総務部が奮起した、全力オートメーションの行方
「『Microsoft Excel』の関数は使えるが、マクロは組めなかった」というSTSの総務部。ある取り組みが功を奏し、総務部を中心に3000ステップもある業務プロセスの自動化を実現したという。
RPA(Robotic Process Automation)による業務自動化プロジェクトでは、「現場の担当者がRPAツールを使いこなせず、RPAが社内にスケールしない」という声をよく耳にする。
石川県金沢市に本社を置くIT関連会社のシステムサポート(STS)も同様の課題を抱えていた。同社では、総務部の従業員が主体となってロボットの開発に従事しているが、プロジェクトを開始した当初は開発のスキル不足に悩んだという。当時の総務部のITスキルについて、「『Microsoft Excel』の関数は使えるが、マクロは組めない」レベルだったと担当者は振り返る。
しかし「ある取り組み」が功を奏し、今では総務部を中心としたロボット内製化の体制を築き、あらゆる部門の業務にRPAを適用している。Automation Anywhere主催のイベント「Imagine Digital Japan 2021」にSTS 専務取締役の能登 満氏と総務部部長の松元善平氏が登壇し、RPAの内製化とスケールのポイントを語った。
総務部の一声ではじまったある取り組みとは
松元氏は講演の中で、RPAの内製化と社内スケールのポイントとして次の2点を挙げた。
1.RPAを導入するだけでなく、利用する従業員がRPAをしっかり学べる場所を提供する
2.利用する従業員が疑問に感じたことを、すぐに確認できる場所を提供する
こうした「場所」として、STSではRPAの勉強会を開催している。「しま部」と呼ばれるこの勉強会は総務部の従業員の声掛けで発足され、サービス部門のエンジニアである嶋氏がキー人材として総務部の従業員に開発や運用のアドバイスをする場となっている。
総務の従業員は、「しま部」の発足時に目標として「自分たちがRPAを正しく理解する」「自動化業務の選定ができる」「botを作成できる」ようになることを目指すと決めたという。講演では、勉強会メンバーの島氏、酒井氏、耕西氏が、勉強会の趣旨や成果をインタビュー動画の中で話した。以下はその模様だ。
――「RPAは難しいですか?」
酒井氏: 変数などのプログラマーであれば「持っていて当然の知識」がないと、難しいと感じることがあります。当初は「何がどこまでRPAで自動化できるのか」ということも分かりませんでした。システムにログインするためにはパスワードの入力が必要ですが、その入力まで自動化できるとは思っていませんでした。
――「しま部立ち上げのきっかけと目的は?」
酒井氏: 私と嶋さんと他部門のメンバーで話をしているときに、私が嶋さんに泣きついたことがきっかけです。RPAを導入するという計画は聞いていたものの、具体的な動きがないことが気になっていて、このままでは「まずい」と思いました。
嶋氏: 勉強会は週1回、1時間で実施しています。勉強会を始める前に前回の進捗を確認し、その日の学習内容やゴールを相談しながら進めています。
――「週1回というペースはどうですか?」
酒井氏: 勉強会は5人の総務部の従業員でローテーションを組み、画面共有をしながら進めます。勉強会の中で理解が不十分だった人は、隙間時間を見つけて録画した動画を見ながら復習しています。通常業務をこなしながら勉強会に参加しているので、週1回のペースが最適だと思います。
――「しま部の取り組みで良かった点を教えてください」
酒井氏: 「これを作っておいて」と指示を出されるだけでは誰も動けないと思いますが、嶋さんが丁寧に教えてくださるおかげで、皆がRPAの開発に対して前向きに取り組めていると感じます。今では、「パスワードを自動で入力する」といったような単純なフローのロボットであれば、誰でも一人で開発できると思います。嶋さんがいなければ、おそらく何も動いていなかったのではないでしょうか。
嶋氏: 確かに、相談窓口がないのは辛いですよね。
――「RPAに取り組む中で、業務に対する向き合い方に変化はありましたか?」
酒井氏: 従業員の情報を社内システムに入力する業務の自動化について説明があったとき、「他のシステムにも応用できるのでは」と思いました。そのときはRPAで何ができるかまではよく理解できていなかったのですが、RPAは単純作業を繰り返す業務に適用できるのではないか、と気づいたのを覚えています。
耕西氏: 業務に対する向き合い方が変化するところまではたどり着けていないのですが、自分が行っている業務について、「これはRPAで自動化できるかもしれない」と考えるようにはなったと思います。
技術面と運用面のサポートをできる環境が成功の要因
講演で松元氏は、「もともとロボットを開発するスキルがない総務部門に対し、RPAツールを用意するだけでは、相談先もないまま課題を自分たちで解決しなければならず、挫折しやすい」として、現場スタッフがサービス部門のエンジニアを巻き込み、技術的な相談をしたり、ツールに触れながらスキルを習得したりできる場を作れたことが成功の一因だと話す。
現在STSでは幾つかのロボットが稼働しているが、講演では2つの事例が紹介された。一つは、従業員情報を社内システムに登録する作業を自動化するロボットだ。総ステップ数が3000におよび、人事システムや名刺管理システム、勤怠管理システム、「Microsoft SharePoint」など複数のシステムを遷移する。従来は、各事業部の従業員を10人ほど動員して実施しており、業務の全体像を把握している人がいないことが課題だったが、RPAを適用したことで全ての流れがクリアになった。
2つ目は、請求書と経理システムの内容を突合する業務を自動化するロボットだ。現場から総務部に送られてきた紙の請求書をAI-OCRでCSV化し、経理システムに入力されているデータとCSVデータをRPAで突合して、内容に相違がないかチェックする。この業務については「そもそも必要なのか(経理システムの入力をロボット化すれば突合は不要になるのではないか)という意見が出た」ことから、さらなる業務改善が期待されている。
松元氏は最後に「技術面と運用面の両方をサポートできる環境を用意することで、当社のRPAによる業務改善プロジェクトは、今後さらに進展すると思っている」と述べ、セッションを締めくくった。
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