RPAが「一部の業務自動化しかできない」問題について考える
RPA運用の課題として「一部の業務自動化しかできない」ということが指摘されてきた。理由を考察するとともに解決策を考える。
2022年11月にOpenAIが大規模言語モデル「GPT-3.5」を利用したチャットbot「ChatGPT」を発表し、大きな話題を呼んだ。2023年3月にはより精度の高い「GPT-4」がリリースされ、オフィス業務の自動化をさらに強化する存在として、自社のサービスや業務に技術を組み込むケースが続々と発表されている。生成AIが業務自動化分野の可能性をさらにおし広げた2023年、企業の業務自動化はどこまで進んでいるのか。
業務自動化の現在地を探るために、キーマンズネットは「業務自動化に関する意識調査2023年」と題してアンケート調査を実施した(期間:2023年7月20日〜8月31日、有効回答数:606件)。本連載は、全8回にわたってアンケート調査から得られた結果を紹介する。
第3回となる本稿では、業務自動化の主要ツールとして約4割の企業に導入されているRPAについて、課題を掘り下げる。
第3回のテーマは「スケールの障壁」だ。RPAはここ数年でエンタープライズITで安定した地位を築いたかに見えるが、導入した企業の中からは「運用が大変」という声が聞こえてくる。具体的にどのような課題があるのか。
RPAをトライアル中、本格展開中の企業に「RPAの拡大、展開時にどのような障壁があったか」について聞いたところ、「RPAロボットのスキルを持った人がいない」(41.1%)で、「ロボットの管理が煩雑」(27.7%)、「ロボットが停止する」(25.6%)、「業務の一部しか自動化できない」(24.9%)が続いた(図1)。RPA導入調査は例年実施しているが、拡大時の課題としてこの4つの項目が必ず上位に並ぶ。
スキル人材不足については、スモールスタートで始めたRPAの取り組みが社内に広がるにつれて、現場主導にしろ、CoE(Center of Excellence)主導にしろ、新たな人材の投入が必要になることが多い。幾つものアプリケーションを連携させるような複雑なステップを踏むシナリオであれば、その分知識を持った人材が求められる。人材確保や社内体制の整備については、各ベンダーやSIerがさまざまなノウハウを発信しているので参考になるかもしれない。
ロボットの管理が煩雑、ロボットが停止するという点についても、RPAの課題として長年指摘されてきた。管理やエラー処理に忙殺されて、RPAの「お守り」にかかる労力とRPAの効果が相殺されるといった話も聞かれる。最初からエラーが出にくいシナリオ設計を考えるといった対処法や、導入当初に拡大を見越して管理機能を持つツールを導入する、外部変化の影響を受けやすい「UI操作の自動化」以外の連携技術を組み合わせるといった方法が言われている。
RPA「一部の業務自動化しかできない」問題について考える
最後に、「業務の一部しか自動化できない」については、RPAの機能的な制限が要因だと考えられる。RPAのコア技術である「UI操作の自動化」は、シンプルな繰り返し作業に適しているため、複雑な判断を要する業務や変動が多い業務には適していない。実際に、RPAを適用している(したい業務)の上位3つは「ワークフローの自動実行」(51.9%)、「集計レポート制作」(41.5%)、「定型メールの送信」(31.5%)といった定型作業が上位に並び(図2)、業務自動化の対象となるアプリケーションは「Excel」(47.5%)が最も多かった(図3)。
大規模なシステムや複雑な業務フローを持つ場合には、RPAのスケールアップに制約が生じる場合もある。
前述したように、RPAは外部環境の変化の影響を受けやすい。設計時にRPAのシナリオをメンテナンスする方法や手順について考慮しておく必要がある。
その他、企業のコンプライアンスによっては、セキュリティリスクの問題からそもそも自動化の対象にできない、あるいは必ず人間のチェックを必要とするような業務も存在する。
