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新型コロナ発生時、マイクロソフトはどう動いたのか?

日本マイクロソフトは、COVID-19への対応として3つのテーマ掲げ、徹底した対策を実行したという。エヴァンジェリストがコロナ発生当時の対応について語った。

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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行で人々は働き方をシフトせざるを得ない状況となったが、中には新しい働き方にうまく順応できず、生産性の低下に悩む企業もある。こうした状況にどう対応すればいいのか。日本マイクロソフトの西脇資哲氏(業務執行役員 エバンジェリスト)は、COVID-19が流行した直後の同社における対応と働き方の変化を説明しながら、ニューノーマル時代のワークスタイルの在り方について語った。

本稿は、中小企業の働き方改革推進担当者に向けた「UCHIDAビジネスITオンラインセミナー」(主催:内田洋行)における日本マイクロソフトの西脇資哲氏による講演「この状況下で日本マイクロソフトはどうやって働いているのか?」を基に、編集部で再構成した。


Microsoftが提唱、COVID-19に対する3つのテーマ

 日本マイクロソフトはこれまで、働き方改革を率先して実施してきた。また、西脇氏自身の社歴は10年を超え、そうした取り組みを幾つも体験してきた。西脇氏は「日本マイクロソフトがどんな取り組みをしているのか、そのノウハウを盗んでいただきたい」と話を切り出した。

 西脇氏はまず、新型コロナウイルス感染症が同社の働き方に与えた影響について、Microsoft本社の敷地内をドローンで空撮した映像を紹介しながら語った。ビジネスタイムでも敷地内に人がおらず、自動車や自転車、バイクなども一切走っていない様子を示しながら、テレワークに完全移行したと解説した。

 「COVID-19への対応として、Microsoftでは『喫緊の状況への対処』(RESPOND)、『復活のための計画立案』(REBOUND/RECOVER)、『ニューノーマルを形成する』(REIMAGINE)という3つの取り組みを進めています。例えば、COVID-19対策のためにクラウドのリソースを提供したり、米州政府と地方自治体向けにCOVID-19を追跡するためのBIツールを提供したりしています」(西脇氏)

RESPOND(喫緊の状況に対処) 複数の変動要素を備えた緊急課題に迅速に対応し、安全かつ迅速に業務を継続する。
REBOUND/RECOVER(復活のための計画立案) あらゆるシャットダウンや経済的な影響から立ち直り、経済を再開させ、複数の重要な影響を統合して事業規模を迅速に回復させる。
REIMAGINE(ニューノーマルの形成) リセットされた目標のためのシステム、構造、人々の優先順位を再考し、配置、ニューノーマルの中での復活を構築する。

 日本国内でも、同社は内閣府と協定を締結し、官民が連係して感染症対策を実施できる体制を整えた。また、一般企業向けにリモートでの教育プログラムのサポートや教育機関向けにオンライン卒業式やリモート授業の支援などを進めている。


マイクロソフトの企業ミッション(資料提供:内田洋行)

中途半端な対策は無意味、徹底した対策へのシフト

 次に、日本マイクロソフトは現在、6つのステージで働き方を管理していることを紹介した。これは、世界各国のオフィスに対して統一の基準を設け、その基準にあわせて、従業員がどのような働き方が可能かを決めるというものだ。

 「『ステージ1』は完全にオフィスを閉鎖した状態です。事態が改善すればステージが上がり、悪化すればステージが下がります。出社の判断を組織が曖昧(あいまい)にすると中途半端な対策になりがちですが、ルールを明確に定めて、集中管理することで、徹底できます。日本マイクロソフトのオフィスは現在『ステージ4』です」(西脇氏)


Microsoftアジア拠点におけるステージ状況(資料提供:内田洋行)

 ステージ4は「ソフトオープン」という状態だ。これは、出社してもいいが、勤務する義務は発生しない状態だという。オフィスビルに入館する際は、COVID-19のヘルスチェックをして証明書を受け取る必要がある。ヘルスチェックはスマートフォンででき、証明書の有効期限は1日限りだ。もし、証明書を受け取らずにオフィスに入館してしまったら、入館禁止措置となり、二度とオフィスに入れなくなる。また、ピーク時には、従業員は公共交通機関を利用しての通勤を控えなければならない。

 「働くことよりも、従業員の健康状態の管理を最優先しています。上司から直接、有給休暇を可能な限り取得することや、あらかじめこの先の休暇を予定しておくことが伝えられます。また、自分の家族の健康を最優先することや、ヘルスチェックとメンタルヘルスチェックを実施し、少しでも健康面に不安を覚えた場合はすぐに心療内科を受診することなど具体的に指示されます」(西脇氏)


上司がチームメンバーに送ったメッセージ(資料提供:内田洋行)

 日本マイクロソフトが実施するイベントも全てオンラインに移行した。COVID-19の感染が拡大傾向にあると分かった時、CEOのサティア・ナデラ氏はいち早く2021年6月までのイベントをオンラインに切り替えることを発表したという。

 「オンラインイベントのメリットは、物理的な制限が必要ないこと、参加者が移動する必要がないこと、天候や交通事情に左右されないことです。加えて、開催期間を自由に設定できる、参加者数に上限がない、オンデマンドで相手の時間を奪わないといった利点もあります。私自身の経験を見ても、3月には予定していたセミナーの多くが中止され、オンラインに移行したのですが、参加者は当初予定していた200人を大きく超え、日本全国から計3350人が参加する規模になりました」(西脇氏)

