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毎月2千件の紙請求書を2人で確認……ニチガスの請求書電子化の取り組み

110の部門が毎月受領する2000件請求書の内、4割の電子データ化を成功させ業務改善の成果を上げたニチガスの取り組みとは。

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 関東圏を中心にエネルギー小売り事業を展開し、グループ全体で192万件(2021年9月末時点)を超える顧客を抱える日本瓦斯(以下、ニチガス)。

 同社は、社内DXの取り組みの一環として請求書受取の電子化に取り組んだ。その結果、営業部門と本社部門の計110部門が受領する請求書の電子データ化と、月次決算、連結決算の早期化を実現した。

 毎月届く請求書は段ボール2箱分。専任担当者が朝から晩までかかりきりの確認業務は、残業しても終わりが見えず。一体どのように改善したのか。

毎月2千件以上の紙の請求書を2人体制で確認

 ニチガスは、1955年にLPガス事業会社として創業以降、エネルギーの自由化やIT改革に伴い、事業内容を拡大してきた。近年は、DX(デジタルトランスフォーメーション)事業にも力を入れる。

 ガスメーターにIoT機器を取り付けることで検針業務を効率化しながら精緻な使用データの取得を実現した「スペース蛍」の提供、エネルギー事業における営業支援や配送、検診、保安といった基幹業務を一元管理、処理するクラウドシステム「雲の宇宙船」をリリースなどが挙げられる。

 請求書受取業務の電子化以前、ニチガスは次のような課題を抱えていた。請求書は主に、営業所周辺の店舗など各地域の取引先から届く一般経費やキャンペーンのチラシ代、デザイン代の他、細かいところでは従業員用のウォータサーバー代など、毎月2000件近く発生する。

 毎月25日締めで26日から末日にかけて各営業所にバラバラに届き、担当者が確認して基幹システムに入力し支払伝票を起票する。その後、上長の承認を経て6カ所の支店に集められ本社に宅配便で届く。その量は段ボール2箱分に及んだという。

 本社では月初第3営業日前後に届く全ての請求書を2人体制で確認し、その内容を精査していた。大量の書類を2人で2日程でチェックする必要があり、朝から晩まで確認業務にかかりきり、残業しても終わらず、チェック作業だけでもかなりの負担だった。

 人の手では、金額や取引先コードの入力間違いといったミスはどうしても防げない。時間に追われながら処理しても、月次決算の締めは10日を過ぎ、連結決算は20日前後までかかっていたという。

 ニチガスのコーポレート本部経財部の担当者は「月次決算、連結決算の早期化を長年目指してきましたが、紙の請求書の到着を待ち入力、起票する方法をとる限り、短縮するには限界があります。そこで、電子請求という新たな手法に活路を見いだしました」と話す。

請求書の電子化で得られた業務改善効果

 2020年9月からニチガスはインフォマートのWeb請求書受発注システム「BtoBプラットフォーム請求書」を導入し、現在は一般経費の約4割超を電子データで受け取っている。電子発行により、各部門での金額の誤入力が無くなり、勘定科目入力作業も軽減されたという。

 さらに、これまで宅配便を待って大量の紙の請求書と対峙していた処理業務も効率化された。毎月25日に締めた請求書が翌26日から順次届き、その都度処理可能となり、本社にも月末までに承認が回ってくるようになった。電子請求を前倒しで処理できる分、作業が平準化され、時間に余裕が生まれた。

 承認は外出先からスマートフォンでも可能で、時間や場所を選ばない。確認作業工数も減り、勘定科目が正しいか、会計システムにエラーが起きていないかといった程度の確認で済む。さらに、宅配途中や処理途中で請求書を紛失するリスクも無くなった。

 電子化率4割の現時点で、月次決算の確定は2日ほど、連結決算は1週間近く早められた。2021年4月から『電子支払通知書』も導入し、400社のデータを電子化して請求書類は1箱分減った。

 電子化できていない取引の多くはPCに馴染のない小規模業者や、単発取引といったケースだ。最も多いのは、共同住宅などにガスを供給するボンベ庫を設置した土地のオーナーへの地代支払いだという。

 契約に基づいて地代を毎月、あるいは半年や年に1度支払うものだが、取引相手の多くは年配で、長年の付き合いもあって請求書が発行されないケースが非常に多いという。Excelで一覧を作って支払いを管理し、各営業所で請求を立てているが、担当者が変わると引継ぎがあいまいになるため、契約内容が共有されない可能性もある。

 そこで、本社で集中管理できないかと考えBtoBプラットフォーム請求書に連携しているDeepworkの請求処理自動化サービス「invox」(インボックス)の自動請求データ生成機能の活用を考えた。

 例えば「A様への地代のお支払い」として、請求月や請求日、請求金額と支払期限をあらかじめ設定しておくと、設定した請求月日に請求データが自動生成される。その請求データをBtoBプラットフォーム請求書に集約すれば、土地オーナーから請求書の発行がなくても確実な支払いが可能だ。

 2021年11月からは1支店下にある17営業所分、約500件の取引先全てで本格稼働を進める。今後、他の支店への拡大も検討する。

 ニチガスの担当者は「電子化率はまだ高めることができると思っています。地代の支払いが占める分が多いので『invox』の請求データ自動生成機能の活用範囲を広めていきたいですし、AI-OCRで読み込むという手段もあります。企業としてもニチガスは、地域の日常生活に欠かせないエネルギーを安全に、安定的により効率よく届けるため、新たなテクノロジーを活用しイノベーションの創出に取り組んでいます。請求書受取の電子化は社内DXへ向けた取り組みの一つです。今後も積極的な業務改革に取り組んでいきたいです」としている。

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