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鉛バッテリーはもう終わり? UPSの最新事情と選定ポイントを解説

突然の電源断からIT機器を守るUPSは日常では忘れられがちだが、万一の時には救いをもたらす。ここ数年でUPSがどのように進化したのだろうか。最新事情と選定ポイント、導入の注意点を解説する。

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 UPS(Uninterruptible Power Supply:無停電電源装置)は、PCやサーバなどの電源が途絶えた場合に電力を供給することで、接続機器を安全にシャットダウンできるよう、機器を稼働させる装置だ。日常では忘れられがちだが、停電など万一の場面では大きな救いをもたらす。

 ここ数年でUPSはどのように進化したのだろうか。最新事情や選定ポイント、導入の注意点を解説する。鉛バッテリーとリチウムイオンバッテリーを10年間運用した場合のコスト差や、見落としがちなUPS運用時の注意点が分かる。

鉛バッテリーとリチウムイオンバッテリーを徹底比較

 UPSの特に大きいトレンドは、従来の鉛バッテリーモデルからリチウムイオンバッテリーモデルへのシフトだ。

 鉛バッテリーの利点はコストに比較して大容量であり、技術が確立されているため安心、安全に利用できることが挙げられる。一方で、コンパクト化が難しく重量の低減にも限界があり、利用されている物質の環境負荷が比較的高いという難点がある。

 一方リチウムイオンバッテリーは、単位重量あたりのエネルギー密度が鉛バッテリーの数倍〜10倍で、軽くて電力が大きいという特徴がある。また、鉛バッテリーのように自己放電がなく、長期間利用可能だ。

 リチウムイオンバッテリーには鉛のように人体に有害な物質が含まれておらず、比較的環境負荷が低い。価格の高さが大きなデメリットだが、電気自動車やPC、スマホなどリチウムイオンバッテリーを搭載する製品が増えるにつれて、製造技術や品質も高度化しているため、今後の低コスト化や信頼性の向上が期待できる。

リチウムイオンバッテリー搭載UPSがデータ処理能力を向上させる理由

 UPSは基本的に据え置きであるため、サイズや重量が気になる場面は少なく、低コストな鉛バッテリーで問題ないと考えられがちだ。しかし、多くの企業のシステムは絶え間ないシステムの拡張に迫られ、UPS環境も変化が求められる。

 コンパクト化や軽量化へのニーズは、データ量や処理量が急増する現代のIT状況に関連している。サーバとストレージの設置台数は処理するデータ量に応じて増えるため、UPSの設置スペースの削減が望まれる。

 データセンターではIT機器をラックに搭載し、ラックごとにUPSを備えるのが一般的な構成だ。ラックの棚数(単位はU)は24〜42Uの製品が増えており、ラックだけでも100キログラム、場合によっては1000キログラム以上になる。ラックには20キログラム程度のサーバが数台〜数十台搭載されることになる。

 比較的新しいデータセンターでも床耐荷重は3000キログラム程度で、一般的なオフィスのサーバルームでは500キログラム以上の床耐荷重を確保するのは難しい。数あるIT機器の中でUPSは特に重量が重いため、重量を減らせばより多くのサーバなどのIT機器をラックに搭載できるようになる。

 図1はシュナイダーエレクトリックの鉛バッテリーモデルと、同社のリチウムイオンバッテリーモデルを重量の視点から比較したものだ。このように、リチウムイオンバッテリーモデルをラックに搭載した場合、鉛バッテリーモデルよりも搭載可能になる。


図1 ラック上に搭載した鉛バッテリーモデルとリチウムイオンバッテリーモデルとの重量視点での比較(出典:シュナイダーエレクトリック提供資料)

 UPSのスリム化も重要な要素だ。これまで5kVAなどのモデルは3U(ラック3単位分)の製品が一般的だったが、同じ容量を2Uのリチウムイオンバッテリー搭載モデルで代替できるようになった(図2)。


図2 UPS本体、外部バッテリーパックのスリム化(出典:シュナイダーエレクトリック提供資料)

 一般的なデータセンターで1ラックで利用する電力は約4kVA程度であり、クラウドベンダーなどの高負荷なデータセンターでも6〜8kVA程度、図中の5kVAモデルと外部バッテリーパックの装備でほとんどのケースに対応できる可能性がある。今後は10kVAモデルも登場する予定で、高負荷なデータセンターにリチウムイオンバッテリー搭載のUPSが普及する可能性が高い。

