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調査リポート

BYODの実施状況(2023年)/前編

BYODはユーザーの利便性が向上する一方、”シャドーIT”によるセキュリティリスクが増大するといった問題も抱えている。企業はBYODをどのように捉え、どのように活用しているのか。

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 働き方改革の推進やコロナ禍への対応によりテレワークシフトが進んだ。私用端末を業務で利用するBYOD(Bring Your Own Device)というキーワードは2009年頃からあるが、実感できるようになったのは前述の変化によるものが大きいだろう。BYODは、利便性による効率化が享受できる一方、”シャドーIT”によるセキュリティリスクが増大するといった問題も抱えている。

 企業はBYODをどのように考え、どのように活用しているのか。キーマンズネットは「BYOD(私用端末の業務利用)の実態に関する調査」と題してアンケート調査を実施した(実施期間:2023年2月24日〜3月10日、回答件数:353件)。前編となる本稿では、企業におけるBYODの認可状況や今後の利用意向について取り上げる。

多くの企業がシャドーITを黙認する理由は

 まず、勤務先でのBYODの認可状況を聞いたところ、「全社推奨」または「限定部署で認可」している企業の合計は23.3%であった(図1)。一方、「個人端末の業務利用はない/禁止されている」(44.2%)と明確に不認可としている割合は認可企業の約2倍であった。


図1:BYODの認可状況

 また、「認められていないが、現場レベルで個人端末の業務利用は起きている」(17.8%)や「推奨されていないが、個人端末の利用を前提に業務フローが構築されている」(12.5%)など、企業としては不認可・非推奨であるにも関わらず3割が”黙認”していることが分かった。

 従業員規模別にみると、BYOD不認可としている企業の過半数は300人を超える企業帯で、規模の大きい企業で禁止としているケースが多い。反対に100人以下の中小企業ではBYODを全社的に推奨する割合が2割と高く、柔軟な働き方の実現や端末コスト軽減を背景に推進している可能性がある。

 業種別では、IT関連業で2割近く認可されている一方、製造業や教育機関、医療機関等では不認可の割合が高い傾向にあった。管理体制を整備するハードルの高さが影響していると推察される。

 BYODで利用される端末は「携帯電話」(45.0%)や「ノートPC」(30.3%)、「タブレット端末」(14.2%)など、携帯性に優れる端末が上位に挙がり、在宅勤務やテレワークを中心に活用されていると予想される(図2)。


図2:BYODでの利用端末

BYOD反対派は賛成派の2倍超 その理由は

 企業での認可状況はさまざまだが、従業員はBYODについてどのように考えているのだろうか。利用意向を調査したところ「積極的に使いたい」(9.6%)、「どちらかといえば使いたい」(15.6%)を合わせた賛成派は25.2%に留まった。

 「どちらかといえば使いたくない」(27.2%)、「使いたくない」(27.5%)を合わせた反対派が54.7%が過半数を占めた(図3)。従業員規模別では、100人以下の中小企業においては賛成派と反対派が約4割と拮抗していたが、従業員規模が大きくなるにつれて反対派が多数を占める傾向にあった。


図3:BYOD利用意向

 BYOD賛成派の理由として最も多かったのは「費用負担がないのであれば、複数台の電話機を持ち歩かなくていいので楽」や「端末2台(会社携帯と個人携帯)持ちが負担」といった利便性について挙げる声で、次点は「会社端末のスペックが低い」や「動画編集などを業務で必要なときハイスペックPCが必要」「自分の使いやすい製品、環境を選べるから」など、個人端末を利用したほうが業務効率が良いとの理由であった。

 他にも「全員に必要なデバイスを支給することは現実的ではないため」にみられる経費を削減する用途であったり「複数台のスマートフォンを持ち歩く方が紛失などのリスクが高い」や「仕事用のPCを持ち帰るリスクを負いたくない」といったセキュリティリスクを挙げる声もあった。

 BYOD反対派にも聞いたところ「公私を分けたい」といった理由が最も多く寄せられた。中でも「なぜ私費で買ったデバイスやPCを、会社のために無料で使わなければいけないのか分からない」や「業務で必要な費用は会社が負担すべき」のように、BYODにかかる費用面での懸念もあれば、「業務とプライベートの境界が曖昧になる」「プライベートと業務の区別がつけにくくなるから(時間としても情報資産としても)」にみられる、時間や個人情報面の懸念があった。

 また、「もしものときに私生活内での取り扱いに関してまで責任が発生するため」や「セキュリティに問題があった場合に個人の責任を問われることになる」など、有事の際に問題の切り分けがしづらくなったり、個人の生活内にまで責任が及んだりするといったリスクを挙げる声もあった。

BYODを黙認する企業の在り方

 BYODの賛成派は25.2%、反対派は54.7%と大きな差が生じていたが、「どちらでもない派」も20.1%と賛成派に肉薄する割合で存在する。理由は「大部分の業務は会社支給の端末などで実施すべきだが、現場レベルの一部の細かい業務はBYODの方が効率的な場合もある」や「利用を希望する人のみBYODが可能で、基本的には会社支給デバイスによる代替手段が確立されていることが大前提」といった「条件付きの賛成」が多くあった。利便性とセキュリティのバランスが難しいものの、BYODのメリットとデメリットが無視できないのが現状だろう。

 BYODを推進するのは手段であって目的ではない。一方、テレワークや柔軟な働き方への対応が促進される昨今、BYODの必要性が増しているのは事実だろう。特に3割の企業は不認可・非推奨であるにも関わらず”黙認”されている結果を直視し、運用が曖昧になっている企業は、BYOD推進の目的を明確にした上で認可・不認可の線引きをする必要がある。

 以上、前編では企業におけるBYODの認可状況や今後の利用意向から、BYODの現状を確認した。後編ではBYODのメリットやデメリット、トラブル事例などから、導入・運用時の注意点に触れる。

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