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RISE with SAPとS/4HANAはなにがどう違う? 3大要素を徹底解説

SAP S/4HANAをベースにしたRISE with SAPは、企業経営に必要なサービスやツールを包括的に提供している。RISE with SAPとS/4HANAはなにがどう違うのか、RISE with SAPを構成する3つの要素に分けて解説する。

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 「SAP S/4HANA」(以下、S/4HANA)をベースにした「RISE with SAP」は、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進やサプライチェーン最適化、サステナブルな企業経営に必要なサービスとツールを包括的に提供している。従来のSAPユーザーばかりでなく、新規ERP導入企業にも価値をもたらす。

 ERPのクラウド化だけではないその機能を、SAPジャパンの柴野弘子氏(インダストリー&カスタマーアドバイザリー統括本部 財務経理ソリューション部 マネージャー)が語った。RISE with SAPとS/4HANAはなにがどう違うのか、RISE with SAPを構成する3つの要素に分けて解説する。

RISE with SAPでなにがどう便利になる?

 柴野氏は、RISE with SAPを「企業がデジタル改革やサプライチェーン、サスティナブル経営といった新たな取り組みしていく上で、必要なアクションを開始しやすくするサービスやツールをバンドルした包括的な提供形態」と述べる。

 ERPをクラウド化すること自体に価値があるが、RISE with SAPを利用することで、クラウドプラットフォームを活用した機械学習やRPAを用いた自動化、蓄積したデータを活用した予測など、高度な情報活用が可能になる。

 特にサプライチェーンの最適化を考えると、個々で企業内でインテリジェント化を進めても、情報の流通は個社間のEDI、あるいはメールやFAX、電話など、旧来の手段に頼っている場合が多い。それぞれの連携は情報の滞りを発生させる可能性があり、業務にマイナスの影響を与えかねない。

 従って、個々の企業のインテリジェント化にとどまらず、企業同士がデジタルでつながることが望ましい。その際の情報流通に「Business Network」を介することで、リアルタイムな情報連携が可能になり、連携されたデータを活用することでバックオフィス業務の自動化も容易になる。

 Business Networkとは、「SAP Ariba」のようにバイヤーとサプライヤーなどサプライチェーンの情報連携を担うネットワークである。取引先とコスト最適な情報連携が可能になるとともに、新しい取引先が迅速かつ確実に発見できてビジネスに広がりをもたらす。


図1 (上)従来型のEDIなどによる連携イメージ(下)Business Networkを利用した情報連携のイメージ(出典:柴野氏の講演資料)

 このような取り組みで活用するシステムやツールは多岐にわたり、選定して構築を進めると、完遂するまでに長い時間がかかる。そこで、企業がデジタル改革やサプライチェーン最適化、サスティナブル経営といった新たな取り組みを実行する上で、必要なアクションを開始しやすくするサービスやツールをバンドルして提供するのがRISE with SAPだ。

RISE with SAPの3要素

 RISE with SAPは図2のような製品とサービスをバンドルしている。ベースとなるのはS4/HANAであり、Business Network(図2左上)で外部取引先やビジネスパートナーとデジタルに連携可能にする。


図2 RISE with SAPに含まれる製品・サービス(出典:柴野氏の講演資料)

 また、「Business Process Intelligence」(図2の中央上)では、業務プロセス全体を可視化し、継続的な改善につなげられる。「Business Technology Plattform」(図2右上)は、最新テクノロジーを用いた業務の高度化、自動化だけではなく、蓄積したデータを業務判断に活用できる情報に整形できるようにする。

 図2の下段は、SAPをクラウド移行するため考慮点をチェックする「Reakiness Check」や、既存のアドオンをどう生かせるかについてアセスメントする「Cusutom Code Analyzer」、学習のためのプラットフォームである「Learning Hub」へのアクセス権も含まれている。本稿では図の上部の3要素を解説する。

Business Networkのポイント

 RISE with SAPにはBusiness Networkの初期利用権が含まれる。Aribaはその代表例だ。これを利用することで、取引先が増えるごとにEDI連携を構築し、バッチでデータを連携する従来の仕組みから脱却できる。メールやFAX、紙による情報連携の場合なら、人間が情報の到着に気付いてシステムに入力することでヒューマンエラーが起こるといった、ロスタイムにつながる仕組みから脱することができる。