 また、多くのUPSベンダーが小電力なモデルを発売しており、1Uモデルでも従来よりハイパワーなリチウムイオンバッテリー搭載UPSが登場した。比較的小規模なサーバルームでも、高いコストパフォーマンスと搭載サーバ数の増加を期待できる。

適用用途、接続デバイスが多様に増加中

 ラック搭載モデル以外に、家庭でも備え付けが容易な、小型・超小型リチウムイオンバッテリー搭載UPSが販売されるようになった。軽量化・コンパクト化のトレンドの影響を受け、UPSに接続できるデバイスも多様化している。

 PCなどのデバイスはバッテリー搭載モデルが一般化しているため意識されることは少ないが、ネットワーク機器の停電リスク対策として家庭用UPSは重要なものになった。リモート会議中に停電が起きても会議を継続できた例もある。

 ネットワーク機器以外には、NASやLANのハブ、(フロアの)ネットワークスイッチ、セキュリティ(監視)カメラなどでUPSの利用が進んでいる。店舗での設置も増えており、例えばカメラ以外にPOSレジや周辺機器(釣り銭機など)、カード決済端末、無線LANルーターなどで用いられている。店舗などのカメラはPoE給電が多いので、PoE対応のネットワークハブと録画装置にUPSを接続しておけばよい。

 従来のUPSの役割は、PCやサーバなどのシャットダウンまでの時間を稼ぐことだったが、低負荷のデバイスであれば数時間利用ができる場合もあり、用途が広がっている。

鉛バッテリーモデルとリチウムイオンバッテリーモデルの価格差

 UPSは最低でも5年、長ければ15年以上の寿命がある。使用状況により寿命は異なるが、日本電気工業会(JEMA)は、一般販売品のUPS装置は10kVA未満で5〜6年、10kVA以上で6〜10年を目安としている。また、同会はバッテリーの寿命は1〜3年のものと2〜5年の長寿命品やそれ以上のものがあるとしている。これらの数字は鉛バッテリーを想定している。

 リチウムイオンバッテリーの製品について、シュナイダーエレクトリックの5kVA製品の比較データを例として紹介する。同社の鉛バッテリー搭載モデルのバッテリー期待寿命が5年であるのに対し、リチウムイオンバッテリー搭載モデルのバッテリー期待寿命は10年だ。2倍の寿命差があるためバッテリー交換の頻度は半分になる。

 装置の寿命は、鉛バッテリー搭載モデルの標準製品の保証期間は2年、リチウムイオンバッテリー搭載モデルは5年の無償保証(2.5倍)だ。10年まで延長保証が可能なため、鉛バッテリー搭載モデルよりも長期間使用できる。

 バッテリー交換を考慮に入れてコスト比較をしたのが図3だ。青い線がリチウムイオンバッテリーで、バッテリー交換と本体の延長保証への切り替え、本体の交換といった時期で傾きが急になり、使用期間が7年を超えた時点で総コストが逆転する。長期的に見た場合、リチウムイオンバッテリーが優位になる可能性が高い。


図3 使用年数で見たコストの比較(出典:シュナイダーエレクトリック提供資料)

 UPSの装置やバッテリーの寿命は使用環境と使用状況に依存するので、ベンダーや機種によってコストは違う。しかし、バッテリー寿命と本体寿命の視点からUPSのコストを試算するのは、機種選定の重要なポイントになる。

停電対策以外のUPSの有効活用

 大規模な停電が起きる場面は限られており、UPSの有用性がなかなか認知されていない状況も一部みられる。実際は、送電設備の損壊事故などによる局所的な数時間の停電は頻発している。

 大規模な施設工事や点検に起因する電圧の変動、短い時間の停電などはIT機器に悪影響を及ぼすため、電力会社任せでなく自組織で適切に安定した電力を供給する必要がある。自家発電装置を備えるケースも多いが、給電を正常に開始するまでに数十秒〜数分の中断が生じる可能性があり、安定給電できるまでをUPSが担う必要がある。

 災害などの状況によっては外部との通信ネットワークが停止する事態にも備える必要がある。可能ならローカルにエッジコンピューティング環境を整えるのが望ましく、その場合はローカル環境に電源を供給するUPSが重要な役割を果たす。