いずれの場合も、RPAの対象業務から外れたり、自動化するにしても人間によるチェックや、他のツールとの組み合わせといった対処が必要になったりするため、RPAだけでは完結しない。RPAは多くの場面で有効だが、その限界と利点をしっかりと理解した上で、最適な適用範囲を見極めることが重要と言える。
なお、今回の調査ではRPAを導入したが取りやめたとした企業の意見もフリーコメントで聞いた。すると同様の課題が浮き彫りになった。以下で一部を紹介する。
<保守性・メンテナンス性>
- 作成や保守に手間が掛かり、時間のロスが多かった
- システムのエラー処理が稚拙で進行ログや代替処理の実装に手間がかかる
- 運用が難しく、情報システム部がしっかりしていないと厳しい印象
- 環境の変化で誤った処理を行うようになったことに気付かないリスクが無視できない
- 目的が不明瞭な状態でツールの試験を行った。維持コストに見合う自動化作業を見いだせなかった。
<費用>
- 費用に見合わない
- 導入試算の結果、コストメリットが小さく承認を得られなかった
<スキル、人材不足>
- 開発要員を手配できなかった
- 年間ライセンス費用が高額のため継続しなかった
- ローコード/ノーコードと混同されて、簡単に構築できるような誤解がある
<自社業務との相性>
- 適用できそうな業務が少なかった
- 基幹システムがRPAツール全般で操作できなかった
- 自社業務がRPAで自動化できるほど、一律的な作業ではなかった
- 細かい要望を既存システムで実現できなかった
- マクロとバッチである程度の自動化は実現できている
<機能的制限>
- 遅い画面遷移を伴う場合、これがネックとなって人間の操作と比べても処理速度の向上につながらない
- ノーコード/ローコード開発ツールや生成AIの進化を待つ方が得策と判断したため
<個別最適の助長>
- RPAによるシステム連携は一時しのぎにはなるが、将来的な全体最適化を阻害する
- 「定型帳票を自動で出力する」「決まった日時にメール配信する」といった自動化を実装してきたが、そもそも帳票に依存し過ぎるシステムを使っていることが問題だと感じている。そこに費用を支出することは根本的な解決にはならないし、メール自動配信はメールクライアントの設定やスクリプトで簡単にできるものを「RPAだ!」とSIerの口車に乗って、「やっている感」を出しているだけだと感じる。
フリーコメントでは、RPAが個別最適を助長するというような意見も見られた。仮にRPAによる自動化対象となる業務であっても、その業務プロセス自体が非効率なものである場合、非効率性を固定化してしまう恐れもある。
RPAに限らず、業務の自動化を検討する際は、業務プロセス全体を見て、必要に応じてBPR(Business Process Re-engineering :業務改革)などを実施しながら、自動化のために適用する技術を見極めることが理想だ。一方で、全体最適を見据えるのならば、現場の視点に偏らないアプローチで「(部門をまたぐような)広範囲な業務プロセスの改善やスピードの向上につながるかどうか」「業務の先の顧客価値につながるかどうか」といった視点も取り入れながら、目的やKPI(重要業績評価指標)、業務選定基準をチューニングする必要があるため、リソースが潤沢な一部の企業に取り組みが限られるというのが現時点の問題だと思われる。
なお、RPAの導入目的を聞いた質問では、「業務時間の削減」(39.7%)が1位であったものの、「DXを見据えた全社的な業務プロセス改革の実現」(18.8%)が2位に位置している(図4)。企業によっては、RPAの導入ありきではなく、全社的なプロセス改革の一手段としてRPAを活用しているというのがこの結果からも分かった。
今後のRPA活用計画
最後に、企業の今後のRPA活用計画について紹介する。調査では「RPAの活用を現状の規模で続ける予定」とした企業が49.5%と最も多く、「RPAを社内の他部門に広げるなど、活用の規模を拡大させる予定」は22.5%、逆に「縮小する予定」は6.0%だった(図5)。
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