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デジタル人材育成の指針として期待される 「Di-Lite」って何?

社会と個人生活の隅々にまでデジタルが浸透する一方で、デジタル人材の不足が深刻化する。産業界でデジタル人材に必要とされる「デジタルリテラシー」を定義しようと「デジタルリテラシー協議会」が誕生した。同協議会が推進する「Di-Lite」の意味するところとは。

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デジタルリテラシー協議会が提唱する「Di-Lite」とは?

  2021年4月、データサイエンティスト協会と日本ディープラーニング協会、情報処理推進機構(IPA)の3団体が「デジタルリテラシー協議会」の共同設立を発表した。

 経済産業省がオブザーバーとなり、デジタルリテラシーの啓発、普及を通してデジタル人材の育成を推進する。同協議会は、デジタル開発者やベンダー、一般企業のビジネスパーソンなどが持つべきデジタルリテラシー領域を「Di-Lite(ディーライト)」と定義し、デジタル人材育成の中核として位置付ける。

 基本的なスタンスは、個人や企業、その他団体からニーズや意見を引き出し、デジタルリテラシー強化につながる情報発信やコンテンツ提供、人材育成支援のハブとなること(図1)。社会一般に必要とされる最大公約数的なデジタルリテラシーの範囲や内容を定義し、継続的に改善、拡張していくための基礎情報や指針を発信する。それによって、時代に適したデジタル人材を早期に育成可能な基盤を作ることが目的だ。


図1 デジタルリテラシー協議会の社会的な位置づけ

 設立と同時に公開された「デジタルリテラシー・スキルフレームワーク」によると、誰にでも必要で、スキルのラーニングパスがどのようであっても等しく学ぶべき内容を「Di-Lite」(図2の中央部の青囲み部分)として位置付ける。「デジタル知識」と「デジタル活用分野/適用事例」をフレームワークに含めているところに注目したい。


図2 デジタルリテラシー・スキルフレームワーク

なぜ今「Di-Lite」が必要なのか?

 同協議会の発足に至った理由は、いわゆる「IT人材」とは少し異なる「デジタル人材」が必要になってきたことにある。

 従来のハードウェアやソフトウェアに関する知識やプログラミングスキルなどに加え、機械学習やディープラーニングを含んだAIの領域、データを読み解き分析、活用できるようにする数理、データサイエンス領域の知識やスキルのニーズが高まってきた。

 同協議会のメンバーである3団体は、ある特定領域における知識やスキルだけでは現在の問題や将来のイノベーションに役立てられるわけではないと考える。ITの基礎知識やセキュリティ知識などをベースに、社会生活やビジネスからもたらされるビッグデータをどのように扱い、それをどう分析し、価値創造につなげられるかを考える素養が必要だ。特に将来AIが全ての産業に大きな影響を与えることが予想される現在においては、なおさらそうした素養が必要となってくる。

データサイエンスとAIに関する知識、スキルは「読み・書き・そろばん」

 この現実を前に、政府は「AI戦略2019」の中で、数理、データサイエンスとAIに関する知識と技能を「読み・ 書き・そろばん的な素養」と捉え、持続可能な社会の創り手として必要な力を全ての国民が育むことの必要性を訴えている。そのために打ち出しているのが教育を通したデジタル人材育成だ。AI戦略2019では、2025年の達成をめどに次のようなリテシー教育に関する目標が設定されている。

  • 全ての高等学校卒業生(約100万人/年)が、「数理、データサイエンス、AI」に関する基礎的なリテラシーを習得
  • 文理を問わず、全ての大学・高専生(約50万人/年)が、課程にて初級レベルの数理・データサイエンス・AIを習得
  • 数理、データサイエンス、AIを育むリカレント教育(学校教育後の社会での教育)を多くの社会人(約100万人/年)に実施

 こうした動きはこれから社会に出て活躍しようとする人ばかりでなく、現在企業などで働くビジネスパーソンも、データサイエンスやAIの知識を習得しなければ、時代に取り残される可能性があることを示唆する。デジタルリテラシー協議会の取り組みは、こうした教育改革の流れを促進する重要なものになる。

 また、2020年のIPAによる「DX推進に向けた企業とIT人材の実態調査」では、現在の企業課題を「既存のビジネスモデルや業務スタイルから脱却できておらず、デジタル型ビジネスモデルへの転換が進んでいない」とし、組織文化や人事制度の問題が指摘されている。

