ポーラがレガシーシステムをSaaSへリプレース 事例で分かる3つの勘所
化粧品製造販売の大手、ポーラはレガシーシステムが新規事業や事業拡大の足かせになっていた。IBMのコンサルタントが、レガシーシステムをSaaSにリプレースするための勘所を紹介する。
化粧品製造販売の大手、ポーラではレガシーシステムが新規事業や事業拡大の足かせになっていた。そんな中、日本アイ・ビー・エム(以下、日本IBM)と協力してレガシーシステムをSaaSへリプレースした。
Oracleが2023年4月14日が開催した「CloudWorld Tour Tokyo」で、日本IBMの小嶋 基氏(IBMコンサルティング事業本部 シニアマネージングコンサルタント)が、「お客様事例に基づくPure SaaS導入の勘所」と題して、レガシーシステムをSaaSにリプレースする勘所を解説した。
ポーラのレガシーシステムが抱えた3つの課題
小嶋氏は「パッケージやSaaSのメリットを最大限享受し、効率よく業務を進めるには『Fit to Standerd』が重要」だとし、Fit to Standerdで業務の標準化を見据えた変革や、DX(デジタルトランスフォーメーション)の礎となるシングルプラットホームを実現したポーラのレガシーシステム刷新の道筋を語った。
ポーラは1929年に静岡で創業し、現在は「POLA」と「ORBIS」の両基幹ブランドを中心に、日本を含むアジアを中心に世界各国で多様な販売チャネルや価格帯で事業を展開している。2022年に発表した経営ビジョンでは、ビューティケア事業だけでなくウェルビーイングといった社会事業領域への進出を目指す。結果、新規事業や新規ブランドの立ち上げを見据えることになり、立ち上げに当たって3つの克服すべき課題があった。
1つ目の課題は、マルチブランド戦略によって消費者の動向に機動的に対応できるものの、各社が異なるルールややり方、プロセスを持っていたことだ。
「各社がばらばらのルールやプロセスを持つ中で新規の事業ブランドを立ち上げると、間接コストが膨らみます。事業が増えた分、比例してコストが増加することになり、先々立ち行かなくなることが予見されました」(小嶋氏)
2つ目の課題は、各社が経営分析や評価検証において異なる指標を使っていたことだ。同氏は「色々な事業を立ち上げるに当たって、統一した物差しで投資対評価をするため、分析軸などを定義し直す必要がありました」と語る。
3つ目の課題は、2010年の上場を機に整備したシステムの老朽化だ。
「ちょっとした変更をするにも、工数やコストがかかってしまいます。新規事業の立ち上げに当たって機動的に対応できるよう、システム基盤の整備が必要でした」
プロジェクト成功の勘所
そこで日本IBMは、新規事業の立ち上げや事業拡大に対応できるシステム基盤の構築を目指した。プロジェクトで変更したものは2つある。
1つ目は経理業務の標準化だ。ポーラの業務プロセスをクラウドERPの標準プロセスに合わせるFit to Standerdを採用することで、グループ全体の業務プロセスを標準化した。結果、決算や予算に関する業務効率を向上させた。
2つ目が経営管理の高度化だ。グループの情報を収集し、横ぐしで分析できるようにした。具体的には、グループで変動費や固定費、限界利益、貢献利益の考え方を統一した。また、事業地域やチャネル、商品を軸に分析をできるようにした。統一に当たっては、勘定科目や他のマスターの統一管理も必要になった。
「マスターの統一管理で活用したのが、Oracleの統合マスター管理ツール『EDM』(Enterprise Data Management)です。グループで統一したマスターを管理したり、各社が持っている販売情報を連携させたりします。その中で、各社が持っているコードをグループとして分析できるコードに変換するマッピング情報も管理しています」(小嶋氏)
小嶋氏はプロジェクトの経験を基に、SaaS導入で成功するための勘所を3つ紹介した。1つ目はトップメッセージの発信と落とし込みだ。パッケージやSaaSを導入するには標準化が重要になるが、「なぜ標準化する必要があるのか」をトップメッセージとして発信することで導入がスムーズに進むという。
「グループの経営方針と照らし合わせながら説明できるのが重要です。今回ですと、新規事業や事業規模の拡大を目指している中で標準化が必須であるといったコミュニケーションです」
小嶋氏は「Fit to Standerdはきれいごとではなく、覚悟をもって進めていかなければならない」と続ける。プロジェクトではチェンジマネジメントチームを発足し、各社のコミュニケーションを専門で担当するチームをつくった。メンバーはトップのメッセージを活用しながら、Fit to Standerdの考えを浸透させていった。
2つ目は、Fit to Standerdのメリットの訴求だ。同氏は、「Fit to Standerdのメリットは大きく2つあります。1つ目が業務やシステムの安定運用につながりやすいところです。追加開発しない分、設計開発や障害対応の工数を業務の定着化やシステムの安定化に充てることができます」と語る。
同社はFit to Standerdを適用することで開発の工数を絞り、統合マスター管理の工数を捻出できたという。小嶋氏は以下のように続ける。
「2つ目のメリットとしては、SaaSのメリットを享受できることです。四半期のアップデートで新規の機能や改善機能を使うことができます」
3つ目は、構想策定から実装までを一気通貫して進めることだ。同氏は「目的や目標をぶらさず、同じメンバーでプロジェクトを推進することが重要」と述べる。
「導入ベンダーだけではなく、お客さま側の責任者やプロジェクトマネジャーも構想策定から実装まで同じメンバーで進めていく。そうすることで、さまざまな意思決定であったり、選択が必要になったりしたタイミングで、構想策定で共有した思いに逆らわない方向での意思決定が可能になり、結果的にFit to Standerdを進めることができたと考えています」
以上が小嶋氏が数多くのプロジェクトから得たSaaS導入の勘所だ。日本IBMは今後も、顧客の基幹業務やDXの構想や実現、変革を支援していくとした。
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