情シスのころ一番苦手だった業務:編集部コラム
新卒で入社してから5年ほど情報システム部門で働きましたが、とても苦手な業務がありました。情シスではない方は、情シスを労わるきっかけになったらありがたいです。
私は新卒で入社してから5年ほど情報システム部門で働きました。たまに「一番苦手だった業務は?」と聞かれるのですが、答えは一つです。
情シスの業務は企業によって大きく異なるので、共感する方、しない方がいると思います。情シスではない方は、本コラムが情シスを労わるきっかけになったらありがたいです。
一番苦手な業務とは
私が一番苦手だった業務は「法定停電に伴うIT機器のシャットダウン」です。知らない方のために簡単に説明します。
法定停電とは、国が定める年に一度の電気設備の点検作業に伴う人為的な停電です。電気設備に不備があると漏電や停電、感電、火災などさまざまなリスクが生じるため、定期的な点検を必要とします。詳しくは、電気事業法第42条第1項にまとめられています。
企業は点検時に電気設備の電源を全て落とす必要があるため、情シスはサーバやネットワーク機器、UPS、PCといった全てのIT機器の電源をシャットダウンしなければなりません。クラウド中心の企業は物理のサーバを保有していないため、サーバ関連の機器のシャットダウンは必要ありません。
私がいた企業は当時ほぼ100%オンプレミスだったので、法定停電では全てのIT機器の電源を落とす必要がありました。情シスではない方にはあまりピンとこないかもしれませんが、この作業はかなりのプレッシャーです。
プレッシャーは主に2つです。1つ目は「IT機器を壊さずに電源をシャットダウンすること」。2つ目は「IT機器を壊さずに電源をスタートアップすること」。要はIT機器が壊れないかどうかが全てです。
最近お会いした情シスの方は「オンプレミスでサーバを構えているが、停電対応はそれほど苦ではない」と言っていました。おそらく、企業のIT環境や情シスのインフラエンジニアとしてのレベルによって難易度は変わるのでしょう。
IT機器が壊れるとは
サーバやネットワーク機器は、安定稼働は得意でも電源を頻繁に点けたり切ったりされるのは不得意です。丁寧に電源を落としてもタイミングが悪ければ壊れます。特に壊れるのがネットワーク機器です。ハブのポートが1つだけ壊れるといった斜め上の壊れ方もします。
幸い私が担当時にサーバが壊れたことはありませんが、サーバのシャットダウン手順は職人的な要素があるため一歩間違えば壊れます。あるメーカーがスクラッチで導入したサーバの仕様書には「シャットダウンの手順を間違えたらデータをフォーマットする」と、理不尽な記載がありました。
3Tier構成の仮想化基盤のシャットダウンにもコツがあります。3Tier上の仮想マシン、物理サーバ、共有ストレージにはシャットダウンの手順があり、管理画面上シャットダウンできていても、しっかり時間をおかずに次の機器のシャットダウンをするとサーバが壊れるリスクがあります。
地味にプレッシャーなのが電気設備を点検する業者の方たちの圧です。彼らは他にも点検しなければいけない設備があるため、情シスがもたついているときは無言のプレッシャーを与えます。
なんとか無事に電源を落としたら人為的に停電を起こします。停電の瞬間は分電盤が切れる音なのか分かりませんが、サーバルーム中に「バチッ」という不穏な音が響き渡ります。そして、非常ランプが点灯し、何かのブザーが室内中に鳴り響きます。電源を切り忘れたUPSが悲しく光り続け、消えます。
電源を入れるときは異常な量のアラートを受信するなどいろいろな話があるのですが、言い出したらきりがないのでこの辺にしておきます。
法定停電中の思い出
停電中は普段できない作業をすることになります。ネットワーク機器のリプレースやサーバのメモリの増設、分電盤の切り替え、配線整備などです。私の一番思い出深い停電時の作業は先輩とデスクトップPCを自作をしたことです。
先輩はよく「情シスはPCの自作くらいできなくてはいけない」と口にしており、私が新卒の停電時に一緒にPCを自作してくれました。格安のパーツを買い集め、試行錯誤して組み立て、復旧したての電源でPCを起動できた時の喜びはよく覚えています。
追加でパーツを買い集めて徐々にPCをスペックアップし、グラフィックボードに「GeForce GTX 1060」を積むようにもなり、我が家のワークステーションとして10年近く活躍しました。しかし、電源もマザーボードの規格もそれなりに古くなり、そろそろ引退の時期かもしれません。
私が伝えたかったのは、本稿を読んで法定停電を知った方は、自社で法定停電があった後に情シスを見かけたら「お疲れ様でした」と一声かけてほしいということです。
※2023年4月26日、法定点検を法定停電に修正しました。
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