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法人向け「Chromebook」は"あり"なのか Windows PCとの比較やメリット、導入の注意点

「ChromeOS」を搭載したノートPC「Chromebook」が、テレワークの普及を機にシェアを伸ばしている。Chromebookという選択肢は“あり”なのか。

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 テレワークの浸透によって働き方が変化し、業務端末が各所に散在することで情報システム部門の管理負荷が高まった。そうした中、従業員の働く場所を問わず管理・運用しやすい業務端末として法人向け「Chromebook」という選択肢が注目を集めている。コロナ禍を機に業種・規模問わずWindows PCからChromebookに移行する企業も増え、Googleの公開事例にはユーザーとしてロッテ、敷島製パン、Jフロントリテイリングなどの有名企業も名を連ねている。

 Chromebookという選択肢は"あり"なのか。Windows PCと比較した際のメリット・デメリットや導入の注意点、ベンダーの選定ポイントなどを解説する。

 なお、本稿はChromebook導入の実績を持つ電算システムの田中英幸氏(クラウドインテグレーション事業部 E&Eソリューション部 部長)にインタビューした内容を編集部で再構成したものだ。

法人向けChromebookがなぜ今注目されるのか

 Chromebookとは、Googleが開発した「ChromeOS」を搭載したノートPCの総称だ。Windows PCを販売するメーカー数社から製品が販売されている。一般的なクラムシェルタイプのほか、2-in-1タイプがある。

 ChromeOSは、Webブラウザの「Chromeブラウザ」をインタフェースとして使うことを前提に設計されているため、Webアプリケーションの操作性に優れていることで知られる。

 Chromebookを利用する法人向けに、ユーザーや端末の管理機能を提供するクラウドサービスが「Chrome Enterprise Upgrade」だ。本稿では、Chrome Enterprise Upgrade で管理された Chromebook を「法人向けChromebook」と表現する。

 コロナ禍前において法人向けのChromebookは、製造現場やコールセンター、店舗用の端末といった特定の職種でのニーズの他、営業の外出用端末としてのニーズが高かった。一方、コロナ禍でテレワークが普及すると、オフィスでしていた業務を自宅で進めるためにChromebookを利用するケースが劇的に増えたという。VDIやRDSと組み合わせてシンクライアント端末として利用するケースもあれば、オフィスワークとテレワークどちらもChromebook1台で完結させるなど、幾つかのパターンがあるようだ。

 電算システムでは、この1年で約120社が新たにChromebook を始めとする ChromeOS端末を導入したとしている。テレワークを契機に企業でChromebookの利用が進んだ背景には、業務端末が社内外に分散したことで、情報システム部門による端末のキッティングやセキュリティ対策、紛失・故障などに伴う復旧作業、OSの更新管理の難易度が高まったことが挙げられる。これら端末の管理・運用の観点で、Chromebookのメリットが発揮されるというが、以下で詳しく見てみよう。

 なお、Chromebookの導入を検討する際はWindows PCとの違いを気にする人が多いと想像できるため、「Windows PC」と比較した視点を盛り込むこととする。

法人向けChromebookの機能とメリット

 ChromeOSは基本的に全ての操作をWebブラウザで実行することを前提に設計されている。一般的なソフトウェアをインストールできず、ブラウジングに特化したシンプルな構成が特徴だ。

 さらに、前述したChrome Enterprise Upgradeを端末とひも付けることで、クラウド上のGoogle管理コンソールからユーザーのGoogleアカウントやChromeOS端末を一元的に管理できる。クラウドで管理機能を提供することから、端末や管理者の場所を問わない運用が可能だ。これらの特徴は、Chromebookの幾つかのメリットに直結している。

導入時のリードタイムが短い

 端末の運用・管理にまつわるメリットの一つは、端末の導入時設定のリードタイムが短いことだ。Windows PCの場合、ウイルス対策ソフトの導入や企業のセキュリティポリシーの確認、環境設定などのキッティング作業が必要で、セットアップに1台当たり25分程度かかる(Windows Autopilotを利用していない場合、注1)。

注1 ESG テクニカルレビュー「Google Chromebook : デバイスのライフサイクル管理の促進」(2020 年 7 月)

 一方、Chromebookにおいてはソフトウェアなどのインストールや暗号化をする工程が発生せず、セットアップは6分程度で完了する。電算システムでは、1000台弱の端末を3週間以内にキッティングして納入した実績があるという。これによって、導入時の手間を大幅に削減できる。


