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だからMicrosoft 365活用は行き詰まる……導入失敗企業がおろそかにしがちなコト

「Microsoft 365」には、Officeツールだけではなく、組織の業務改善や業務効率化を支援するツールも含まれている。そうしたツールを活用して組織を変えたいと期待を込めて導入するも、「思うように利用が浸透しなかった」という声も聞かれる。そうした“失敗企業”に欠けていることとは。

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 「Microsoft 365」を導入するきっかけとして、グループウェアのリプレースや、「Microsoft Teams」など利用したいツールがあるなど、さまざまな理由が考えられる。予算を割いて導入するからには、幅広い業務でツールやサービスを活用し、組織と従業員の双方でメリットを享受したいはずだ。

 しかし、そうした思いを込めてMicrosoft 365を導入したものの「導入効果が感じられない」という落胆の声もしばしば聞かれる。このギャップを生む理由の一つに、「社内の業務がデジタル化されていない」ことがある。「Microsoft SharePoint Online」やMicrosoft Teamsといったツールによって情報共有やコミュニケーションといった働き方の一部分を改善することはできるが、目を向けるべき点はそれだけではないはずだ。

 例えば、社内申請などのワークフローはいまだに紙ベースのやりとりで、承認者の押印を必要とする組織もある。業務に物理的な制約が加わった途端に、従来通りの仕事の進め方が求められる。いくら情報共有やコミュニケーションの方法を変えられたとしても、旧態依然とした業務フローを改善しない限りは、従業員はツールの導入効果を感じづらいだろう。Microsoft 365の導入効果を高めるためには、業務全体のデジタル化も表裏一体で考える必要があるのだ。

 このように、Microsoft 365を有効活用できていないと嘆く組織には、共通する幾つかの課題がある。本連載(全5回)では、「だからM365活用は行き詰る……5つの理由」と題し、課題点を指摘するとともに「どうすれば導入効果を上げられるのか」「課題に対してどのように対処すべきか」を考察する。

著者プロフィール:太田浩史(内田洋行 ネットワークビジネス推進事業部)

2010年に内田洋行でOffice 365(Office 365の前進であるBPOS)の導入に携わり、以後は自社、他社問わず、Office 365の導入から活用を支援し、Office 365の魅力に憑りつかれる。自称Office 365ギーク。多くの経験で得られたナレッジを各種イベントでの登壇や書籍、ブログ、SNSなどを通じて広く共有し、2013年にはMicrosoftから「Microsoft MVP Award」を受賞。


“今どき”の業務改善はここが違う

 現在利用するワークフロー製品をリプレースしようと、Microsoft 365の導入を検討する企業もある。その場合、ITツールの見直しに重点が置かれることがほとんどで、情シスなどによって「既存のワークフロー製品と同様の機能を実現できるか否か」といった視点だけで議論がなされることが多い。

 一方で、従業員はこれまでアナログだった身近な業務のデジタル化に期待を寄せる。ITツールを新規導入することで、自分たちの業務がより良くなることを期待しているからだ。ただ単に身近な業務のデジタル化を目的とするのであれば、Microsoft 365のライセンスに含まれる「Microsoft Power Platform」でも実現できるだろう。人事や総務、IT部門などへの申請において、直属の上司の承認さえもらえば済むような単純なワークフローであれば、SharePointや「Microsoft Power Apps」「Microsoft Power Automate」を組み合わせることでデジタル化できるケースも多い。

 こうした業務のデジタル化を進めていくには、多くの業務を一度に変えるのではなく、身近な業務から少しずつ着手するのが良いだろう。ローコードツールを活用した業務のデジタル化は、業務現場にいる自分たちでデジタル化の仕組みを作り上げ、それを利用しながら業務改善を進められることにメリットがある。業務を変えるためには、ITツールの導入だけではなく、同時に業務ルールの見直しも考えなければならない。ITツールを活用することで仕組み化できるもの、業務ルールを見直し従業員の行動を変えることで仕組み化できるもの、それぞれのバランスを取りながら柔軟にデジタル化を進めていくのが、“今どき”の業務改善だ。そのためにも、業務ルールも必要に応じて現場の従業員で柔軟に変えていくことのできる、身近な業務のデジタル化から着手することをお勧めしたい。


(出典:内田洋行提供の資料)

 デジタル化が進んでいない業務は、ITツールの活用を前提としない業務ルールの基で行われているものがほとんどだ。どれだけ新しいITツールを導入しようとも、旧態依然としたルールがあっては、デジタル化は進まず、ITツールの利用も限定的なものとなり、働き方にも制約を与えてしまう。こうした“古い”業務ルールは、IT部門などが予算を確保し推進できるような全社横断的な業務ではなく、従業員の身近にある業務に残っている場合が多い。


(出典:内田洋行提供の資料)

Microsoft 365とPower Platformで「業務を作り変える」

 筆者が所属する組織でも、紙の申請書と上司の承認印を必要とするワークフローがあったが、紙の申請書でなければならない必然性はなかったため、「Microsoft Forms」をベースとしたワークフローに変えた。メンバーは「Microsoft Forms」で申請書を作成して上司に申請し、上司はPower Automateの承認機能を使って承認するというフローにした。紙の申請書は廃止し、上司の承認記録もPower Automateでの承認結果をデータとして残すだけに変えた。

 申請や承認結果のデータはSharePointに自動的に格納され、申請結果を確認する担当者の確認作業も簡単になる。さらにはSharePointにたまったデータを「Microsoft Power BI」を通して分析することで、業務を俯瞰(ふかん)して捉えることも可能になった。


申請業務デジタル化のフロー(出典:内田洋行提供の資料)

 筆者の組織では、業務ルールを柔軟に変更できたからこそ、ITツールによるデジタル化もシンプルに実現できたと考える。このように身近な業務の中には、業務現場の従業員が自分たちで業務ルールを変えることで、現場が主体となって変革できるものもある。

 また、ITツールの活用と業務ルールの見直しのバランスを取りながら業務のデジタル化を進めるには、従業員が自由にMicrosoft 365やPower PlatformなどのITツールを活用できるようにするべきだ。ITツールと業務ルールを互いに調整しながらバランスを取っていくには、それぞれに一定の自由度がなければうまく進められないからだ。これまでの連載でも従業員が自由にMicrosoft 365やPower PlatformなどのITツールを活用できるようにするべきだと述べたが、今回の内容もその理由の一つである。

 新連載第1回となる本稿では、Microsoft 365を導入したものの大きな効果を実感できない理由として「社内の多くの業務がデジタル化されていない」ことを挙げた。そしてデジタル化されていない業務は、従業員の身近な業務にこそ多く残っており、それをデジタル化するためにはITツールの活用とともに業務ルールも見直す必要がある。

 また、多くの業務を一度に変えるのは現場の負担も大きい。取っ掛かりとして、まずは身近で簡単に変えられそうなところや、大きな効果が見込めるところから着手してはどうだろうか。従業員にとっても、身近な業務がより良くなることで、Microsoft 365の導入効果を強く感じられるようになり、さらなる活用のモチベーションにもつながるだろう。ITツールの活用を念頭において業務ルールを見直すことで、業務のデジタル化が進み、さらにMicrosoft 365を活用できる場面も増えてくるはずだ。

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