サッポログループが考えた全従業員をDX人材化する方法
全従業員のDX人材化を目指すサッポログループは、目下2023年までに650人規模のDX人材を育成するという。どのように成し遂げるつもりなのか。成功の青写真をサッポロビール改革推進部の河本氏が語った。
DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の機運が高まる中で深刻化しているのがDX人材の不足だ。ITスキルに加えてデジタルビジネスの企画や立案、推進のスキルも必要とされるDX人材は圧倒的に不足していて、外部からの調達も容易ではない。年々需要が高まるDX案件に対応するためには、社内におけるDX人材の育成が急務だ。
サッポロビールをはじめとするサッポログループは、グループ内のDX案件に対する人員不足が課題だった。そこで同グループは事業会社ごとに策定していたDX方針を統一し、必要となる人材の育成を全社共通で行うことにした。2023年までに650人規模のDX推進人材を育成する予定だというが、どのように実現するのか。サッポロビールの河本英則氏(改革推進部 兼 サッポロホールディングス 経営企画部 マネージャー)が語った。
サッポログループはどうやって全従業員をDX人材化するのか
サッポログループは2022年1月、サッポロホールディングス社長が年頭あいさつで「全社DX推進宣言」をした。
宣言から間もなく、「お客さま接点を拡大」「既存、新規ビジネスの拡大」「働き方の変革」という3つの方針のもとで各事業会社がDXを推進すること、さらにその方針を実現するために「人材育成と確保」「推進組織体制強化」「ITテクノロジー環境整備」「業務プロセス改革」を実施することが決まった。
「人材育成と確保」は同グループが特に力を入れている分野だ。最終的に全従業員のDX人材化を目指すが、まずは2023年までに「グループ全社員リテラシー向上」「DX、IT推進サポーター育成」「DX、IT推進リーダー育成」という3段階の施策を実施することで、650人規模のDX推進人材を育てる予定だ。
「グループ全社員リテラシー向上」においては、全従業員約4000人を対象としたeラーニングを2022年の2月と3月に実施した。DXとITに関する基礎知識を5〜6時間で学ぶ内容で、DXに対する従業員の認識を合わせることを目的とした。
このeラーニングを受講した従業員の中からより専門的な内容を学びたい社員を募り、次の施策である「DX、IT推進サポーター育成」のプログラムを受けさせた。ここでは、DXやIT案件を支援できる人材の育成を目的に、30時間のeラーニングとスキルのアセスメントを実施した。この結果次第で次のステップである「DX、IT推進リーダー育成」のカリキュラムを受講できる従業員を決めるという。
「学んだことが身に付いているか、DXやイノベーションという変革に対する素養があるかが選抜基準となります」(河本氏)
「DX、IT推進リーダー育成」は、DX、IT案件を推進できる人材の育成を目的とする。デジタルビジネスの企画や立案、推進を担う「DXビジネスデザイナー」、データサイエンスやノーコード/ローコード開発を担う「DXテクニカルプランナー」、セキュリティやガバナンスを理解してシステム基盤の方針設計と運用を担当する「ITテクニカルプランナー」の3つのコース別に、20日間の研修を実施して従業員のスキルを測る。
「施策をはじめた当初は、経営層からメッセージを発信しただけでなく、事務局も説明会を開催するなどしてeラーニングの実施を周知しました。その結果、全従業員の99%がeラーニングに取り組んでくださいました。その先のステップに関しては応募制であり、どのくらいの方が応募してくださるのか正直不安でしたが、蓋を開けてみると想定の倍の応募がありました。20代から50代までさまざまな年代の方がいらっしゃり、職種も多岐にわたりました。社員のDXに対する関心の高さと、『このままではいけない』という危機感を感じました」(河本氏)
サッポログループは2023年までに実施するこれら3段階のステップを「第1フェーズ」とし、2024年からは「第2フェーズ」に入る構想だという。河本氏は「第2フェーズでは、研修で学んだことを進んで現場で実施できる人材育成の場としてコミュニティーの立ち上げを予定しています」と語り、次のように続けた。
「DX人材の育成は、研修終了が目的ではありません。育成した人材には、研修後に現場でしっかりとDX推進に取り組んでもらう必要があります。コミュニティーには外部業者を含め、グループをまたいだ多様なメンバーに参画してもらう予定です。新技術や事例などを共有しながら現場の課題を見つけ、解決に向けた取り組みを進めたいと考えています」
DX推進の土台であり、DXの実現に必要不可欠な業務プロセス改革
業務プロセス改革は、サッポログループが人材育成と並びDX推進において必要不可欠と位置づけている施策だ。企業活動や組織構造、業務フローを見直して再構築し、必要に応じてRPA(Robotic Process Automation)やAI(人工知能)による自動化、効率化を実施する。2018年から具体的な計画を進めて、2022年12月にはグループ全体で約36万時間の削減を見込んでいる。
河本氏は業務プロセス改革の一例として、社内の問い合わせ業務の変革事例を紹介した。業務に関するFAQサイトや規定集を標準化してデータ化し、クラウド型AIチャットbotとRPAを使ってそのデータをMicrosoft Teamsに連携させることで、社内の問い合わせ業務を自動化した。業務に関する社員からの問い合わせに、24時間365日回答できるようになったという。
最後に河本氏は次のように語り、セッションを締めくくった。
「さまざまな技術が日進月歩で進化するなど、DXを巡る状況は日々変化しています。1つの会社だけでDXを推進するのは容易ではなく、ITベンダーや他の企業と情報交換をしながらプロジェクトを進めていけたらと考えています」
本稿は、2022年7月28日にSoftBankが開催した「SoftBank World 2022」のサッポロビールの河本英則氏(改革推進部 兼 サッポロホールディングス 経営企画部 マネージャー)によるセッションを編集部で再構成した。
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