レガシーERPに比べて変化に強い「コンポーザブルERP」の基本と活用方法
要件に応じてコンポーネントを組み合わせることができる「コンポーザブルERP」に注目が集まっている。コンポーザブルERPは日本企業にどのような価値をもたらすのか。
ビジネス環境の変化が激しい現代において、企業は変化への柔軟な対応が求められる。その柔軟性を阻害する要因の一つにレガシーERPがある。企業が融通の利かないレガシーERPを使い続けることは、変化に対応できずに市場での競争力を失うことにつながる。
そこで注目されているのが「コンポーザブルERP」だ。ではコンポーザブルERPとはどのようなものでどういった利点があるのか。業界の有識者たちがコンポーザブルERPの活用について語り合った。
本稿はワークスアプリケーションズ主催のオンラインイベント「WorksWay 2023」におけるトークセッション「ビジネスの成長に貢献する、変化に強いコンポーザブルERPについての考え方」を基に編集部で再構成した。
日本企業はなぜ最新バージョンの導入を避けるのか
イグレックの理事である八剱 洋一郎氏が、日本企業のシステム導入における課題を提示する。
「ERPに限らず、古いバージョンの業務ソフトウェアをいつまでも使い続けているのが日本企業の特徴。ただ、新しいものにはバグがあるし、安定してからの方がいいという気持ちも分かる。反対に欧米では、バグがあると分かりきっているβバージョンを積極的に利用する企業が多い」
そして、日本企業が新しいバージョンを積極的に取り入れない理由として、「トップがチャレンジを後押ししないから」と指摘した。一方、海外拠点向けのERPソフト「multibook」を提供しているマルチブックの代表取締役 CEO(最高経営責任者)の渡部 学氏は別の理由を挙げる。
「伝統的なERPでよくあるのは、基本機能とたくさんのアドオンを組み合わせる方法だ。これを利用している企業は、バージョンを上げたいと思っても、何百と走っているアドオンの互換性を全部確認する必要があるため取り組みづらい。結果として日本企業の動きを遅くする。アドオンだらけのERPを変えないと、日本企業のDXは難しい」
こうした課題に対する解決策の一つとなるのがコンポーザブルERPだという。システム間のデータをローコードで連携させるiPaaSソリューション「Boomi」を提供するBoomi Japan合同会社の日本法人代表の堀 和紀氏が説明を加える。
「コンポーザブルERPは全社ではなく、適材適所で使えばいい。事業領域によって、もしくは地域によって、異なる製品を使うのも“あり”だ。ただ、一つのコンポーザブルERPに業務データが集約されないため、他のシステムとつなげないといけない。特に顧客のマスターデータと人のデータは忘れがちだが、連携させるべき重要なデータといえる」
実際に海外企業では、本社にはグローバルなERPを導入する一方、子会社には導入するERPの選定を任せる例も多いという。
「グループ全体で従業員が数万人いる企業でも、本社の人員は数千人程度だ。また子会社になると数十人規模の組織もある。日本では、小規模な会社・拠点も含めて、本社で採用しているグローバルERPをそのまま導入するケースがよくある。しかし考えてみれば、子会社として責務を果たせれば、ERPはどのようなものを導入してもいいはず。整合性を目的に本社と子会社が同じERPを入れれば、導入コストは非常に高くなる」(八剱氏)
変化に対応しやすいのがコンポーザブルERPの利点
渡部氏は別の視点も加えた。「欧米企業が大事にしているのは管理会計だ。一方、日本企業は税務会計、財務会計を重視しすぎている。ゆえにコンプライアンスばかりを強化して、ERPの導入が企業業績を向上するための取り組みにはなっていない」
参加者に共通する認識は、環境変化のスピードに柔軟に対応するERPの必要性だ。ERPベンダーに代わって低コストな第三者保守サービスを提供している日本リミニストリートの代表取締役社長の脇阪順雄氏は以下のように語る。
「例えば50年前の会計と今の会計を比較しても、IFRS(国際財務報告基準)が導入された程度で大きな変更はない。また、簿記の仕組みはまったく変わっていない。おそらく100年後も簿記は変わらない。一方で、変わっているものもある。例えば請求書の照合はAIがやってくれるようになった。このように進化の遅いものもあれば、進化の速いものもある。これらを一つの箱に入れてしまうと、速いものの足を遅いものが引っ張ることになる。変化の速い部分に対応するものがコンポーザブルERPだ」
渡部氏は、コンポーザブルERPに対する理解が浸透していない要因をこう考察する。
「経産省のDXレポートでも指摘されていたが、日本企業はIT投資以前に、ITが分かる人を社内に配置していないケースが多い。ゆえにオールインワンのERPの方が導入は楽だという発想になる。コンポーザブルは馴染みのない英単語のため難しいと感じるかもしれないが、簡単に言えば『いいとこ取り』だ」
システム導入における日本企業のフットワークの重さについて、脇阪氏はこう指摘する。
「アーキテクチャを変えようという話になると、日本人の真面目さが悪い方向に出る。最終ゴールを決め、10年計画で絵を描いてしまう。しかし10年経ったらアーキテクチャも進化している。だから大きな絵を描いてから始めようとすると遅れが出てしまう。特定の課題に的を絞り、アジャイルで解決しようという発想が大事。小さな領域で、少ない初期投資でコンポーザブルERPを試して、失敗したらすぐ撤退するという判断でいいのでは」
本講演に登壇した企業の有識者はいずれも、コンポーザブルERPに対して大きな可能性と期待を感じている様子が分かった。ビジネス環境の変化が激しい現代において、コンポーザブルERPの利用を検討してみる価値は大きいといえるだろう。
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