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「改正プロバイダー責任制限法」とは? 改正ポイントを分かりやすく解説SNSの誹謗中傷に対応

「プロバイダー責任制限法」が2022年10月に施行された。旧法施行から20年が経過し、SNSでの誹謗中傷にスムーズに対応できなかった点が改善された。これまでの問題点と改正内容を分かりやすく整理する。

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 「改正プロバイダー責任制限法」が2022年10月1日に施行された。SNSなどでの誹謗(ひぼう)中傷に対して、速やかに発信者情報を開示して被害者救済ができるよう訴訟手続きが見直された。本稿はプロバイダー責任制限法の基礎知識に加え、改正法のポイントを分かりやすく解説する。

プロバイダー責任制限法の大きな問題とは何か?

 改正前の「プロバイダー責任制限法」(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)は、ネット上で他人の権利を侵害する情報への対策として2001年に成立し、2002年に施行された。

 権利侵害情報が流通することの対策として、プロバイダーなどに対して損害賠償責任に関する規定を定め、自分の権利が侵害された被害者はプロバイダーに発信者情報の開示請求ができる規定を設けている。


図1 インターネット上で流通する違法・有害情報の例(出典:桑子博行氏提供資料)

 旧法の大きな問題に「情報開示までの期間の長さ」があった。手続きが煩雑で開示請求から開示までに数カ月以上がかかり、権利回復の阻害要因になっていた。裁判コストも被害者の負担として重くのしかかった。SNSや掲示板で誹謗中傷などに遭った被害者が何度も裁判をしなければならない点も問題だった(二重の裁判手続き)。

 SNSや掲示板などで「A氏は悪人だ」のように名指しでされた名誉毀損(きそん)にあたる書き込みをされた被害者が直接談判したり法的責任を問いただしたりするには、発信者が誰なのかを特定する必要がある。だが匿名による書き込みはもちろん、第三者によるなりすましの可能性もあり、被害者自身が発信者を正確に特定することは難しい。

 事業者にしても被害者からの発信者情報の開示請求に対して「いつでも」「すぐに」開示するわけにはいかない。事業者には「表現の自由」「通信の秘密」「サービス利用者のプライバシー」を守る責任があるからだ。自社のポリシーに沿って自主的な対応をする他は、個々の請求ごとに裁判所の判断を必要とすることが多い。


図2 インターネット上の違法・有害情報対策の基本的な視点(出典:桑子博行氏提供資料)

 被害者は、SNSや掲示板の運営会社(コンテンツプロバイダー)に対して発信者情報の開示を求める(1つ目の裁判手続き)。裁判所の仮処分決定によって書き込みに利用されたIPアドレスが得られれば、インターネット接続業者(アクセスプロバイダー)が分かる。

 被害者は、アクセスプロバイダーに対する2つ目の裁判手続きをすることで、書き込み時刻にIPアドレスが割り振られていた人物の契約情報(氏名、住所、メールアドレスなど)の開示を求める。

 ここまできて初めて被害者は特定された発信者に対して損害賠償などの訴訟を起こせるわけだ。

改正法のポイントを分かりやすく整理する

 プロバイダー責任制限法の改正ポイントについて、通信関連4団体で構成する「違法情報等対応連絡会」主査であり、プロバイダー責任制限法ガイドライン等検討協議会顧問を兼務する桑子博行氏に聞いた。

1. SNSなどのログインに関わる情報も発信者情報として明記された

 旧法が成立時のインターネット環境を前提にしているので、当時主流だった掲示板サイト以外のサービスに対応できない点が問題だった。現在のSNSはサービスへのログイン/ログアウト時のIPアドレスと時刻は記録されていても、特定書き込み時の発信者情報は保有しないことが多い。

 ログイン情報だけで侵害情報の発信者を特定できるかどうかが議論になった。改正法では「ログイン型」通信への対応としてログインに関わる情報についても発信者情報として認められることになった。以下の項目が総務省令に記載される発信者情報となる。

  • 住所
  • 氏名
  • 電話番号
  • メールアドレス
  • 侵害情報発信時のIPアドレス
  • ポート番号・移動端末設備
  • SIM識別番号
  • SMS電話番号
  • サービスの利用管理符号(ログイン情報など)

