プロジェクト管理ツールでルーズな人に仕事をさせるには? 失敗しない活用法を聞いた
2020年から始まったコロナ禍がプロジェクト管理ツールの利用を加速した。従来ソフトウェア開発の管理に利用されていたクラウド型のプロジェクト管理ツールは、今では非IT分野の業務管理にも広く使われる。プロジェクト管理ツールの専門家に選定方法と導入のコツを聞いた。
ビジネスにおけるプロジェクト管理の歴史は古く、19世紀後半に大規模な人員と資金を投入した鉄道プロジェクトの管理が発端と言われている。その後、さまざまなプロジェクト管理の理論が考案されたが、基本的な考え方は現代にも受け継がれており、大きくは変化していない。
時は流れ、コンピュータの登場と普及によってデジタルツールを用いたプロジェクト管理が一般的になった。クラウドアプリケーションを使ったプロジェクト管理は、2010年代に普及したが、2020年から始まったコロナ禍がその浸透を加速した。
クラウド型のプロジェクト管理、タスク管理ツールは、当初はソフトウェア開発の管理に利用されていたが、今では非IT分野の業務管理にも広く使われている。
代表的なプロジェクト管理、タスク管理ツールである「Jira」「Trello」を展開するアトラシアンでマーケティング統括マネジャーを務める朝岡 絵里子氏に、プロジェクト管理ツールの選び方と有効な使い方を聞いた。以下、タスク管理を含めて「プロジェクト管理」と表記する。
そもそも「プロジェクト管理ツール」が果たす役割とは
朝岡氏は、プロジェクト管理を検討する前提として、プロジェクトの定義を再度考えてみることを勧める。
「プロジェクトとは何だろう、と考えると、『目標』『始まり』『終わり』があって、その間に成果物を創造する業務といえます。そしてプロジェクト管理とは、ゴールにたどり着くまでのナビゲーションのようなもので、成果物を得るまでの『プロセス』『コスト』『スケジュール』『関係者』『リスク』を管理することです。各要素を調整して、ゴールを目指すことが、プロジェクト管理の目的になります」
プロジェクト管理ツールはその作業を支援するツールという位置付けである。業種、組織規模の大小にかかわらずプロジェクトは存在するため、どんなチームでも導入できる。
業務に適したツール選び、押さえておくべきポイントは?
プロジェクト管理ツールはどんな組織でも利用できるが、業務によって管理すべき情報やユーザーインタフェースは変わる。例えばアトラシアンでは、三つの領域に分けて製品を展開しているが、それぞれのプロジェクト管理の手法は異なる。
最も古くから存在するのが、ソフトウェア開発プロセスの管理に用いられているプロジェクト管理ツールだ。通常、ソフトウェア開発の中でもアジャイルと呼ばれる手法を用いている場合、複数のチームが役割を分担してスプリントと呼ばれる2週間程度の期間に各チームが連携しながら作業を進める。一つ一つのタスクは期限や関係者、やるべき作業が明確なため、作業を分解してシステムで管理できる。成果物が全てデジタルデータであることからもプロジェクト管理ツールになじみやすい業務といえるだろう。最近ではスクラムやカンバンといった、アジャイル開発手法をあらかじめテンプレート化して組み込むツールも存在する。
プロジェクト管理ツールの機能で重要なのが検索性だ。進行中のプロジェクトの個別タスクの進捗を確認したり、関係者や過去の取り組み結果をさまざまな検索項目で調べられたりするシステムが望ましい。
加えてプログラム開発に特化した開発ツールやチャットツール、カレンダーなど外部アプリケーションとの連携ができるかどうかも重要なポイントだ。他社のタスク管理ツールとも連携できることが望ましい。複数のチームが動くプロジェクトでは、オープンな思想で設計されたツールを使う方が成果につながりやすい。
二つ目のプロジェクト管理ツールは、社内外の問い合わせ対応(サービスデスク機能)ツールである。ソフトウェア開発用のプロジェクト管理ツールにて、サービスデスクが受け取る1件の問い合わせをタスクに見立てて管理したことからはじまった。大量の問い合わせ対応が並行して進むのを管理する専用の機能を付加している。
また、ITSM(IT Service Management)の成功事例をまとめたドキュメントであるITIL(IT Infrastructure Library)に準拠したツールも登場している。ITサービスの問い合わせ対応は地味な業務だが、素早い対応は従業員の生産性向上に直結するため、大企業では特に重要な領域である。社外に対しても、カスタマーサービスの対応は顧客体験そのものであり、ないがしろにはできない。
非IT部門はプロジェクト管理ツールをどう活用する
マーケティングや営業をはじめとするフロントオフィス業務、人事や法務といったバックオフィス業務など、非ITの領域でもプロジェクト管理ツールの利用が広がっている。その理由は、業務プロセス管理やチーム間のコラボレーションにプロジェクト管理ツールが使えることが分かったからだ。
