ERPの利用状況(2022年)/前編
「導入に時間もコストもかかるERPは大企業が利用するもの」「中小企業は導入しづらい」というイメージを持たれがちだったERP。基幹系システムもクラウドシフトが進む中で、ERPの利用状況はどう変化したのだろうか。
財務・会計や販売管理、人事管理など企業の基幹業務を担う「ERP」(企業資源計画)。メインフレームからERPに置き換わり、今では大企業のみならず中堅・中小企業でも扱えるライトなERPも市場に出回っている。そして、SaaS(Software as a Service)シフトの波を受け、ERPの導入形態も徐々にクライアントサーバ型からSaaSへと移行しつつある。
こうした過渡期にある中で、現在のERPの導入状況と利用目的、利用状況を探るために、キーマンズネットは「ERPの利用状況」と題してアンケートを実施した(実施期間2022n年6月17日〜29日)。本稿では、前編、後編の2回に分けてアンケート調査結果を紹介する。なお、全回答者数196人のうち、情報システム部門が33.2%、製造・生産部門が13.3%、営業・販売部門が11.7%、総務・人事部門が9.7%などと続く内訳であった。なお、グラフの合計値と合計欄の値が丸め誤差により一致しない場合があるため、事前にご了承いただきたい。
ERP導入のボーダーラインは「従業員数100人」
まずはERPの利用割合について、キーマンズネット読者に勤務先でのERPの導入有無について尋ねたところ、「利用している」回答したのは52.0%と過半数を占めた。次いで、「現在は利用していないが、導入予定」が12.2%、「現在は利用しておらず、導入予定もない」が35.7%だった。(図1)。
この結果を従業員規模別にみると、1001人以上の企業では導入割合が7割を超え、100人以下の中小企業と比較すると倍以上の差が見られた。101人〜500人の中規模企業では、従業員数が101人を超えた辺りから導入率が半数を超え、導入検討率も最高値を示した。おおよそ「従業員数100人」がERPの導入を検討し始めることが予測できる。
次に、ERPを「利用している」「現在は利用していないが導入予定」と回答した人に対して導入形態(導入予定の人には検討している形態)を尋ねたところ、「パッケージソフトウェア(オンプレミス)」(46.8%)、「クラウドサービス」(37.3%)、「自社開発システム(オンプレミス)」(19.0%)、「クラウドサービスとオンプレミスのパッケージを組み合わせた2層ERP方式」(11.1%)と続いた(図2)。
この結果を2018年に実施した同様の調査結果と単純比較したところ、「自社開発」が11.8ポイント、「パッケージソフトウェア」が7.0ポイントと減少する一方で、「クラウドサービス」が21.9ポイント、「2層ERP方式」が3.4ポイント増加した。この増加割合を合計すると、2018年から2022年の4年間でERPの導入形態としてクラウドサービスを利用する割合が、25.3ポイント増加したことが見て取れる。
進むERPのSaaS移行、あえて「オンプレ回帰」を選ぶ企業
この成長曲線を見る限り、今後ERPのクラウドシフトがさらに進むのは想像に難くない。その傾向を探るために、現在勤務先で「オンプレミス型のERPを利用している」とした人に対して、クラウドサービスへ移行する可能性はあるかどうかを尋ねた。
その結果、53.9%と過半数が「可能性がある」と回答した。移行理由として最も多かったのは「ハードウェアの更新があるため」(53.7%)で、その後は「システム集約による運用コスト削減のため」(46.3%)、「ビジネスや業務処理スピード向上のため」(29.3%)と続いた(図3)。バージョンアップにかかるコストや今後を見据え、次期更新のタイミングでクラウド移行を検討する企業が一定数あるようだ。その他の形態として、「BCP(事業継続計画)のため」とのコメントもあった。
一方、現在「クラウド型ERPを利用している」とした人に、今後オンプレミスシステムへの移行、またはクラウドサービスとオンプレミスのパッケージを組み合わせた2層ERP」方式へ移行する可能性を尋ねた。
その結果、72.3%が「可能性はない」と回答した。クラウドサービスとパッケージソフトを組み合わせた「2層ERP方式」を除けば、オンプレミス型への移行の可能性は14.9%と2割にも満たない(図4)。ただし、オンプレミス型への移行の理由として「顧客情報に関するセキュリティに不安があるため」「機密性の高い業務があるため」などセキュリティ面を考慮する意見が多く、特定業界や取引企業との取り交わしによって自拠点以外の環境に機密データを預けることに懸念を持つ企業は、あえてオンプレミス型を選ぶこともあるだろう。
リプレース「予定なし」が6割、理由は「レガシー脱却」「DX化」
最後は、現在利用するERPをリプレースする予定があるかどうかについて尋ねた結果を紹介する。
ERPのリプレースを「予定している」としたのは26.5%で、「予定はない」としたのは62.7%と半数以上を占める結果となった(図5)。ERPは導入コストや運用コスト、学習コストなど、リプレースにかかる費用が膨らみがちだ。ハードウェアの老朽化などの差し迫る理由や、デジタルトランスフォーメーション(DX)の促進やデータドリブン経営へのシフトなどの特別な理由がなければ、既存のシステムを使い続けるケースが多い。
その傾向は現在も変わらないようだ。現在利用しているERPをリプレースする「予定がある」と回答した人に対してその理由を尋ねたところ、最も多かったのは「システムが陳腐化した」「契約更新のタイミングだから」「サポートの終了に伴い、次期システムへの移行」「システムがEOSを迎えた」など、リプレースの理由は主に老朽化や保守切れなどであった。
また「設備の更改」「DXの推進」「個別に稼働している会計システムと業務系システムを統合し、システムの全社最適化を図るため」「ランニングコストの削減のため」といった業務改善によるものや、「親会社の基幹システムリプレースに伴う見直し」など関連企業を含む組織全体でシステムを最適化するためにリプレースを考えているとのコメントが挙げられた。
特にコロナ禍以降は、環境変化へのスピーディーな対応がより重要になった。ビジネスを支える「ヒト」「モノ」「カネ」とデータを効果的に活用するためには現況を正確に捉えることが重要で、そのためにいかにERPを活用するかが生命線となるだろう。
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