テレワーク実施率、4月に急増も事業への影響は甚大、生産性低下を危惧する声も――最新調査
NTTデータ経営研究所の調査によると、多くの企業が新型コロナウイルス感染症対策を実施していることが分かった。テレワークの実施率は、2020年4月以降に急増したが、全体から見るとまだ低く、人と人との接触を8割減らすとの政府の要請には程遠い。
NTTデータ経営研究所は2020年4月20日、「緊急調査:パンデミック(新型コロナウイルス対策)と働き方に関する調査」の結果を発表した。NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューションが提供する「NTTコム リサーチ」の登録モニターを対象に、緊急事態宣言が発令された同年4月7〜10日に実施した(オンラインアンケート、有効回答数:1158件)。調査対象は従業員規模10人以上、経営者・役員を含む正社員かつ20歳以上のホワイトカラー職。調査に当たっては男女比、役職者と一般社員の割合は均等になるようサンプルをとった。
個人の対策は進むが、テレワークなどの業務の対策は大きな遅れ
今回の調査では、企業の新型コロナウイルス感染症対策や業務への影響と、テレワークへの取り組み状況やその課題を調べた。
まず、多くの企業が新型コロナウイルス感染症対策を実施していることが分かった。具体的には、手洗いやうがい、マスク着用といった衛生対策を実施している企業の割合は81.8%、発熱や咳など体調不良時の対応方法を周知している企業も60.8%に及んだ。
一方で、完全在宅勤務を実施している企業の割合は10.1%、時差出勤の許可や奨励を行っている企業は34.7%にすぎなかった。特別な取り組みを行っていないと回答した企業も10.0%あった。
3割の企業で売り上げ減、企業活動への影響度合い
業務や関連する企業活動への影響は大きかった。売り上げが減少したと回答した企業の割合は30.7%に上った。会議や業務上のイベントを中止または延期した企業は48.5%、国内外への出張を中止または延期した企業は47.3%、歓送迎会などを中止または延期した企業は43.9%に及ぶ。職場のコミュニケーションがとれなくなっていると回答した企業も16.8%あった。これに対して業務への影響がないと回答した企業の割合は14.7%にすぎなかった。
テレワーク実施状況は4月初旬で39.1%で急増、100人以下の組織での普及が目立つ
次にテレワークについて見ると、実施している企業の割合は39.1%。2020年1月時点(18.4%)の2倍以上に増えた。企業規模別に見ると、従業員が1000人以上の企業でテレワークを実施している割合は61.7%なのに対して、100人以上1000人未満の企業では35.1%、100人未満では22.2%だった。ただし、100人未満の企業でテレワークを実施している企業の割合は、2020年1月時点から3倍に増えている。
テレワークの頻度について、「ほぼ毎日実施している」と回答した割合は、テレワークを実施している企業の31.6%だった。NTTデータ経営研究所によると、これは2020年1月時点の約12倍に相当する。「週3〜4回実施している」は19.6%で、週3回以上テレワークを実施している割合が半数を超えていた。ただし、全体から見ると、テレワークを実施している割合はそれほど高くない。週3回以上実施している割合は全体の20.0%、東京都に居住している人に限っても36.5%にすぎない。NTTデータ経営研究所では、人と人との接触を8割減らすとの政府の要請には程遠いと分析している。
「テレワークで問題なし」はたった6.6%、急ごしらえの対応で生産性ダウンも
次にテレワークを実施する「場所」を問う設問では、急なテレワークに対応しきれず通勤時と同等の業務をこなせない状況を抱える従業員の課題が明らかになった。
テレワークを実施する場所を見ると、ほとんどが自宅だったが、自宅以外で実施していた割合は11.9%。これらの人は、専用型や共用型のサテライトオフィス、カフェ、知人宅を利用していた。テレワークを自宅以外で実施する理由としては、「自宅で仕事をする習慣がない」と回答した割合が最も高く30.4%を占めた。次いで、「自宅に仕事をするスペースがない」(26.8%)や「騒音や子どもの声などがあり、集中できない」(17.9%)、「自宅にWi-Fi環境がない」(14.3%)との回答が挙がった。
テレワークの課題としては、「自分で自分の時間を管理すること」と回答した割合が42.8%で最も高かった。次いで、「仕事とプライベートの区別がつかないこと」(40.4%)、「運動不足になること」(38.4%)、「上司・部下・同僚とコミュニケーションがとりにくいこと」(37.7%)、「テレワークでできる仕事には限界があること」(34.2%)、「職場の様子が分からないこと」(31.6%)、「社内の情報が確認しづらいこと」(30.0%)が続いた。「特に課題や難しいことはない」と回答した割合は6.6%だった。
収束後も過半数の回答者が「テレワークを継続したい」
新型コロナウイルス感染症が終息した後の、テレワークを継続する意向は分かれた。継続したいと回答した割合は52.8%。それに対して継続したくないと回答した割合は34.2%だった。
継続したい理由としては、「通勤時間や移動時間を削減できること」を挙げた割合が最も高く79.9%に上った。次いで、「自由に使える時間が増える」(30.1%)、「業務効率が高まる」(29.3%)、「オフィスで仕事をするよりも集中できる」(28.5%)が続いた。
これに対して継続したくない理由としては、「テレワークでできる仕事には限界があること」(40.6%)や、「上司・部下・同僚とコミュニケーションがとりにくいこと」(40.0%)、「仕事とプライベートの区別がつかないこと」(38.7%)、「社内の情報が確認しづらいこと」(34.8%)、「運動不足になること」(33.5%)や「職場の様子が分からない」(31.6%)などが挙がった。
こうした調査結果を受けてNTTデータ経営研究所では、テレワークに取り組んでいる企業も取り組んでいない企業も、課題として「テレワークで実施できる業務に限界がある」ことを挙げているが、新型コロナウイルス感染症を終息させるために「人と人との接触を8割削減」するには、テレワークで業務を遂行できるように工夫することが一層求められているとしている。そして、テレワークで実施できない業務は、中止や延期といった経営者の英断と、サービスの提供を受ける発注者側の理解が重要だと指摘した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 都内企業のテレワーク実施率は26%、実施率を押し下げた業種と実施障壁、具体的な支援策は
東京23区内企業のテレワーク実施率は数パーセントということはないようだ。東京商工会議所が2020年3月に実施した調査からは「そこまで悪くはない」と思わされる情報が見えてきた。支援策の情報ポータルを拡充し、制度作りや従業員教育などを支援する計画もあるという。 - テレワーク環境の整備状況(2020年)/前編
有事の事業継続のために、あるいは公共衛生のために、従業員がオフィスに出勤せずに業務を遂行する際に有効とされる「テレワーク」。日本国内での感染症り患者の拡大を受けて多くの企業が対応に追われているところだが、実際にどの程度の環境が整備できているのだろうか。アンケートで生の声を集めた。 - テレワークとは? 導入の仕方、選び方、メリット・デメリットを解説
多様な働き方を許容したり、あるいは災害など通勤しての就労が難しい場合の事業継続性を維持するツールとしても注目されるテレワーク。導入するにはどういう手順が必要だろうか。また道具の選択肢にはどういったものがあるだろうか。 - 「財務部長が決死の覚悟で出社」もあり得る状況、緊急事態のテレワークがあぶり出した企業の明暗
世界的な感染症の流行により経済の停滞が懸念されるが、日本の企業の状況はどうだろうか。財務経理、管理部門では、事業の停滞や資金繰りの懸念だけでなく、押印のために出社するリスクも出てきているようだ。