図1 導入に必要となるものおよびそのコスト試算(出典:電算システムの提供資料)

管理コンソールでセキュリティ設定を一元管理

 管理コンソールを通じてセキュリティポリシーの設定も可能で、「Webページへのアクセスの制限」「スクリーンショットを制限」「端末のストレージ(SSD)の利用制限」「使用できるアプリケーションの更新、管理」など、600以上(2022年12月時点)の項目を管理できる。ポリシーは、働く場所や雇用形態に応じてユーザーをグループピングして、それぞれに設定できる上、ポリシーを一括配布することも可能なので、新しい端末を導入する際の手間も少ないという。


図2 管理画面:アプリと拡張機能(出典:電算システムの提供資料)

図3 管理画面:デバイス詳細情報(出典:電算システムの提供資料)

紛失時の対応工数が少ない

 Chromebookはオンラインで業務を進めることを前提に設計されているので、各種データは端末ではなくクラウドストレージに保存される。ダウンロードファイルやWebブラウザのキャッシュファイルなどの一部のデータは内蔵ストレージに保存されるが(内部ストレージへの保存を不可にする設定も可能)、これらのデータは暗号化されているので、ファイルへのアクセスは不可能だ。

 仮に端末の紛失、盗難時を想定してみよう。管理者はリモートで容易に端末ロックやデータワイプを実行できる。もし、ロックやワイプをかけた後でその端末が戻ってきた場合にも同様に、すぐに使える状態へと回復できる。ここまで説明してきたように、ソフトウェアのインストールやデータのローカル保存を極力避ける仕組みを備えているので、それらの復旧作業も必要ない。

毎起動時のセルフチェックと自動更新で、OSは常に最新状態に

 Chromebookにおいては、ユーザーが使用しているOSの他に、バックアップ用のOSが常時起動している。OSの起動時には、OS自体に改ざんや破損がないかのセルフチェックを実施して、メインのOSに問題があるときはバックアップOSに自動で切り替わる。

 OSの更新は4週間ごとに実施されるが、この際もバックアップOSとメインOSが入れ替わりでアップデートされるため、動作の遅延や待ち時間が発生しない。ユーザーはOSのアップデートを気にすることなく、常に最新のバージョンを利用できる。

 なお、OSの更新時に社内システムや利用中のソフトウェアで不具合がないか検証する作業については、ChromeOS は WindowsOS と比較して少ない負荷で済む。また、ChromeOS は更新ファイルのデータ量も小さいが、大企業などでネットワーク負荷が懸念される場合は自動的に分散してアップデートを行うなどの設定を施すことも可能だ。


図4 Windows端末とChromebookの設計思想の違い(出典:電算システムの提供資料)

法人向けChromebookの注意点やよくある疑問

 ここまで、法人向けChromebookのメリットについて説明してきたが、業務端末をWindows PCからChromebookに変えるときに留意すべきポイント

インターネット接続が前提

 Chromebookはネット接続状態で使用することが前提となっている。オフィスや自宅で利用するのであれば無線、有線LAN接続に問題はないだろうが、外出先などでは何らかのネット接続手段を用意する必要がある。オフラインでのファイル編集は機能が絞られる。

シンクライアントとして利用する場合

 Chromebook をシンクライアントとして採用する企業も増えている。URLフィルタリングやアプリの利用制限などのセキュリティ機能の他、アプリケーションやサービスの利用にあたってChromeOS で直接利用させるものと、仮想環境やRDS環境上で利用させるものとの使い分けができる、などのメリットが選定の決め手になるという。その際に注意したいのが、Android や PWA および webブラウザ に接続先が対応しているかどうかということだ。比較的新しいOSのために、現時点でChromebookでは利用できないサービスも存在する。そのため、導入前の検証は必須となる。

利用不可なシステムがある

 Chromebook は、強固なセキュリティを担保するために<.exe>のような実行ファイルの実行やOfficeをはじめとするさまざまなソフトウェアのインストールはできない。クライアント/サーバ型など、端末側にソフトウェアをインストールする必要があるシステムやIEに依存した社内システムも動作しないという。代替案として、クラウド移行やDX化の準備が整うまでは、部分的にDaaSやRDSを導入する(ことで管理コストも抑えながら利用する)という手がある。このあたりは、導入の進め方についても相談できる専門知識を持ったパートナーに相談しながら進めるのがよいだろう。