 Business Networkを利用すると、個別にシステム連携を用意する必要がなくなり、Aribaでは受け取った電子データをそのままS4/HANAに自動連携できるため、処理の自動化、デジタル化が可能になる。デジタル庁が推進しているデジタルインボイスを、請求書を電子化するだけでなく、バックオフィス業務プロセルをデジタル化するものと受け止るなら、これは有用な取組みの一つだ。Business Networkは「Logistics Business Network」や「Asset Intelligence Network」も含む。


図3 Business Networkの概要(出典:柴野氏の講演資料)

Business Process Intelligenceのポイント

 Business Process Intelligenceを実現するのは「Signavio」のスターターパックだ。SAP ERPのログデータを用いて、稼働状況をSAPの業務プロセスやプロセス性能指標などと照らし合わせ、プロセスの効率を明らかにできる。業界のベンチマークとの比較もできるため客観的な評価が可能になる。


図4 Business Process Intelligenceの概要(出典:柴野氏の講演資料)

 問題なく回っていると思われた業務が担当者に依存しているケースもあり、担当者が変わると効率が格段に落ちた事例や、マスターの不備が原因の処理が多数発生してもシステムが自動処理しているために見つからなかった事例もあった。データドリブンのプロセス効率の可視化は、事実を正しく把握するために重要だ。

 問題の解決策はSignavioが提示する。処理の自動化率を上げるため、バッチジョブをスケジュール化する従来型の施策の提示もあれば、RPAを用いて伝票処理を自動化できる具体的な機能の提示もする。

 例えば、業務フロー定義書は定期的に更新されていないことが多く、作成当初の担当者が現場から離脱することで不明瞭な処理ステップが混在することがある。プロセス設計書をデジタル化し、関係者全員が参照して適切に更新できる仕組みが必要だ。Signavioはプロセス設計書のデジタル化も可能にする。

 他にも、RPAで業務ステップを自動化してもその後の業務ステップで処理が滞ることがある。Signavioを利用すると、業務ステップ変更後の効果をシミュレーションして検証できる。実際に一定期間業務プロセスを回してみて、ログデータと照合して改善効果が得られているかどうかを確認することも可能だ。

Business Technology Plattformのポイント

 SAPのBusiness Technology Plattform(SAP BTP)もRISE with SAPの一部だ。データ管理やアナリティクス、人工知能、アプリケーション開発、自動化、統合の機能を統一環境にまとめたものである。これに含まれるサービスのうち、約80のサービスが「Cloud Platform Enterprise Agreement」によって利用可能になる。


図5 Business Technology Plattform(SAP BTP)の概要(出典:柴野氏の講演資料)

 これにより、S4/HANAで実行する業務機能を柔軟に拡張、開発可能になる。例えば、取引状況を業務に必要な切り口でリアルタイム分析したり、経営層が必要とする切り口でデータを見れるダッシュボードを作成したりするなど、ニーズに応じた可視化に利用できる。機械学習でも蓄積されたデータを学習用のデータにでき、業務や経営観点で幅広く活用可能だ。

 他社のクラウドプラットフォームもあり、利用シーンに応じて適切に使い分けるようなハイブリッドな利用も可能だ。ただし、S4/HANAのデータを機械学習し、結果を書き戻すというようなケースでは、S4/HANAのデータモデルを十分に理解したSAP BTPが適している。

 今回はRISE with SAPの概要を一部省略して紹介した。既存のERPユーザーの利用価値の説明が多くなったが、SAPは、図6に示す(青枠内がRISE with SAPの役割)ように、全ての企業に利用価値があるという。


図6 SAPとの関係性に応じたRISE with SAPの利用範囲(出典:柴野氏の講演資料)

 本稿は2022年7月15日のSAP Sapphire TOKYOでの講演、「RISE with SAP : イノベーションを加速させるSAP BTP の全容」を基に編集部で再構成した。

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