また、コロナ禍で従業員がリモートで働くようになり、業務の状況が全く見えなくなった。そのため、マネジャーがチームメンバーの業務を見える化したいというニーズが重なり、プロジェクト管理ツールの導入を検討するケースが増えているという。
非IT分野のプロジェクト管理には、アジャイル関連などの開発者向けの機能は不要だ。その一方で、非ITのナレッジワーカーはプロジェクト管理ツールに慣れていない。ユーザーインタフェースがシンプルで分かりやすいことが必要だ。従来はスプレッドシートで業務を管理していた人が多いと思われるので、表形式でメンバーのタスクを管理するダッシュボードがあれば利用が広がるという。
これらの機能要件を満たすツールを選ぶことで、ソフトウェア開発以外のプロジェクトもコラボレーションが促進され、より多くの成果物を手にできるだろう。
ただし、ツール選定にあたって注意すべきことは機能要件だけではない。まず導入時、運用時のコストがリーズナブルかどうかを調べたい。例えば、前記したツールの大分類のうち、ソフトウェア開発者向けの機能は業務部門には不要なものも多いが、単一の料金体系の製品では、部署によっては使わない機能も含めた高いコストを負担する必要が出てくる。業務に合わせて柔軟な価格が設定されている製品が望ましい。
シンプルで分かりやすいツールを安易に入れるのはよくない。「一度導入したらそうそう変更するものではありません。何をしたいのかを見極めて機能を選ばないと、本当に成し遂げたい課題にたどり着く前に、ツールの機能が頭打ちになってしまう場合もあります。将来的な組織や業務の拡張を見据えた検討をしてから、導入すべきでしょう」(朝岡氏)
「使いやすいユーザーインタフェースか」「開発ベンダーが長期的に安心して利用できる企業か」なども確認しておきたい。こうしたツールは長期的に使い続けなければ効果を引き出すことが難しい。安心して使い続けることができれば想定以上の価値を生み出すことも期待できる。
プロジェクト管理ツール導入成功のコツ
企業がプロジェクト管理ツールを導入した後、放置していたのでは成果を挙げることが難しい。ツールの定着と価値向上に向けてすべきことがある。
目標の設定と成功事例の社内共有
まずは、しっかり目標を決めることである。朝岡氏は「ツールを入れさえすれば効率化できると考えるのは間違いです。仕事の進め方の何が問題で、どうすれば解決できるのかを腹落ちしている状態でツールを導入しないと、効果が出てきません」と語る。事前に課題と解決策を話し合っておかないと、抵抗勢力が登場してツールの浸透を妨害する可能性がある。
チーム内で一人でもツールを利用しないメンバーがいれば、情報共有の効果は激減してしまう。しかし、強制的に使用させたとしても長続きはしない。必要なことは、チームメンバーの一人一人に対してツール利用の効果を説明し、納得してもらうことだ。「無駄な仕事が減って早く帰れる」「ミスが減らせる」といった簡単なことでも効果が実感できれば、進んで利用するようになる。
一つのプロジェクトで小さな成功体験をつかみ、それを積み上げる「クイックウィン」が重要だ。社内のどこかの部署がツール活用がうまくいっているということが他の部署から見えることで、「うちの部署もしっかりやってみようか」ということにつながる。
これを戦略的に進めるには、最初に「メリットと効果をよく分かっている部署から導入して成功体験を作ること」、そして「いかに社内で見える化していくか」を考えればいい。例えば社内で勉強会を開いて成功事例を共有したり、ユーザーの疑問にハンズオンで答えたりすることが有効だ。
国内でも導入実績多数 その効果は?
すでに国内の企業でもプロジェクト管理ツールを活用して成果を挙げた企業が多く存在する。大手人材サービス企業ではサービスデスクにツールを導入し、月間1万件を超える問い合わせ対応を効率化した。その結果、スタッフのモチベーション向上につながり、サービス対応レビューの社内共有が始まるなど、行動の変化が起きているという。
また、大手フリマアプリの開発企業では、自社サービスの開発部門にプロジェクト管理ツールを導入した。その結果、新サービスのリリースを従来の2週間に1回から1週間に1回へと倍速化した。プロジェクト管理の高度化が顧客への提供価値を直接向上させた事例である。
プロジェクト管理ツールを導入する際のポイントは、開発者には開発者に合った、ナレッジワーカーにはそれに合った操作性、作法のツールを選ぶことだ。適切なツールを導入し、定着させていくことでチームメンバーの仕事を見える化し、やる気を引き出せる。結果的に企業の業績向上につなげられるだろう。
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