検索
特集

ノーコード/ローコード開発ツールの利用状況(2022年)/後編

プログラミングのスキルがない非エンジニアでもアプリケーションを開発できるとして注目が集まるノーコード/ローコード開発ツール。開発作業者の「所属部門」や「コーディングスキルのレベル」「開発スキルの教育・習得方法」の他、「開発の統制状況」「開発しているアプリケーション」などを調査した。

PC用表示 関連情報
Share
Tweet
LINE
Hatena

 キーマンズネットは2022年7月4日〜14日にわたり「ノーコード/ローコード開発ツールの利用状況」に関するアンケートを実施した。

 その調査結果を基に、前編ではノーコード/ローコード開発ツールの導入率やメリット、課題などを明らかにした。ノーコード/ローコード開発ツールを「導入している」「導入を検討中」「興味がある」とした回答者は全体の約7割を占め注目度の高さがうかがえた一方で、開発者の確保や社内普及の難しさが障壁になり得ることが調査結果から分かった。さらに、回答者からは「エンドコンピューティングの悪夢がよみがえる」とのコメントも寄せられ、開発の統制やアプリケーションの管理に不安を感じるIT担当者がいると分かった。

 こうした課題に対し、ローコード/ノーコード開発ツールを導入している、あるいは導入を検討している企業はどのように対応しているのだろうか。後編となる本稿は、開発者の「人数」や「所属部門」「コーディングスキルのレベル」「開発スキルの教育・習得方法」の他、「開発の統制状況」「開発しているアプリケーション」などの項目から利用の実態を探った。

ノーコード/ローコード開発って本当に「誰でも」できるの?

 まず、開発人材の確保状況を調査した。一般的に、ノーコード/ローコード開発ツールは高度なプログラミングスキルを持たない非エンジニアでもアプリケーション開発を可能にするものだと言われるが、企業ではどのような人材が開発に当たっているのだろうか。

 ノーコード/ローコード開発ツールについて「導入している」「導入を検討中」とした回答者を対象に、ツールを利用する開発作業者の所属部門を聞いたところ「事業部門の業務担当者」(47.9%)と「情報システム部門」(45.1%)が上位に挙がった(図1)。


図1 ツールを利用する開発作業者の所属部門

 開発作業にあたる人はJavaやPython、C#などの言語を用いたコーディングスキルを持っているかと尋ねた項目では、「初学者程度に持っている」(26.8%)や「全くない」(29.6%)が合わせて56.4%と過半数を占めた(図2)。開発作業者の所属部門とコーディングスキルの項目をクロス集計したところ、事業部門に属する開発作業者のうち、55.9%がコーディングスキルについて「全くない」と回答している。


図2 開発作業者のコーディングスキルの程度

 なお、開発作業をするメンバーについては、「1〜5人」(56.3%)、「6〜10人」(15.5%)、「11〜30人」(14.1%)、「31〜99人」(5.6%)、「100人以上」(8.5%)だった。この順位は企業規模を「100人以下」「101〜1000人」「1001人以上」のグループで分けて集計した際も変わらなかった。

開発人材の学習方法は?

 高度なプログラミングスキルを持ったない人であってもノーコード/ローコードによるアプリケーション開発者として活躍していることが分かったが、ツールを使いこなすには一定の学習が必要だ。

 操作方法に関する情報リソースや開発者の学習方法については、「Webで公開されている情報や動画」(54.9%)、「ITスキルを持った従業員とのコラボレーション開発によるOJT」(38.0%)、「ベンダーやパートナーによるオンサイトあるいはオンライン研修」(35.2%)、「セミナーやユーザーコミュニティーなどのイベント」(35.2%)が上位に挙がった(図3)。


図3 開発スキルの教育・習得方法

 近年は、先進ユーザーによる解説コンテンツやコミュニティが増えつつあり、そこで公開されている情報が学習の助けになっていると分かる。一方で、「社内独自の研修や勉強会」(28.2%)や「ハッカソン」(7.0%)など企業が主体となって提供するものについては、相対的に回答率が低く、開発者はOJTや独学で学習を進める傾向にあると想像できる。

どのようにブラックボックス化を防ぐのか?

 次に、開発統制や管理の状況について聞いた。「アプリケーション開発の裾野を広げる」というメリットの裏返しとして、ブラックボックス化や属人化の問題が懸念されるが、導入企業はどのような対応をしているのか。

 ノーコード/ローコード開発ツールを安全に利用するために実施していることを尋ねた項目では、「開発ルールの策定」(43.7%)、「開発権限の割り当てと管理」(38.0%)、「開発されたアプリケーションの利用状況、リスク、品質のモニタリング」(28.2%)、「使用するテンプレートや部品の整理」(28.2%)が上位に挙がった(図4)。


図4 ノーコード/ローコード開発ツールを安全に利用するための施策

 さらに統制の役割を担う部門としては、「情報システム部門」(45.1%)、「開発部門」(28.2%)が上位2つを占め、これに「特に統制していない」(22.5%)が続いた。近年は大企業のDX組織による大規模なノーコード/ローコード開発の推進事例が話題になることもあるが、専任組織を立てて利用を統制しているとした企業は4.2%と少数だった(図5)。


図5 ノーコード/ローコード開発ツールの統制部門

 「開発の民主化」を促すといれるノーコード/ローコード開発ツールだが、事業部門の業務担当者が開発を担う場合でも、開発や設計、運用のルールを決め、場合によっては情報システム部門などの統制組織と協力体制を築くことがよいとされている。今回の調査でも「特に統制していない」は少数にとどまり、何らかのルールや統制部門による管理体制をしいている傾向にあった。

開発しているアプリケーションは?

 最後に、ノーコード/ローコード開発ツールによって作成した、あるいはする予定のアプリケーションをフリーコメントで聞いた。最も多く挙げられたのは、「勤怠管理」や「タスク管理」「案件管理」「顧客管理」「ワークフロー自動化」「在庫管理」「文書管理」「仕入れ管理」「予算管理」といった汎用(はんよう)的な定型業務を効率化するものだった。その他、「コロナ対策用非接触型問診ツール」「物流解析ツール」といった職種特化型のアプリケーションなどが挙がった。

 今後、ノーコード/ローコードによる開発の割合はどの程度(になる予定)かという質問に対しては、「10%」程度という割合が最も多く、まだ普及の予知はありそうだ。


図6 ノーコード/ローコードによる開発の割合

 今回の調査では、ノーコード/ローコード開発ツールを導入している企業、あるいは導入を検討している企業を対象に利用の詳細を聞いた。過半数の企業では、高度なプログラミングスキルを持たない人材が開発に当たり、導入企業では「開発の民主化」が進んでいる傾向が見て取れたが、野放しに開発を進めるのではなく、何らかの統制が敷かれているケースが多かった。

 開発者の人数については「1〜5人」とした人が最も多く、ノーコード/ローコードによる開発の割合は全システムの「10%」程度と回答した割合が高い。さらに、開発スキルの学習については、開発者自身が独学で学ぶ傾向にあり、専任組織などを設けて全社的な取り組みを実施している企業はわずかにとどまった。今後、ノーコード/ローコードの普及率がどのように推移し、それに伴って利用状況はどう変化するのか。編集部では引き続き動向を注視したい。

 なお全回答者数203人のうち、情報システム部門が31.0%、製造・生産部門が12.8%、営業/営業企画・販売/販売促進部門が13.7%、経営者・経営企画部門が9.8%などと続く内訳であった。グラフ内で使用している合計値と合計欄の値が丸め誤差により一致しない場合があるので、事前にご了承いただきたい。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る