Web会議のITこぼれ話 社長が怒ってSD-WAN全面導入ってどういうこと?
Web会議でカメラオフにする事情は千差万別だ。とある企業では「かつて全社規模でカメラオフにする決まりがあった」という。その後、社長が激怒しSD-WAN導入にまでつながった。一体なぜ? どんなことが起きたのか――。
Web会議でカメラをオフにする、そのワケは?
「カメラが壊れているので、音声だけで失礼します」――。オンライン取材で、よく耳にするフレーズだ。心の中では“ほんとに壊れているの?”と懐疑的な気持ちになってしまうのは、なんとなくウソをつかれている気がするからなのか……。
個人的には、Web会議で映像を出さない理由をはっきり語ってくれた方がすがすがしい。例えば社内会議などでは「今日は化粧してないので、カメラオフでお願いします」なんていうケースもよくある。普段化粧をしない髭面の男である筆者は、化粧に掛かる労力とその効果をてんびんにかけることは難しいが、カメラをオフにするというだけでその手間が軽減できるのは大きなことだろう。
IT的な事情では「自宅のネットワークが細いので、音声だけでいいですか」と、家庭のネットワーク事情が垣間見える場面も。取材対象者が子育て世代の場合は、黒塗りの画面から子供の泣き声が聞こえることもあり、あやしながら会議に参加している姿を想像して少しほほえましくなるのは私だけではないはずだ。先日は同僚から「深酒して顔がパンパンなので、映像は勘弁して」と顔出しを拒否された。深酒する理由について非常に興味をそそられたが、いずれにせよカメラをオフにする理由は千差万別だ。
社長が激怒したら、SD-WAN導入を推し進めることに成功?
先日とある企業を取材した際、社内ミーティングや顧客との打ち合わせなどでWeb会議をする時、「かつて、『カメラを全てオフにすること』が運用ルールとして決められていた」というこぼれ話を耳にした。個人の事情でカメラをオフにすることはあっても、全社的にオフにするという運用は珍しい。取材後に、カメラの使用を制限していた理由について聞いてみた。
コロナ禍の全社的なテレワーク対応によるネットワークの遅延が原因で、社長から品質の悪化が指摘されてしまったからだという。「社長が各拠点にいる役員とミーティングする際、画面はカクカクするわ、音は途切れがちだわで、使い物にならんと激怒されてしまってね」(担当者)。本社側からインターネットに抜けるゲートウェイ部分が大きなボトルネックになり、少しでも帯域を圧迫しないよう、全社的にカメラをオフにせざるを得なくなったという。
「朝イチのミーティングは開催できるものの、途中から会議に参加してくるメンバーが接続できないほど拠点の帯域が逼迫(ひっぱく)してしまったんですよね。でも、社長に怒られたことは大きかった。だって、予算もつけやすくなったんですから」と担当者は笑いながら話す。担当者からすれば、ようやく予算を使ってネットワークが更改できるというプラスの効果のほうが大きかったようだ。
そこで、社長の気が変わらないうちに、ボトルネックを解消する策を早急に検討したという。通常であれば、拠点から本社への帯域増強やデータセンターからインターネットに抜ける回線の増強などを検討することになりそうだが、「Web会議以外にもクラウド利用が進み、将来的に閉域網の回線を増強し続けると膨大なコストがかかります。そうならないためにも、予算が使えるうちに抜本的な対策にしたかった」と担当者は言う。そこで決断したのが、SD-WANによるローカルブレークアウトだったわけだ。
結果として、各拠点にSD-WANルーターを設置して、Web会議のトラフィックだけインターネットに直接抜けていくローカルブレークアウトを実施し、本社から一括でインターネットに抜ける環境から脱却することに成功した。WANトポロジーを大きく変更することで、トラフィックを分散させて快適なコミュニケーション環境が整備できたという。
日本企業におけるSD-WANの大掛かりな導入の話を聞いたのは初めてで、いよいよSD-WANが国内でも展開が始まりつつあることを実感した。もともと海外ではIP-VPNなどで利用されているMPLS網の費用が高く、トラフィック種別に応じて閉域網とインターネット網を切り替えるSD-WANは多くの企業で導入されているが、日本の場合はMPLS網が海外ほど高額でないため、なかなか広がっていかなかったのが正直なところだ。Web会議を含めたクラウドサービスの普及によって、いよいよSD-WANが日本でも広がってくるタイミングなのかもしれない。
反省する機会が欲しい……Web会議で映像を利用することの効能
カメラをオフにして映像が表示されないことは、確かに取材に支障はないが、そのときは困らなくても、後の対面取材で困ることはある。Web会議を通じて取材した方と再びお会いした時、「以前お会いましたね」とお声がけいただいたときの対応だ。その人とどんなやりとりをしたのか、記憶が鮮明であればいざ知らず、まったく思い当たらないケースも意外とある。先日もお声がけいいただき、手にした名刺にある部署名や名前などを頼りに記憶を探るものの、一向に思い出せないなんてことが……。「先日はどうもお時間いただいて、大変参考になりました」と誰にでも使えそうなワードを並べてなんとか急場をしのいだが、取材中も頭をひねって考えたが、どうしても記憶がよみがえってこない。
そこで取材後に、恥ずかしながらどこでお会いしたのか聞いてみたところ、オンライン上の取材でマーケティング担当として取材に参加したときに私の顔を認識したようで、当人は、カメラはオフで最初のあいさつ以外はしゃべらなかったらしい。そりゃ、記憶に残っていないわけだ。自分の記憶力がいよいよ厳しくなってきたと落ち込まずに済んだ。今後アバターで応対するようなメタバースの世界が広がれば、個人を識別する情報は全く違うものが必要になってくるはずだが、現時点ではカメラから得られる顔の情報は、私個人としてはとても必要だと痛感している。
カメラを通じて顔が見える効能は、他にもある。相手の反応がダイレクトに感じられることだ。取材をする際には、相手方の反応を見ながら質問を変えていくこともあるため、できれば“あ、今の質問は良くなかったなぁ”と反省する機会は欲しいところだ。もちろん、カメラがオンであってもマスクをつけたままでは、同じように顔色を読み解くことは難しい。それでも、初めて話をした人物の声色だけで感情を正しく読み解くスキルは、ここ最近磨かれつつあるような気がしている。
余談だが、夫婦間のように日常的に会話をしている人であれば、普段の声のトーンとの違いから、表情が見えなくとも感情の起伏は確実に判断できる。プライベートでも余計な一言が多いため、日々反省する貴重な機会が与えられていることは、最後に付け加えておきたい。
読めば会社で話したくなる! ITこぼれ話
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