2. 新たな裁判手続(非訟手続)の創設

 被害者の負担を軽減する「発信者情報開示命令事件に関する裁判手続」という非訟手続が創設された。

 非訟手続とは、通常の訴訟手続きよりも簡素化された、裁判所の裁量権行使の幅の広い手続きだ。これまで必要だった二段階の裁判手続が1つの手続きで済むようになった。

 同手続きの中で、裁判所がプロバイダーによる情報の消去を禁止することも可能とした。IPアドレスなどのログ記録は短期間(3カ月程度)で削除されることが多い。裁判手続きに時間がかかり、情報が開示される前にログが消えてしまう事態を防止できる。

法律改正に拍車を掛けた誹謗中傷被害者の自死事件

 旧法の問題がクローズアップされたのは、2020年5月に発生した女性プロレスラーの自死事件だ。これを期に、政府・総務省やソーシャルメディア利用環境整備機構などが違法・有害情報への対策強化の動きを加速すると公表し、それ以前からあったプロバイダー責任制限法の改正への動きに拍車を掛けた。

ネット上の違法・有害情報対策の中での位置付け

 ネット上で流通する情報には違法なものと、違法ではないが有害なものがある。それぞれに対応する法律やガイドラインがあるので整理しておこう。


図3 プロバイダー責任制限法だけではない違法・有害情報への取組みとガイドライン(出典:総務省「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する研究会」報告書)

 違法な情報は「権利侵害情報」(名誉毀損、著作権侵害、肖像権侵害、その他の権利侵害)と、「その他の違法情報」(わいせつ関連法規に触れる投稿、違法薬物の売買にかかわる投稿、詐欺目的の投稿、貸金業法に抵触する投稿など)に分けられる。プロバイダー責任制限法は権利侵害情報に対する法律だ。

 テレコム協会のWebサイトでガイドラインが公開されている。具体的な法の運用について記述されているので参考になる。発信者情報開示請求チェックリストや請求書式なども入手可能だ。

 一般社団法人テレコム協会内のプロバイダー責任制限法ガイドライン等検討協議会サイトからダウンロード可能

  • 名誉毀損・プライバシー関係ガイドライン
  • 著作権関係ガイドライン
  • 商標権関係ガイドライン
  • 発信者情報開示関係ガイドライン

 これだけではネット上の違法・有害情報への対策としては不足している。「その他の違法な情報」については、「インターネット上の違法な情報への対応に関するガイドライン」がある。違法情報の典型例と対応法令について説明している。

 違法ではないが「公序良俗に反する情報」については「違法・有害情報への対応に関する契約約款モデル条項」がある。サービス契約時において、契約中にしてはいけないことを決めておく約款のモデルだ。サービス提供企業はこれを下敷きに約款を作成できる。約款に投稿の削除基準などを含められれば、プロバイダーの自主判断で侵害情報などを削除できる。

 「青少年に有害な情報」については、有害情報を流すサイトをフィルタリングするプロバイダー側のフィルタリングサービスの普及、啓発を促すアクションプランが作成されている。

 総務省と通信関連業界団体は、法律だけでなく、各種ガイドラインや約款モデル条項などにより違法・有害情報のネット上での反乱を防ぐさまざまな対策を進める。しかし表現の自由と通信の秘密、プライバシーを守る権利との間で判断が難しい個別のケースは、今後も増えると予想される。法律による規制やプロバイダーによる自主規制をどこまで適用するのかは微妙な問題だ。

 桑子氏は違法・有害情報は「国民の生活基盤となるべきインターネットなどの普及、わが国の高度情報通信ネットワーク社会の健全な発展を阻害することになりかねない」と断じる。

 改正法の施行により「誹謗中傷などの被害者が加害者の責任を追及する際の負担(時間・コスト)が減り、多くの問題が生じているSNSでの問題投稿に対処することが可能になる。インターネット上の権利侵害の減少と、インターネットを安全に安心して利用できる環境の実現を期待している」と語った。

 改正プロバイダー責任制限法により、これまでよりも発信者情報の開示請求が簡素化され、短期間での開示促進が期待できる。議論があったログイン型サービスの発信者情報に関しても分かりやすく整理された。

 ただし、この法律が適用されるのは日本国内の事業者に限られる。海外サービスは、その運営企業の属する国の法律が適用される点には注意が必要だ。

更新履歴

【2022年11月8日】改正プロバイダ責任制限法施行に伴い、内容を更新しました

【2022年6月10日】初版公開

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