 その上で、「デジタル時代の働く場、スキルアップする場としてふさわしい、“個人に選ばれる企業”への変革が企業に求められると同時に、自身のスキルアップとキャリアアップを自らがマネージし、“企業に依存しない個人”への変革、そして両者の“新たな関係性の構築”が、デジタル時代を迎えるに当たっての課題解決の方向性」と提言している。

 企業側には目指すデジタル経営の姿や長期事業ビジョン、そしてその実現のために必要な人材要件(プロファイル)を明示することが求められ、個人側には「特定の一企業に閉じない、長期視点かつ柔軟なキャリア形成や、“社内価値”にとどまらない、自分自身の市場価値の継続的向上とそのアピールを考えていくことが求められる」としている。

 つまり、DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む組織はDXに必要な人材要件を定義して正当に評価する必要があり、働く個人は組織の内部的な必要性に対応するだけでなく、自分の将来のキャリアパスを考えて自分自身の能力向上を図り、その能力を外部に示すことが求められる。

 このような新領域の知識とスキルを今後のキャリアに結び付けたいと思う人は少なくないだろう。そうした人が持つべき知識とスキルを明らかにして、学習の方向性を決める手助けをしようというのが、デジタルリテラシー協議会の「Di-Lite」なのだ。

3団体の3つの検定試験で「Di-Lite」を学べるか?

 2021年9月初旬の段階では「Di-Lite」に含まれる知識やスキルの定義、対象範囲について協議会内で議論が続き、「これだけ学べばDi-Liteが素養として身についている」と言える情報は公開されていなかった。

 しかし協議会に参画する3団体がそれぞれ実施している3つの検定(図3 全てオンライン受験可能)は、「Di-Lite」の多くの部分を包含しているため、協議会はこれら3つの試験の受験を推奨する。協議会事務局は「Di-Lite」の定義や対象範囲は技術進歩や新たなツール、サービスの登場に合わせて「アジャイルに」更新していくとしており、最新の知識やスキルに関する内容を、今後各検定の内容に取り込んでいく計画だ。


図3 「Di-Lite」の3領域と対応する3つの検定試験

【ITパスポート試験】

 IPAが実施する、ITを利活用する社会人や学生が備えておくべき基礎知識を問う国家試験だ。新しい技術(AI、ビッグデータ、IoTなど)や新しい手法(アジャイルなど)の概要に関する知識をはじめ、経営全般(経営戦略、マーケティング、財務、法務など)の知識、IT(セキュリティ、ネットワークなど)の知識、プロジェクトマネジメントの知識など、幅広い分野の総合的知識が求められる。技術者や管理者ばかりでなく、広く一般の人を対象にしており、ビジネスに必要な総合的なITリテラシーを有することを証明できる。合格率は約50%と、比較的取り組みやすい試験といえる。

【G検定(ジェネラリスト検定)】

 日本ディープラーニング協会が実施している検定だ。ディープラーニングの基礎知識と、適切な活用方針を決定し、事業活用できる能力、知識を有しているかが問われる。合格者は4万人を超える。合格すれば、AIやデータサイエンス、ディープラーニングに関する幅広い知識があることが証明でき、組織でデジタル人材、DX人材として必要な素養があることをアピールできる。さらに高度なエンジニア向けのE資格(エンジニア資格)もある。

【データサイエンティスト検定(DS検定)】

 データサイエンティスト協会が実施する新しい検定(2021年9月に第1回試験実施)だ。正式には「データサイエンティスト検定リテラシーレベル」と呼ばれ、データサイエンティストに必要なデータサイエンス力やデータエンジニアリング力、ビジネス力について、数理、データサイエンス、AIのリテラシーを問う。合格すればプロジェクト担当者として必要な知識と能力を有することが証明できることが期待できる。これも、データサイエンティストに関心のある社会人や学生を対象にした検定だ。

 これら3検定の内容を見る限り、相当に広い範囲の知識とスキルが「Di-Lite」に含まれる。一方では、数理、データサイエンスやディープラーニングに利用できるプラットフォームや開発ツール(ローコード/ノーコード)も増えており、基礎知識から応用に向けた学習の難易度は従来ほど高くなくなっている。学習の場を設け、従業員への啓発や学習促進が、DXを目指す組織には求められるだろう。

 デジタルリテラシー協会では、今後年に1〜2回の協議会開催を予定しており、「Di-Lite」に関する議論を深め、産業界やITユーザーの声を反映しながら適時に定義、再定義を繰り返していくとのことだ。またデジタルリテラシースキルフレームワークに基づく企業向けの啓発活動のなかでラーニングパスを提供していくことや、展示会、セミナー、その他の情報発信を通してデジタルリテラシーの普及・啓発に努めていくという。今後の情報発信に期待したい。

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