古市憲寿氏と企業3社が語る「テレワークでのチームエンゲージメント向上の秘訣」
社会学者の古市憲寿氏をモデレータに迎え、企業3社とのオンライン座談会が開催された。人とのつながりが希薄になりがちなテレワークにおいて、チームのエンゲージメントを高めるための工夫や取り組みなどを、インテージヘルスケアとコープさっぽろ、ソフトバンクの3社の担当者が語った。
社会学者の古市憲寿氏をモデレータに、「Slack」ユーザー企業であるインテージヘルスケアの仁司 与志矢氏(代表取締役社長)と生活協同組合コープさっぽろの中山亜子氏(デジタル推進本部 システム部 リーダー)、ソフトバンクの飯塚和詩氏(コンシューマ事業統括 コンシューマ営業統括 営業戦略本部 AI/RPA 推進室)の3氏が、テレワークにおいてチームエンゲージメントを高めるための要素として、3つのテーマを軸に語り合った。本稿ではオンライン座談会の模様をお伝えする。
本稿は、「リモートワーク活用企業に聞く!コロナ禍における、Slack 活用の秘訣」(主催:Slack Japan)における講演を基に、編集部で再構成した。
インテージヘルスケアは、インテージグループでヘルスケア分野のマーケティング支援事業を担う企業だ。一般用医薬品・医療用医薬品の市場調査や、CRO(医薬品開発業務受託機関)などを手掛け、従業員数は690人、東京と大阪、京都に拠点を構える。2017年にフルフレックス制度やテレワークを導入し、2018年、2019年の「テレワーク先駆者百選」に選ばれる。
コープさっぽろは、1965年に創立され、北海道全域で組合員数187万名に上る生活協同組合だ。正規職員は2351人、契約職員2211人、パート・アルバイト職員1万673人という規模だ。中山氏はコープさっぽろでDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を担当し、2020年1月から「Google Workspace」とSlackの導入を進めてきた。札幌に住みながらも、フルリモートで東京のベンチャー企業に勤務していた経験がある。
ソフトバンクは、現在、在宅勤務やフレックスタイム制度を導入、サテライトオフィスを設置し、従業員が働きやすい環境づくりに注力する。飯塚氏はSlackの導入推進を担当し、社内導入に当たっての経験や活用事例を振り返った。
組織をつなぐ「共感と包容力」には“デジタルの温もり”を
ディスカッションの最初のテーマは「The future of work is empathetic & inclusive(仕事の未来は共感と包容力)」だ。テレワークであっても同僚とのつながりを感じられる施策や取り組みと、各社における成果が紹介された。
古市氏はまず「テクノロジーが進歩し、メディアやツールによって人々の関係性がフラットになりました。かつてのテキストメッセージは冷たい感じがしましたが、今は共感しやすく、対面でなくてもできることが増えたと感じます」と現状を分析した。
それに対し、インテージヘルスケアの仁司氏は「共感という点では、絵文字をよく使う」とし、「当社では絵文字を自作する人が多く、その数が多いため、自分で作成した絵文字が見つからなくなるということもあります。Slackはコロナ禍で厳しい環境をユーモアで乗り切るためのツールになっています」と紹介した。社長に対しても絵文字を送るフラットな社風だという。
コープさっぽろの中山氏は「DX推進の土壌とコロナ禍への対応があり、Slackの導入はスムーズに進みました。全道への連絡や周知が速いというツールとしての便利さを多くの職員が実感しています」と、Slackのツールとしての利便性が多様な背景を持つ職員に幅広く受け入れられたと説明する。ITリテラシーが高くない職員もいたが、勉強会や研修を実施してサポートした。
ソフトバンクの飯塚氏は、共感や包容力に関する工夫として「雑談」を挙げた。
「テレワークでは、オフィスで働いている時に無意識に耳に入ってくる雑談が減ります。ソフトバンクでは、Slackを使って雑談を意識的に行うようにしています。朝礼スピーチのように、毎日1人1トピックを考え、持ち回りで雑談しています。こうした工夫によって、組織のコミュニケーションを少しでも大きくしようとしています」(飯塚氏)
雑談、連絡、会議も「フレキシブル」に