 イベント運営の在り方も大きく変わった。多くの人を集め、音楽をライブ演奏するなど一体感を高める演出のイベントが多かったのに対し、オンラインイベントでは、専用の収録スタジオを作り、まるでテレビ番組を作るかのように、より高品質な情報をいかに届けるかを考えるようになったという。日本マイクロソフトでも、品川本社にある収録スタジオとは別に、本格的な撮影が可能なスタジオを借りてイベントを開催している。アバターを使って実際に会場を訪れ、講演を聴講しているように感じられる演出もしている。

テレワークの浸透は偶然ではなく必然だった

 その上で西脇氏は、こうした働き方の変化は、コロナ禍によって突然発生したものというわけではなく「必然だった」と言う。というのも、これまでのワークスタイルの変化を見ると「もともと、働き方の変遷の先にテレワークがあった」と考えるのが自然だからだ。そのため、今の働き方を一過性の働き方と捉えるのではなく、テレワークを当然のものとした働き方を進めことが重要になるという。

 「テレワークも、育児や介護の必要な人だけが使う仕組みではなく、全員が自由に使える仕組みであることが重要です。そもそも、相手が特別であるという認識は避けた方がいい。また、相手の時間を奪わないこと、その代わりに自分の時間も奪ってほしくないという認識が大切です」(西脇氏)

 日本マイクロソフトでは、会議はリモートを前提にするなど、残業時間の削減や働く場所の多様化などに長年取り組んできた。2009年と2019年を比較すると、残業時間は特に2019年以降大きく削減されている。また、働く場所も2009年はオフィス7割、客先3割だったものが、2019年にはオフィス3割、客先3割、オフィス外(自宅やカフェ、移動中など)4割という構成になっている。また、コミュニケーション手段は、2009年にはメールが7割超を占めていたのに対し、2019年はメールが3割、チャットが6割になった。

 同社は2012年からテレワークを推進してきた。緊急事態宣言直前の2020年3月時点で、テレワーク率は98.3%で、オフィスに出社した人は1.7%にすぎなかったという。音声やビデオ会議についても、2003年にOffice製品に「Office Live Meeting」を初めて組み込み、2004年には「Skype」をリリースしている。このように、継続的な取り組みの延長線上に、今のマイクロソフトの働き方がある。

マイクロソフトが考える「変化に強い組織」とは

 西脇氏は、テレワークを前提とした働き方についてのポイントを幾つかアドバイスした。まずは「生活の中に仕事がある」と考えることだ。オフィスは仕事がしやすいように最適化されており、自宅は生活しやすいように最適化されている。だが、テレワークでは仕事と生活の境目がない。

 「時間や家庭環境、生活環境など、相手と自分は全てが同じではありません。相手の生活に気を遣うように心掛けることが大切です。リモート会議中に割り込みや映り込みが発生しますが、そうしたカジュアルなシーンも気にしないことです」(西脇氏)

 テレワークに必要になるのは、仕事ができる机とインターネット回線、PCの3つだけだ。また、ツールはコミュニケーションツールや情報共有ツール、Web会議ツールがあればいい。これらを統合することで、より効率よく作業を実施できるようになる。マイクロソフトは、「Microsoft Teams」などの統合型ツールの提供によって、快適なテレワークを支援したいと言う。

 また、働き方を改善するポイントとして「会議の時間を45分にする」「チャットとクイックコール(短い電話)」「管理職は部下と1対1の会話を増やすこと」「スタートや終了時間、メールを見る時間の固定化」などを挙げた。

 「テレワークで本当に共有すべきは感情や一体感です。私たちはチャットやSNSで気軽に、素早く、自然にコミュニケーションをとっています。同じことを仕事でもやったほうがいい。業務に対して何か反応があるとうれしいものです。素早く、手際よく気持ちを伝えることものできます。それによってチームワークも生まれます」

 さらに西脇氏は「チームワークを生むためにはダイバーシティー(多様性)が絶対に必要です」とし、組織づくりのポイントを次のように解説した。

 「チームワークとはみんなで頑張るということではありません。目標を全員が理解して、自分の役割と相手の役割を把握する、個々の専門性を生かすことです。チームワークを浸透させるには、余裕をもたせた評価設定が重要です。また、自分のゴールよりも他者の役に立ったかどうかを評価することが重要です。これまでは、売り上げや成約件数、顧客数など個人として評価することが多かったと思いますが、個人の評価は今のような変化に対応することが難しい。これから加えたいのは、他者にどのくらい貢献したか、他者にどのくらい活用されたかという評価です。そうした組織には違う能力や役割が集まり、組織の力が多様になります。そして変化に強い組織をつくることにつながります」(西脇氏)

 日本マイクロソフトでは現在、ダイバーシティーとインクルージョン(包含)を重視した経営の中で、人種やジェンダー、民族など、さまざまなバックグラウンドをもった従業員の採用を推進している。西脇氏は、最後に「より多くのダイバーシティーを認め、多くの方をインクルージョンしていくことが必要です」と今後を展望し、講演を締めくくった。

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