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SAPのクラウド戦略 S/4HANA CloudがABAPでカスタム開発可能に

SAPジャパンは、パブリッククラウド型SAP S/4HANA Cloudの最新版の提供を開始した。クラウドでABAP開発が可能になるという新機能の詳細をみていく。

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稲垣利明氏

 SAPジャパンは、パブリッククラウド型SAP S/4HANA Cloud(S/4HANA Cloud)の最新版の提供を開始した。従来の機能拡張「In-App拡張」「Side-by-Side拡張」に次ぐ、新たなカスタム開発機能が追加された。

 2022年10月4日のプレスセミナーで同社の稲垣利明氏が語った日本のERPの課題やSAPのクラウド戦略、新カスタム機能の詳細を紹介する。

日本のERPの課題とSAPのクラウド戦略

 まず稲垣氏は今回の発表に至る経緯や背景を振り返った。

 「2019年に経済産業省によって発表されたDXレポートで、既存システムがDX(デジタルトランスフォーメーション)の足かせになっていることや、IT投資の約8割が既存システムの維持や運用に費やされていることから、企業が新規の投資や新しいチャレンジに踏み出せていないのではないか、という問題提起がありました」


図1 2025年の崖で提起された日本の課題の振り返り(出典:SAPジャパンプレスセミナー資料)

 稲垣氏は、DXレポートの発表後に日本政府が定義したIT投資の方針についても触れた。

 「2021年には日本政府によって『クラウド・バイ・デフォルト』という方針が発表されました。日本政府は新規に検討する情報システムに対して、まずSaaSの利用を検討する、それが駄目ならIaaSやPaaS、オンプレミスは最後の手段である、という方針です。多くの企業でも同じような検討が進んでいるのではないでしょうか」


図2 日本政府のクラウド・バイ・デフォルトの方針(出典:SAPジャパンプレスセミナー資料)

 稲垣氏は、クラウド・バイ・デフォルトによってクラウド化を進めることでシステムの軽量化が可能になり、新規の投資やイノベーティブな取り組みを進めるための余力を確保できると述べた。そこでSAPも、今後3年間はクラウド中心のサービス提供に注力するという(図3)。


図3 SAPのクラウド戦略(出典:SAPジャパンプレスセミナー資料)

 SAPがクラウド戦略の中心に据えるのが、2021年に発表した「RISE with SAP」だ。S/4HANA Cloudなどの同社製品をベースにERPをクラウドシフトするソリューションで、SAPが掲げる「Intelligent Enterprise」の実現を加速する。

 Intelligent Enterpriseとは、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)、アナリティクスなどの最新技術を活用して、ユーザー企業の従業員の生産性を高め、予測に基づく先見的なビジネスを可能にする取り組みだ。

 S/4HANA Cloudは「SAP S/4HANA Cloud Private Edition」と「SAP S/4HANA Cloud Public Edition」の2つから成る。SAPジャパンが2022年10月4日に発表した新しい拡張機能は、主にPublic Editionに関わるものだ。

新機能でABAPによるクラウドシステムの開発が可能に

 S/4HANA Cloudの最新版では、SAPの開発言語であるABAPを用いてクラウドシステムのカスタム機能を開発できるようになる。


図4 SAP S/4HANA Cloud 拡張性(出典:SAPジャパンプレスセミナー資料)

 従来、標準機能ではカバーできない業種あるいは顧客固有の要件を実現するため、In-App拡張およびSide-by-Side拡張と呼ばれる2つの方法が提供されてきた。

 In-App拡張は、顧客独自の項目やビジネスロジックの追加、カスタム分析の追加作成といったカスタマイズを、ローコード/ノーコードで行う拡張ツールだ。

 業種別あるいは顧客固有のアプリケーションが必要な場合はSide-by-Side拡張を使う。開発プラットフォームである「Business Technology Platform」(BTP)で開発したアプリケーションを、APIでS/4HANA Cloudにつなぐことで機能拡張できる。

 今回提供を開始したABAPによるカスタム機能は拡張の柔軟性を大幅に高める。SAPが強化している製品標準機能と併せて、販売業務や製造業務、あるいは顧客固有の要件が見られる領域にも十分に対応可能となっている。

 新しいABAP開発拡張では、公開オブジェクトを使用した開発手法を採用しており、将来的な製品アップグレードの影響を受ける心配がなく、クラウドサービスによるイノベーションスピードの加速というメリットを保持したまま、固有のカスタム機能の実現が可能になるという。

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