続くテーマは「The future of work is flexible(仕事の未来は柔軟性)」だ。テレワークでは、さまざまな場所や環境で仕事を進めることになる。Slackでどう柔軟な働き方が可能になったかが紹介された。
古市氏は「テレワークのように、物理的な距離を超えて働くことは昔から取り組まれてきましたが、あまり成功してきませんでした。ニュータウンができてもすぐに都心回帰が起こる。ただ、本来、働くということは距離や時間で型にはめることではなく、何かを生み出すことです。だからこそオンラインツールへの期待が高まっています」と指摘した。
すると仁司氏は「できるだけいろいろな階層の人の話を聞くために、オフィスを徘徊(はいかい)するのが日課でした。しかし、コロナ禍ではそれができません。そこで今度はSlackのチャンネルを徘徊するようになりました。そこから自宅での紙の管理や印刷といったテレワークにおける課題を見つけ、解決できた事例も多くあります」と、型にはまらずに柔軟にスピーディーにツールを使うことが重要だとした。
中山氏は「今まではメンバーに指示する手段が電話とメールだけだったので、何か問題が起きたときもすぐには対応できず、情報もヒエラルキー的にしか伝わりませんでした。Slackの場合、職員や関係者が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に感染しても、関係者が集まってフラットな立場で迅速な意思決定ができ、情報も速く拡散できます」と紹介した。
飯塚氏は「テレワークの浸透によって通勤する時間が減り、社員一人一人が自分のために使える時間が増えました。営業担当者の成功事例を社内で横展開する場合も、従来のように会議で報告するのではなく、Slackのチャンネルを用意して、うまくいった事例やノウハウを集約し、非同期に情報を共有しています」と、会議もこうした柔軟性が求められるとした。
テレワークでも「つながり」を維持する三者三様の工夫
最後のテーマは「The future of work is connected(仕事の未来はつながっている)」だ。Slackコネクトを用いたり、ゲストユーザーとしてSlackで社外の関係者とつながったりすることで、どのようにテレワークが変化したのかが紹介された。
古市氏は「今はSNSで24時間ずっと人とつながっている感覚があります。一方でつながることにストレスを感じることもあります。新しい形でつながり、それを仕事に生かすにはどうすればいいのでしょうか」と質問した。
仁司氏は「大切なのは心理的な安全性をもち、お互いを信頼することです。お互いに信頼関係があればツールはより機能します。一方、コロナ禍で入社した新入社員と接点が持てず、それが課題になることもあります。当社では、毎日必ず新入社員に対して先輩社員がWeb会議などで雑談の時間を取るようにしている部署もあります。雑談の距離感は半径3メートル程度ですが、リモート雑談であればその制約もありません」と語った。
中山氏は「Slackの活用を進めるために『Slack絵文字大賞』を開催しています。絵文字を使った気軽なコミュニケーションを促進させる狙いがあります。当社の職員には女性が多く、子育て中の従業員も数多くいます。気軽にSlackを使うことで、休暇や休職申請の相談や、子育てに関する相談など、コミュニケーションが活発に交わされています」と自社の様子を紹介した。
飯塚氏は「当社の営業部門では、社外関係者ともSlackを使ったコミュニケーションが増えています。かしこまったメッセージでなく、社外ともカジュアルにコミュニケーションがとれることで、今までよりもコミュニケーションの量が増えました。Slackには自分の今の状態をステータスとして表示しておくことができます。この機能を活用して、社外の方とコミュニケーションしている間は、社内の人に連絡しないよう意思表示するといった工夫もしています」と紹介した。
Slack Japanの伊藤哲志氏(プロダクトマーケティング グループマネージャー)は、「ツールを入れて終わりではなく、その後、どうしたいかが重要です。会社ごとにビジョンや方向性があると思います。Slackをはじめ、いろいろなツールを組み合わせて、コロナ禍を乗り切ってほしいと思います」と述べ、ラウンドテーブルを締めくくった。
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