経費精算のデジタル化から始まる「脱目検」「脱自腹」「脱現金」
コロナ禍において在宅勤務が推奨されていても、ペーパーレス化が不十分な企業では経理処理のための出社が必要になってしまう。しかし経費精算プロセスの電子化は、全社的なDXの第一歩になり得る。まず何から始め、どのように進めていくべきか。
法改正でも普及しなかったデジタル経費精算、コロナ禍で影響浮き彫り
紙を介在した業務の電子化は、1998年施行の「電子帳簿保存法」と2005年施行の「e文書法」によって、段階的に進められてきた。
従来、経費精算に関する書類には原則として7年間の原本保存義務があったため、企業は伝票や取引で受け取った領収書などを紙のまま、資料保存用の倉庫で管理していた。特に大企業においては、日々処理される書類を倉庫に輸送してそれを整理し、管理する人員などのコストが大きな負担となっていた。
2016年、電子帳簿保存法の改正によって経費関連書類のスキャン保存が可能となった。しかし同法に適用するスキャナーに制限があり、従業員は出社して、領収書の原本を経理部に提出する必要があった。経理部が電子化することで「紙を保存する負担」はなくなったが、社内業務には紙書類のプロセスが残ってしまった。
この問題を解決するため、2018年に「スキャナー保存の要件」が改正された。受け取った領収書をスマートフォンで撮影し、それを証跡として提出できるようになったのだ。これによって外出先や自宅など、オフィス以外の場所で帳票を電子化できるようになった。経費を建て替えた本人の手元で帳票が電子化されるため、従業員は経費精算のための出社から、経理部門はスキャン作業から解放された。
以上のように、経費精算の電子化は以前から推し進められていた。それでも2020年、コロナ禍中に「経費精算のための出社」を余儀なくされる企業は出てしまった。
クラウド経費精算システムを提供するコンカーが2020年に調査した結果によれば、緊急事態宣言下でも出社せざるを得なかった企業は、従業員1000人未満の企業では55%に上る(図1)。テレワークができない理由で最も多かったのは「経費精算、請求書、契約処理などのペーパーワーク」だった。
経費精算のデジタル化が全社的なDXの第一歩になる理由
経費精算業務のデジタル化は、全社的なDXの第一歩となる。経費精算は全従業員に関わる業務だからだ。特にコロナ禍においては全従業員の感染リスクを低減し、公衆衛生の向上にも貢献できる。さらに通勤時間のロスなく業務に取り掛かれるため、生産性の向上も期待できる。
レガシー企業のDXが途中で頓挫してしまう理由には「変化への抵抗感」がある。現場は自分にとって大きなメリットがなければ、わざわざ業務プロセスを変えたいと思わないためだ。しかし経費精算はデジタル化によって全社員にメリットがある。これは、全社的なDX推進の弾みとなるだろう。
経費精算システムの導入は「たかがリモート精算」ではなく、企業変革の突破口になりうる。
経費精算のデジタル化、何から始めてどう進めるか
それでは、これから経費精算システムを導入検討する企業は、まず何から始めるべきか。
まず、何より必要なのは経営層の理解と決断だ。例えばコンカーでは、まず経営層へアプローチして意思決定を促し、その後に経理部門と実務に取り組む例が多いという。
同社の製品を導入して経費精算を自動化した企業は、その後他システムとの連携に進む。請求業務や決算処理など財務会計の関連業務を多岐にわたってデジタル化/ペーパーレス化していき、最終的には全ての会計業務を出社不要で処理できる状態を目指すという。
ペーパーレス化の先にある「ビジネスキャッシュレス」とは
経費精算処理をペーパーレス化し、あらゆる財務会計の関連業務をデジタル化した先にあるのが「ビジネスキャッシュレス」だ。
ビジネスキャッシュレスとは、文字通り事業に関わる金銭取引の「脱現金化」を指す。法人カードやQRコード決済、交通系電子マネー決済などのシステムと経費システムを連携し、決済と同時にその記録を企業に送信する。支払金額は企業の口座から直接引き落とされるため。社員は現金で費用を立て替える必要がなくなる。
例えば電車移動であれば、乗降駅と料金の情報が鉄道会社経由で企業に自動送信される。利用者は移動目的を登録するだけで済む。外出の多い営業部門の人員が、月末に経路検索サイトで料金を調べて「これはどこに行った交通費だったか」と記憶をたどる作業から解放される。
ビジネスキャッシュレスが実現すれば、経費精算プロセスそのものが不要になる。最終的には、経費精算を経理の業務からなくすことが可能だ。具体的には「経費の入力」と「上長の承認」「経費精算のための出社、帰社」がなくなるだろう。
「従業員の行動」と「経費の流れ」を可視化してガバナンス強化
昨今、コロナ禍による在宅勤務の常態化で通勤費などの支給規定を変更する企業が増えている。これまで実施していた「定期乗車券費の支給」を取りやめて出社ごとの支払いに切り替えたため、誰がいつ出勤しているのか、それにいくらかかっているのかを把握する必要が出てきた。
例えばコンカーのサービスを利用している企業の中では、従業員の経費使用状況を可視化する「分析」機能の人気が高い。同社によれば、導入企業全体の7割超が同機能を付加しているという。
従業員の行動と経費の流れをシステムで可視化/分析できれば、企業の統制(ガバナンス)も強化できる。
例えば役職によって月額の経費の上限や用途が異なる場合に、コーポレートカードの決済情報をシステムに送って企業の規約に沿っているか違反しているかを自動で判断する、といった使い方が可能だ。これまで経理部門が目視で実施してきた、大量の正しい申請の中から「意図せず違反してしまった例」や「故意に不正を試みている例」を見つけ出す作業が不要になる。
さらに、既存の規約を慎重にすり抜けるような不正には、AIによる不正検知が有効だ。社内規定の参照だけでは判定が難しい決済情報に対して、さまざまな状況データを参照して異常値を検出する。
コロナ禍の影響で、経理部門の業務は複雑化している。これまでの属人的な作業で対処するのは困難になっており、それは企業価値の足かせになっているかもしれない。経費精算の自動化を突破口として、ビジネスキャッシュレスや財務会計業務の自動化を実現できれば、全従業員が感染症のリスクを抑え、離れた場所でもガバナンスの効いた財務管理が可能になるだろう。経費精算システムの導入は、DXの「始めの一手」として有効だと言える。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.