の重要な柱として国内金融機関の「銀行オープンAPI」に関する努力義務も制度化された。
銀行オープンAPIの取り組みは「オープンバンキング」の主翼を担う。APIを用いることで銀行内の融資情報といったデータを他企業のアプリケーションと連携でき、取引や融資といった決済高度化や銀行内の業務効率化などが可能とされている。ちなみにオープンバンキングは、銀行が金融機関以外のサードパーティーと協業し、新たなサービスの展開を進めることを指す。
オープンAPIの取り組みが、業種問わずデジタルトランスフォーメーション(DX)推進に一役買っていることは自明だ。総務省の情報通信白書(2018年版)では下記のように言及されている。
企業が自社サービスのAPIを公開することによって、オープンイノベーションの促進や既存ビジネスの拡大、サービス開発効率化といった効果がある。特に外部知見の導入によるオープンイノベーションの促進や、リーチできる顧客層や収益源の拡大によるビジネスチャンスの拡大等のメリットが大きい。
金融業界のDX推進では先述した電代業者をはじめ、銀行業務に特化した業務効率化サービスを提供するFinTech企業などの活躍が期待される。業界のデジタル化が進むとともに、国内FinTech市場の動きも加速してきた。
直近の代表的な例としては、福岡銀行などをグループ傘下に抱えるふくおかフィナンシャルグループとNECの協業だ。内閣府の「マイナポータルAPI」を用いて個人融資に必要な情報をオンラインで取得し、ローン申し込み手続きを効率化する実証実験が始まった。
また、電代業者の取り組みとしては、クラウド会計ソフトなどを提供するfreeeが金融機関向けのオープンAPIに関する説明会を開き、地方銀行と協業して中小企業の経営改革に乗り出すことを表明したことも記憶に新しい。
さらに、米地方銀行LiveOakから独立したnCinoは2019年11月に日本法人となるエヌシーノを設立した。同社は、Salesforceプラットフォームを基盤に金融機関に特化したクラウド型プラットフォームを提供する。同プラットフォームは、世界各地で大手銀行含む280件以上の銀行で導入されている。今後、日本ではメガバンクや大手地方銀行ほど容易にIT投資ができない中小規模の銀行を中心にマーケットを展開していくという。
改正銀行法施行から2年を目前に、動きが顕著となりはじめた金融業界とFinTech市場。今後の動向に注目したい。
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