 給電に関するリスクは停電の他、短時間の電圧の低下や変動(サグ/サージ)、過電圧や電圧不足、周波数変動、高周波ノイズ、電圧波形の歪みなどがある。UPSの給電方式や搭載機能にもよるが、ローエンドの製品以外ではこうした給電リスクをUPSが低減する。

UPSの監視や管理、自動シャットダウン機能

 UPSの機種によっては、常時リモート監視が可能で、異常時にはアラートを発報するソフトウェアやハードウェアも提供されている。一般的に監視ソフト搭載PCとUPSをシリアルポートでつなぎ、バッテリー給電に切り替わったタイミングで接続機器を自動シャットダウンする。

 自動シャットダウンの手順はソフトウェアによって事前の定義が必要だが、人間が停電時に慌ててシャットダウンするよりもはるかに安全に実行できる。手順を手動やスクリプトで行う他、技術者でない人がGUIで設定できる場合もある。

 またSNMPプロトコルにより、UPSだけでなくネットワーク上のSNMPエージェントの入った機器の監視も可能だ。システム全体の稼働状況を把握しながら統合的に管理でき、簡単に複数機器の自動シャットダウンや再起動をできる。

 なお、仮想マシン環境の自動シャットダウンなどは複雑な手順になる。特に多様な機能が混在するHCI(ハイパーコンバージドインフラストラクチャ)では複雑になる。

 UPSベンダーは複数のベンダーと連携し、常に新しい製品への対応を図っている。ベンダーによってはUPS運用に関する監視や管理のサービスを提供しているので、社内メンバーの運用に不安があれば相談することも可能だ。

ミニコラム

 UPSは耐用年数が忘れられたり、不適切な環境で運用されたりと、つい管理の手が抜かれがちだ。結果、本稿の編集担当もUPSのトラブルに遭ったことがある。それはUPSの「異臭騒ぎ」だ。

 ある日、出勤してサーバルームに入った瞬間、強烈な硫黄のような刺激臭に襲われた。一瞬原因は分からなかったが、すぐに原因はUPSの鉛バッテリーだと分かった。本来UPSのバッテリーに異常があるとUPS本体の赤いランプが点灯して危険状況を知らせてくれる。しかし、そのUPSは特にランプが点灯しておらず、静かに壊れていた……。

 本取材を通して、遠隔でUPSを適切に管理できたり、UPS以外の端末もあわせて管理できたりすることを知り、便利な時代になったものだと考えさせられた。

UPS運用時の注意点

 最後にUPS運用時の注意点を紹介する。

ローエンドUPSの「矩形波」給電には注意

 ローエンドのUPSは給電品質を保つ仕組みが十分でないことがある。出力する電圧の波形が安定した正弦波ではなく、急速に電圧が上がり急速に下がる矩形波の場合もある。

 矩形波は、安定した周波数を厳密に要求する機器では不具合を起こす可能性がある。多くのPCやサーバなどに搭載されているPFC(力率改善回路)は正弦波を前提にしているため、動作しないことがある。

 ベンダーは矩形波を擬似的に正弦波に近づける疑似正弦波出力のモデルを開発し、低コストで正弦波モデルに近い波形を出力するなどしているが、こうしたローエンド製品は事前に十分な検証が必要だろう。

急激な負荷増大ではトラブル発生

 ローエンド機種に限らず、UPSは急激な負荷増大に対応できない。オフィスや自宅などでプリンタや複合機、モーターなどを接続するとUPSが停止する可能性がある。エンドユーザー任せの管理になる場合は、こうした事項を周知しておく必要がある。

 また、カタログスペックのバッテリー寿命は推奨環境条件での場合を示していることにも注意が必要だ。カタログでは20〜25℃での期待寿命が表示されていることが多い。仮にそれより10℃高い温度条件では寿命は約半分に縮むのが一般的だ。

 UPSに温度センサーが搭載されていれば、期待寿命を正確に計算し、交換タイミングを通知する仕組みもあるので、機器選定時に注意しておこう。他の環境条件も劣化を早める要因になるので配慮が必要だ。

 以上、今回は主にリチウムイオンバッテリー搭載UPSのメリットと、自動シャットダウン機能、UPS利用時の注意点について説明した。過去記事にはUPSの給電方式や性能の考え方などより技術的な内容があるので参照いただきたい。

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