クラウドERPとは? 2層ERPとの違い、導入メリットや「2025年問題」との関係を解説:IT用語3分リーディング
クラウドERPとは、企業の基幹業務を担うERP(Enterprise Resource Planning)システムをクラウドで提供するもの。ERPのモダナイズは「2025年問題」とも関連し、企業の喫緊の課題となっている。
サマリー
- クラウドERP、2つの導入パターンと3つの利用形態
- クラウドERPの関連用語
クラウドERPとは、ERP(Enterprise Resource Planning)システムをクラウドで提供するもの。財務や会計、人事、生産、販売など企業経営の基幹業務を担う機能を網羅的に提供する。
企業は従来、各社に合わせて独自に作り込んだERPをオンプレミスで利用していた。2000年代のERP導入ブームを支えたSAPが同社の一部製品に関するサポート期限を2025年とした「SAP ERPの2025年問題」をきっかけに、同システムの全般的な脱レガシーが注目された。
その後同社は2027年までのサポート延長を発表したが、「SAP ERPの2027年問題」は団塊世代の一斉退職による人手不足を指す「2025年問題」や経済産業省が警鐘を鳴らしたいわゆる「2025年の崖問題」とともに企業ITの大きな課題として対策が必要とされ、それを契機にERPシステムのクラウドシフトが進んでいる。
クラウドERP、2つの導入パターンと3つの利用形態
ERPのクラウド移行は一般的に、既存システムの保守契約更新のタイミングで検討される。大きく分けるとクラウドERPの導入パターンは2種類、利用形態は3種類あり、既存業務の種類や企業の状況によって移行のベストプラクティスは異なる。
導入パターン1.リフトアンドシフト
既存のオンプレミスERPをクラウド環境に移行し(リフト)、その後徐々にパブリッククラウドなどへの移行(シフト)を進める。導入初期にあたって大規模なシステムの見直しが不要になるため、既存のシステムをそのままクラウドで利用でき、ビジネスへの影響を抑えられる。ただし、既存業務の規模によってはコストアップの可能性があり、シフトの際にシステムや業務の見直しが必要になる点がデメリットとなる。
導入パターン2.クラウドネイティブ
既存のシステムを全面的に見直し、各業務に合わせてSaaS(Software as a Service)やPaaS(Platform as a Service)を利用する。安価な機能の選定が可能になり、運用保守やセキュリティ対策をサービス事業者に任せられるメリットがあるが、既存のビジネスフローの見直しなどが必要になるため導入初期から移行段階にかけての負荷が大きく、現場の業務に影響が出る可能性がある。
利用形態1.プライベートクラウド
リフトアンドシフトでは、自社で利用しているオンプレミスERPをそのままクラウド環境に移行する。その際は一般的にプライベートクラウドで自社専用の環境を構築して従来のポリシーをそのまま適用したり社内システムとの連携を保ったりする。自社の独自性を保ったままシステムをクラウド化できるがコストが上がりやすく、柔軟なリソースの変更が困難になる。
利用形態2.パブリッククラウド
他社と共有のクラウド環境をマルチテナントで利用する。クラウドネイティブ導入の際にパブリッククラウドで提供されるSaaSを利用すれば初期費用を抑え、システム稼働までの時間を短縮できる。各種SaaSとの連携やリソースの調整が柔軟にでき、安価で迅速なクラウドの利点を生かせる点がメリットとなる。ただし企業独自のカスタマイズは難しいためシステムに合わせて業務を見直す必要性や、企業の情報セキュリティポリシーによっては利用できない可能性がある。
利用形態3.ハイブリッドクラウド
クラウドを含む複数のサーバ環境を併用する手法を指す。例えば一部の機能をオンプレミスやプライベートクラウドに残せばセキュリティを確保でき、それ以外の機能をパブリッククラウドで利用すれば迅速性や柔軟性を高めて運用コストを下げられる。既存ビジネスのコアをそのままに業務を迅速化できる方法として注目され、クラウドネイティブへシフトする途中段階の環境としても採用される。
クラウドERPの関連用語
SAP ERPの保守は延長されたが、ERPの「2025年問題」にまつわる課題は解消していない。
人材の2025年問題との関係
人材の2025年問題は、団塊世代の従業員が一斉に定年退職するために起きる人員不足を指す。同年代にはレガシーシステムの導入に関わった人材や長年基幹システムの保守を担ってきた人材も含まれるため、ブラックボックス化したシステムの保守ノウハウが途切れてしまうリスクが懸念されている。
2025年の崖問題との関係
2025年の崖とは、経済産業省が2018年に公表した「DXレポート〜ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開〜」で指摘した、レガシーシステムの老朽化とブラックボックス化による事業の停滞を指す。同省はこれらを解消するために「2025年までにシステム刷新を集中的に推進する必要がある」と述べ、DXの必要性を強調している。
2層ERP(2Tear ERP)との違い
「2層ERP」(2Tear ERP)とは、ERPシステムを「コア」と「サブ」の2種類に分けて運用する手法を指す。グローバルで多角的な事業を展開する企業においては、本社で大企業向けのコアERPを利用すれば大規模なビジネスを回し、現地の支社や新規事業で安価なサブERPを利用すれば迅速にビジネスを立ち上げられる。
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