研修や評価に現れた“人事関連業務オンライン化”の限界とは
キーマンズネット編集部が「人事制度」に関する調査を実施したところ、オンライン研修に限界を感じ出社で人事教育に取り組む企業や「業務は違うのに同じ評価軸」「上司の好き嫌い」といった人事制度への不満などが明らかとなった。
キーマンズネット編集部は2022年に注目すべきトピックスとして「セキュリティ」「SaaS」「テレワークインフラとデバイス管理」「従業員コミュニケーション」「オフィス」「デジタルスキル」「人事制度」の7つのトピックスを抽出し、読者調査を実施した(実施期間:2021年11月10日〜12月11日、有効回答数678件)。企業における2022年のIT投資意向と併せて調査結果を全8回でお届けする。
今回のテーマは、「人事制度」だ。
調査サマリー
- 半数が採用をオンライン化、コロナ後にオンライン化した企業は3割程度
- オンライン研修に限界、出社で人事教育に取り組む企業も
- 上司の“えこひいき”がテレワークで悪化? 人事制度への不満
半数が採用をオンライン化、コロナ後にオンライン化した企業は3割程度
2021年は2020年に引き続き、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による影響が続いた。緊急の対応を取らざるを得なかった2020年と比べると、20021年はいくらか企業のコロナ対応が進み、テレワーク自体の制度を整えたり、それに伴って人事制度を見直したりといった動きもあったようだ。
本稿では2020年に実施した調査と比較して、採用フローや教育、昇進昇格といった仕組みのデジタル化がどれほど進んだかを見ていきたい。
まず2021年時点で採用フローのオンライン化がどの程度進んでいたかを聞いた(図1)。
コロナ禍以前からオンライン採用に対応していたのか、あるいはコロナ禍をきっかけに対応したのか、全フローをオンライン化したのか一部のフローのみ対応したのかなどに分けて尋ねたところ、「コロナ禍の影響で採用フローを全てオンライン化した」が6.0%で、「コロナ禍の影響で採用フローの一部をオンライン化した」が26.8%となり、全体の32.8%がコロナ禍によるオンライン対応として採用フローの全部もしくは一部を変更していることが分かった。
一方、「コロナ禍以前と変わらずオフラインで採用活動をした企業」(21.8%)と「採用活動をしなかった企業」(7.5%)は合わせて29.3%となり、コロナ禍でオンライン対応をした企業とは2.9ポイント差しか開かず二分する結果となった。また、コロナ禍以前から働き方改革などを理由に採用フローの一部もしくは全部をオンライン化していた企業は20.5%で、現状としては全体の51.3%が採用活動のオンライン対応をしているようだ。
では、オンライン採用活動を実施している企業は具体的にどのようなツールやシステムを利用しているのだろうか(図2)。
回答の中で最も多かったのが、「『Zoom』などWeb会議ツールを面接に利用している」(50.9%)だった。これは前年の調査結果(51.7%)と比較しても横ばいで、ここ1年で新たに面接用のツールを導入した企業は少ないようだ。
採用管理ツールの導入率は全体として低い結果となった。「新しくSaaS型の採用管理ツールを導入した」(4.1%)と「以前からSaaS型の採用管理ツールを利用している」(10.0%)、「オンプレミスの採用管理ツールを利用している」(5.9%)、「Web面接専用のツールを導入した」(5.5%)となり、どれも1割以下という結果だった。
「その他」と回答した31.3%に具体的な内容を聞いたところ、「コロナ禍で新卒採用を実施できていない」というケースや採用活動そのものに関わっていない例などが複数見られた。
オンライン研修に限界、出社で人事教育に取り組む企業も
続いて、採用した人材が業務に参加するまでの教育がどの程度までオンライン化できているかを調査した。まず2021年の新入社員に対してどのように業務を定着させたかを聞いたところ、最も多かったのが「出社してオフラインで研修/教育プログラムを実施」(37.5%)だった(図3)。
一方「テレワークで業務を遂行しながら適宜オンラインで面談を実施」(21.2%)と「オンライン向けの体系立った研修/教育プログラムがある」(12.5%)、「体系立った研修/教育プログラムをオンライン向けに新たに作成した」(11.2%)の合計44.9%が、何らかのニューノーマル対応を取っていることが分かる。
これらの結果は前回の結果とほとんど横ばいで、コロナ禍で初めての新入社員を迎えた2020年4月から1年が経過したが、企業の対応は変化していないようだ。「その他」と回答した17.6%の中には「2020年はオンラインで研修を実施したが2021年は出社して実施した」「(2020年の)オンライン研修に限界があったため一部出社対応をした」「感染状況が落ち着いていた時期に出社して対応した」という回答もあった。
上司の“えこひいき”がテレワークで悪化? 人事制度への不満
非対面でのコミュニケーションが増えると課題になるのが「人事評価」だ。出勤して対面で仕事をしていれば自然と見えていた「働きぶり」が不可視化した中で、評価制度はどのように変わったのか。
人事評価制度について複数回答を募ったところ、最も多い回答は「数値化して業績を評価/管理している」(42.8%)だった。いわゆる「MBO」(目標管理)や「KPI」(重要業績評価指標)の数値化など、定量的評価にあたる。それ以降は「従業員のスキルは具体的に数値化されていない」(30.2%)で、「数値化してスキルを評価/管理している」(30.1%)となり。数値化されていない企業が2番目に多い結果となった。
人事制度が数値化されていないことで、企業への不平不満も募るようだ。「勤め先での人事制度に納得しているか、納得していなければその理由はなぜか」を自由回答で尋ねたところ、以下のような声が寄せられた。
- 上司の好みで評価され、部署によって過度なバラツキがある
- 声の大きい者がチームの評価を持っていってしまっている
- 実績ベースでの評価のはずだが印象ベースで評価されている気がする
- もともと人の好き嫌いなど評価に偏りがあったがテレワークに移行したことでさらに偏りが強くなった
- テレワーク以前の印象が評価を大きく左右している
- 仕事に必要なスキル、管理職に知識がなく難易度を数値化するのが難しく適切な評価ができていない
- 人事制度以前に上司が評価項目を営業用と技術者用で分けておらず業務にそぐわない努力目標を与えてくる
中間管理職以下の回答者を中心に、「業績ではなく上司からの印象や好き嫌いで評価が決まっているのではないか」という回答が多く見られた。中には、その傾向やテレワークでより強まったという声もあり、これは同僚の実際に働いている姿が見えなくなったことによる弊害と考えられる。
最後に、新たな雇用形態として話題になった「ジョブ型雇用制度」について、勤め先での導入予定などを自由回答にて尋ねたところ、多くは「取り入れるべきだと思うが自社では難しい」「制度自体をよく理解できていない」という意見となった。少数では「2022年度からジョブ型雇用に移行する」「近年中に一部で採用予定」という意見もあったがごく一部にとどまり、定着はまだまだ先のようだ。また、「ジョブ型従業員とそうでない従業員とでは、業績の評価指標が異なり、評価の公平性や公正性を保つのが難しい」といった意見も挙がり、新たな雇用制度を取り入れるには、従来の雇用形態での従業員への説明や意識変化の促進も大きなポイントとなりそうだ。
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