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「IT介護はもうやらない!」 情シスの新入社員受け入れマニュアル

3月に会社を去る人がいる一方で、4月は新卒・中途の新入社員が増える頃合いです。正しく新入社員の受け入れをしないと、一向にITスキルが成長しない「IT介護」状態の社員を増やすことなります。情シスが新入社員の受け入れでやるべきこととアンチパターンをお話しします。

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情シス百物語

「IT百物語蒐集家」としてITかいわいについてnoteを更新する久松氏が、情シス部長を2社で担当した経験を基に、情シスに関する由無し事を言語化します。

 3月に会社を去る人がいる一方で、4月は新卒・中途の新入社員が増える頃合いです。前回は退職者対応に関するアンチパターンをお話ししましたが、今回は新入社員の受け入れについて情シスがやるべきこととアンチパターンをお話しします。

 正しく新入社員の受け入れをしないと、一向にITスキルが成長しない「IT介護」状態の社員を増やすことにもつながります。多少の費用と学習コストはかかりますが、しっかり取り組んでみましょう。

PCの準備

 まずはPCの準備です。ITベンチャーでは、開発者への福利厚生の一環としてPCを選ぶ権利があることがあります。OSや機種、CPU、メモリスペック、キーボード配列などを選択できるというものです。OSや機種などは難しくても、MacBookのキーボードを選べる企業もあります。

 しかしこれが情シス目線だと実に厄介です。私のかつての所属でも開発者のみPC環境を選べるようにしたことがありますが、これをするとPCの使い回しができないという欠点が生じます。リースに応じてくれる会社もありますが、カスタマイズだと割高感が否めません。

 また、ここ数年は正社員の定着率が低い傾向にあり、数ヶ月〜2年程度で辞める方が一定います。そのため、要望を100%通すというよりは、「macOS」か「Windows」を選べる一定のスペックのPCを用意するのが落とし所でいいと思います。

中途は突然入社するので注意

 中途は突然入社が決まることがあります。私の経験では「3営業日後に入社する人が決まったからよろしく」というものでした。PCの調整を理由に数週間延ばして問題ないポジションであれば構いませんが、当座のPC割り当ても含めて検討、準備しておくのがよいでしょう。故障時の交換用とあわせて数台ストックしておくことも検討しましょう。

低スペックPCに対して酷なアプリケーション「Microsoft Teams」

 様々なプロジェクトに出入りしていると、打ち合わせでMicrosoft Teams(以下、Teams)のみ使える企業が一定存在します。しかし、Teamsは非開発職のPCの計算機資源を多く要求するアプリケーションで、曲者です。Teamsは経験上、CPUは「Intel Core i7」以上、もしくは「Apple M」以上の環境でないとカメラを有効にした状態でメモ書きを目的としたタイピングができないほど動作が遅くなります。

 実際問題、カメラを有効にすることでPCが遅くなることを理由にカメラをオフにする文化の組織もあります。カメラをオンにしなくても仕方ないとされるプロジェクトは幾つか経験したのですが、顔色が分からないため虚偽の「問題ありません」という進捗報告により炎上することが非常に多いと感じています。いっそテレワークを辞めた方が炎上リスクは少なくなると考えています。

 「デスクトップのため、カメラがありません」と言われたこともありますが、リモートのメンバーや取引先とやり取りするポジションであれば、規定の環境が問題なく使える程度のスペックのPCとデバイスを企業が貸与できる体制にしなければ事業リスクとなります。

 同様のオンラインビデオ会議ツールとして「Amazon Chime」の要求する計算機資源も油断なりませんのでご注意ください。

購入かリースか?

 企業で導入するPCを買うのか、リースするのかといった問題もあります。

 個人的には、「定期的なリプレースを前提としたリース」をお勧めしたいのですが、少しでもコストを下げたい企業は購入後、OSがEOL(End Of Life)を迎えるまでに使っているところもあります。「Intel Core i3」、メモリは2GBのPCで8年ほど業務している人にもお会いしたことがあります。

 古い低スペックPCを使っている人の業務を観察すると、「待つ」ことを受け入れてしまっている人がいることが分かります。PCの起動に30分かかる、任意の操作をするとPCが5分間応答しなくなる、といったことを許容してしまうのです。

 お金の問題はありますが、業務効率に対して理解を示すのであれば、リースを組み、返却時期をリース会社と約束しながら計画的にPCをリフレッシュするのも有効です。

セットアップは自動化してますか?