 ただ、これらの環境構築には別途仮想マシンのライセンス費用やVPNの設置など、コストの負担が大きい。そのため、AWS(Amazon Web Services)で動く仮想環境のAmazon Workspacesを使って、仮想環境が使える時間帯を制限するなど、コストを抑える工夫をしながら効率的な運用を目指す企業もある。このあたりは、専門知識を持ったパートナーに相談しながら進めるのがよいだろう。

キーボード配列

 キーボードの配列が変わることにも留意したい。ChromebookにはWindows PCにあった「ファンクションキー」がなく、代わりに独自のボタンが配置されている。これは慣れていくしかない。なお、その独自のボタンをファンクションキーとして使う設定や別ボタンと組み合わせてファンクションキーとして使用するショートカットの利用も可能だが、どのボタンがF1に割当たるかといったガイドがキーボードに印字されているかは機種による。

Chromebookのマシンスペックは低いのか

 Chromebookというと、マシンのスペックが低いイメージを持つ人もいるだろうが、ここ数年でChromebookの性能が向上し、画面も大きくなったことで、使い勝手の不満を訴える声は少ないという。ただ、高性能なマシンは値段も高く、ファットPCとの価格差は以前と比べて小さくなった。

 Chromebookを導入する企業は、端末の安さよりも、ChromeOSの堅固なセキュリティとChrome Enterprise Upgradeによる一元管理に注目するようだ。

Google管理コンソールを利用するためのChrome Enterprise Upgradeの値段

 Chrome Enterprise Upgradeは、単体のChromebookとは別に企業が購入して使用できる他、はじめからChromebookにバンドルされたモデル(Chromebook Enterprise)も販売されている。Chrome Enterprise Upgradeライセンスの価格は、端末1台につき買い切りで2万1000円、年間払いは7000円だ(いずれも税別)。

 なお、年間払いなら「 ChromeOS Flex」 で Chrome 化させた端末も管理できる(ChromeOS Flex は Google 純正の手持ちのPCのOSを上書きして Chrome 化させる無料のソリューション)。パフォーマンスの落ちた古い端末を延命させ ChromeOS端末として管理することで、リプレイス時の投資コストを抑えると共に、環境への配慮にもつながる。

Chromebookの導入事例

 菓子メーカーのロッテはかつて、デスクトップ型のPCをメインに業務を進めていたため、フレキシブルな働き方への対応が遅れていた。シンクライアント端末も導入していたが、レスポンスに問題を抱えていたという。同社ではこれらIT環境の見直しとテレワーク対応のため、幾つかの製品の比較検討を重ね、2020年1月から2600台のChromebookを導入した。直後にコロナ禍が始まったが、スムーズにテレワークに移行できたという。

 その他、製造業、サービス業など、業種や規模を問わず導入が進み、最近は自治体からの引き合いも多いという。フォーマット化されており、統制が必要な自治体の業務と、Chromebookの相性が良いという認識が拡大しているためだと電算システムでは見ている。

導入パートナーの選定ポイント

 Chrome Enterprise Upgradeを企業が導入するにあたり、ベンダーを選ぶ際に注意したいポイントがある。

 まずは、端末についての知識量と検証についての的確なアドバイスと支援が受けられるかどうかだ。CPUひとつをとってみても、Windowsで要求されるスペックとは異なることがある。      

 スペック不足はもちろんのこと、オーバースペックにもならないよう業務ニーズに対して最適なマシンの提案を受けられることが重要だという。

 次は、導入実績だ。Chromebookは「GIGAスクール構想」を背景に、多数の学校に導入されたため、文教への導入実績を持つベンダーは多い。しかし、企業における導入では文教の場合とは全く違うスキルや勘所が求められるため、企業Chromebookの導入実績が多い企業をパートナーに選ぶべきだ。他にも、ベンダーの能力を推し量る方法として管理コンソールのポリシー設定に関する質問をするというものがある。600以上ある項目から企業ごとの状況にあったポリシー設定を提案することは難易度が高く、経験やノウハウがなければ答えられないためだ。

 その他、LCM(Life Cycle Management)に関するメニューがあるかどうかも重要だ。Chromebookの導入数を増やしたいような場合に、伴走してアドバイスを受けられるサービスがあれば、スケール時につまずくリスクも減る。


図5 LCMサービスの一例(出典:電算システムの提供資料)

 ハイブリッドワークの浸透と、業務環境のクラウド移行が進む中、Chromebookは合理的なプランの一つになりそうだ。業務にはWindowsマシンが当たり前と思っている企業にも、一考の価値はあるのではないか。

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