なぜ生成AIは使いものにならないのか? 12.2%の人たちの見解:生成AIの利用状況と課題(2023年)/後編
AI市場を再活性化させると生成AIに期待が集まる一方で、「今は使い物にならない」との判断を下すユーザーもいる。ビジネスパーソンの率直な評価はどうだろうか。
生成AIをビジネスに適用することで生産性の向上や業務効率化が見込める一方で、解決しなければならない課題もある。ビジネスパーソンは、今の生成AIをどう評価しているのだろうか。
前編に引き続き、後編では生成AIに対する率直な評価とユーザーお勧めの活用法、そしてビジネス活用を進める上で障壁となる課題や問題点など、アンケート調査(実施期間:2023年6月23日〜7月7日、回答件数:336件)を基にユーザーの見解を紹介する。
生成AIに対する評価、ビジネスパーソンの実感値は?
IDC Japanが2023年4月に発表した「国内AIシステムの市場予測」によれば、生成AIの市場投入によってAIシステム市場の再成長が見込めるという。生成AIを組み込んだ製品やサービスの発表が続くが、ユーザーは現在の生成AI技術をどう評価しているのだろか。
アンケート回答者に対して「現時点で、生成AIは業務やビジネスで活用できるレベルだと思うか」と尋ねたところ、「課題はあるが活用できるレベル」の声が多く(54.2%)、「未熟であり活用できるレベルではない」とした割合は全体の1割強(12.2%)だった。「十分に活用できるレベルである」とした割合は6.0%にとどまり、おおむね活用できるレベルであるとした割合が多数を占めた(図1)。
「未熟であるが、活用できなくはない」「未熟であり、活用できるレベルではない」とした回答者に対して、「使えない」と考える理由や見解を尋ねたところ、次のような声が挙がった。
- 正確性に問題があるので、結局、再検索する必要がある
- 期待する内容の生成に試行錯誤しているうちに、人力で十分な資料が作成できる
- 生成されたデータを自身で検証、判断する過程を含めると時間の短縮にはならない
- 指示の仕方によって結果が大きく変わるので、的確な指示が人間側に求められる
- 回答内容に明確な誤りがあることがあり、結果の妥当性を十分に検証する必要がある
- 結果が正しくなかったり、著作権侵害を犯していたりする可能性がある
- 望んだ結果を得られるまでプロンプトの更新が必要なため
- 情報が古く、最新データとの照らし合わせが必要になる
- 問題が発生した場合の責任の所在が明確でないためリスクが高い
- アウトプットの正確性が低く、質問者のスキルも必要でその教育が確立されていない
- 盗作、盗用チェック、ファクトチェックの実施が明確でない
コメントの多くが「情報の正確性に欠くため、結局時短につながらない」などアウトプットの精度に関するものだ。また、意図せず著作権を侵害してしまった場合の責任の所在など、現時点では法整備が十分でないため利用にリスクがあるとの声も目立った。時短、効率化のメリットを得るには、まだクリアしなければならない問題が山積のようだ。
趣味のコーチ役、自分を褒めてもらう 生成AIのトンデモ活用例
続いて、回答者自身がプライベートで「ChatGPT」などの生成AIサービスを利用しているかどうかを尋ねたところ、「利用している」が過半数で52.1%、「利用していない」は47.9%だった。「利用している」がわずかに多いものの、ほぼ回答を二分する結果となった(図2)。
プライベートで生成AIを「利用している」とした回答者に対して、おすすめの活用法や便利な使い方についてフリーコメント形式で尋ねたところ、思わず微笑んでしまうような回答や、なるほどと感心してしまう回答が寄せられた。
- 自分をほめてもらって気合を入れる
- 自分好みの小説を書かせて楽しむ
- 抽選応募時の作文(200文字程度)
- 旅行プランの提案に利用している
- 「LINE」でみんなを納得させる文章を作りたいときに利用する
- マンション管理組合の理事として住民からの質問への回答や想定問答の作成に利用
- おとぎ話を加工させて面白い話を作ると、元ネタを知っている子供たちが大喜びする
- 趣味のスポーツ上達のため、ステップバイステップで教えてもらっている
- 英会話の練習。ChatGPTで日本語から英語に変換し「iPhone」のSiriに英語で話してみる
- 資格試験の勉強で、テキストに記載されていることプラスアルファを調べる
- 学習カリキュラムの作成やおすすめの書籍など、自己学習のに利用している
- 子供の宿題や課題のアイデア創出に利用
対して、生成AIをプライベートで「利用していない」とした回答者にその理由を尋ねたところ、「インターネットで調べた方が早い」「自分で調べた方が有意な情報が取れる」などの声が挙がった。
情報収集を目的とする場合では「間違った内容をあたかも真実であるかのように回答する」など誤情報が含まれることもあるため、独自で調査した方が納得のいく回答が得られると考える人も少なくないようだ。また「どう使っていいか分からない」「活用方法が分からない」などの声もあったが、これは、今後、サービスの利用が浸透する中で解消されると考えられる。
誤情報に法的リスク、生成AIのビジネス利用、3つの課題
冒頭に記した通り、生成AIはAIシステム市場に再成長をもたらし得るなど期待が膨らむ一方で、情報の精度やセキュリティや著作権など課題山積の状況だ。
最後に、アンケート回答者に対して生成AIを業務やビジネスで利用するに当たって障壁となりそうな問題や、解決すべき課題について意見を求めたところ、3つの課題に回答が集中した。
1つ目は「法的リスク」の問題だ。アウトプットに混ざった誤情報や法的リスクに適切に対応するためには、チェック体制の構築や利用者のリテラシー教育が必須だ。
- 成果物の著作者は誰になるのか、生成AIサービス提供企業が権利を主張するのかなど、権利関係が問題で業務で使うにはリスクが高い印象
- 著作権や著作人格権、肖像権、特許などに抵触しないかどうかが心配
2つ目は「セキュリティリスク」だ。リスクを考慮し過ぎるあまり、活用範囲が限定的になってしまうなどが課題として挙がった。
- 個人情報や機密情報をAIに投げることで文書作成や校正、業務の自動化など活用範囲が広がる一方で、裏でどの様に処理されているのかが不明瞭で、今のところ利用を控えている
- 社内情報の入力が禁止されている状況では活用範囲が限定的になってしまう
- 機密情報など入力するデータを制限すると、本当に欲しい結果が得らない
- 機密情報漏えいのリスクがあるため、社内で利用する時は機械学習をオフにしている。ただ、そうすることでAIの良さを最大限に活用できないジレンマがある
3つ目は「誤情報」に関する課題だ。情報の収集元が明確でないため、情報が正しいか誤っているかを知るすべがないなどの声が集まった。
- 情報の根拠が示されていないので情報が正確かつ最新かどうかを都度確認する必要がある
- 平気でうそをつくことがあるので、ビジネス利用では回答内容の裏取りが必ず必要
前編、後編を通して、生成AIの利用状況と課題、業務活用の是非など、アンケート調査結果から得たユーザーの声を紹介した。生成AIの登場によって第4次AIブームの到来とも言われているが、実用的な技術だと認知されるにはまだ時間が必要だ。
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