 Windowsの一括展開サービスなどを使い、PC初期設定を自動化している会社も多いと思います。しかしまだ見る光景として、山積みになったPCを前に手動で設定をして、山を崩すことに妙なやる気を出してしまっている担当者もいます。

 「分かりやすい達成感がセットアップ完了数によって感じられる」や「技術的には新規の難しさはほぼないため着実にこなせる」などといったことを、達成感の理由として聞いたことがあります。残業や休日出勤もしていましたが、どこか“マゾヒスティックな喜び”も感じていたようです。時間がもったいないので自動化しましょう。

業務委託に対してPCを貸与するかどうか

 コロナ禍をきっかけにフルリモートが進みました。コロナウイルスの五類引き下げと共にオフラインへの回帰がありますが、業務委託については引き続きフルリモートのケースがあります。パフォーマンスに問題があれば契約を切ればいいことや、派遣契約で無い限りは指揮命令系統がないことが背景にあります。

 フルリモートになったタイミングで話題になったものとして、「業務委託の人に自社のPCを渡す」か「情報セキュリティに留意する旨の文言を含めた契約書を巻きつつ本人のPCを使わせる」かということで、企業ごとに対応が異なります。展開しているサービスや情報セキュリティポリシー、業務委託の内容によっても変化します。

 個人的な見解として、業務内容によってはPC貸与はなしで問題ないと考えています。他社製SaaSだけで完結するような業務内容の場合、セキュリティポリシーさえ引いてしまえば、本人の自宅ネットワークからどのPCでアクセスしてもセキュリティレベルに大差ないでしょう。そのような場合、PC紛失リスクがある分、PC貸与の方がセキュリティリスクは高いのではと考えています。

研修

 入社時のセキュリティ研修はやっておくに越したことはないと考えています。セキュリティ研修を軽視して話を聞いていない人がそれなりにいるため、セットで理解度チェックを実施する必要があります。過去に経験した事例として、「この人はITエンジニア歴が長いから心配は無いだろう」とテストをしてみたところ、100点満点中30点だったことがあります。

 ここ数年の傾向として、理解度チェックをGoogleフォームなどで実施する企業も見かけるようになりました。Googleフォームについては問題ないものの、「提出前に採点・修正ができる」というロジックをご丁寧に追加しているケースを見たことがあります。これは点数が高くても理解しているとは言いがたいので、長期的に見てセキュリティインシデントの発生リスクが高くなります。採点機能の利用はお勧めできません。

Q&Aの整備

 組織によって変わりますが、必ずしもヘルプデスクを置く必要があるのかどうかという議論があります。社員のITリテラシーが低い場合、ヘルプデスク担当者がいることによって些細なことでも「ヘルプデスクを呼べばいい」となってしまい、一向に社員が成長しないことがあります。いわゆる「IT介護」と呼ばれる状態です。

 既存社員がそのような調子だと、新入社員もそれに準拠するようになります。こうなると組織が大きくなった際、拠点ごとにヘルプデスクを置かないと厳しい状況になります。テレワークも困難でしょう。

 「IT介護」の常態化は、情シスのキャリアにも影響します。質問対応に追われた結果、転職時の面接において「業務としては、抜けた電源を挿し直していました。社員がよく抜くので問い合わせが多いんです」という方にお会いしたことがあります。これでは自身の市場価値を高めることは難しいでしょう。

 また、難易度の高いタスクが存在しないため、午前で仕事が終わってしまい、午後はずっと終業時間を待つのみという方もいました。自身の中長期的なキャリアを考えると、情報環境の利用ユーザーである社員にも成長してもらう必要があるのです。

 こうした自体に対し、下記のようなことを取り組む企業もあります。

  • QAを充実させメンテナンスし、質問があった際に積極的にQAに誘導し「まずはQAを見る」ことを根付かせる
  • 社内チャットにて「情シス質問チャンネル」を用意し、情シス担当者以外が回答してもいい空気づくりをする

受け入れの業務効率化を目標設定・評価する

 今回お話ししたような内容は、いくらかは技術のキャッチアップが必要なものであり、多少の費用と学習コストがかかる傾向にあります。ここを出し渋ってしまうと、先のPC手動セットアップのように、延々と工数ばかりかかり続けます。

 ここは上長と目標設定として合意してしまうことをお勧めします。情シスの工数削減が見込めるものであれば、削減見込み工数を合意することで評価で振り返りましょう。また、社員の任意工数の削減を掲げるのであれば、取り組みの前後で工数がどう変化したのかを振り返るようにしましょう。こうした経験は十分職務経歴書に書けるものです。

 before/afterの変化まで言及できている候補者は限られるため、良い意味で転職時に目立つことができます。自身の将来的な投資につながることを意識し、取り組んでみましょう。

著者プロフィール:久松 剛(エンジニアリングマネージメント 社長)

 エンジニアリングマネージメントの社長兼「流しのEM」。博士(政策・メディア)。慶應義塾大学で大学教員を目指した後、ワーキングプアを経て、ネットマーケティングで情シス部長を担当し上場を経験。その後レバレジーズで開発部長やレバテックの技術顧問を担当後、LIGでフィリピン・ベトナム開発拠点EMやPjM、エンジニア採用・組織改善コンサルなどを行う。

 2022年にエンジニアリングマネージメントを設立し、スタートアップやベンチャー、老舗製造業でITエンジニア採用や研修、評価給与制度作成、ブランディングといった組織改善コンサルの他、セミナーなども開催する。

Twitter : @makaibito


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