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人材不足なのに進まない高齢者活用 何が足かせになっているのか

Bainの報告書によると、G7各国の高齢の従業員は今後も増加するというが、企業における高齢者の活用が進まないのはなぜか。また、どのような企業で高齢者活用が進んでいるのだろうか。

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HR Dive

 コンサルティング企業のBain & Company(以下、Bain)が2023年7月13日に発表した報告書によると、2031年までにG7(米国、カナダ、英国、ドイツ、日本、フランス、イタリア)における労働力の25%を55歳以上の従業員が占めるようになり(注1)、2011年から10%近く増加するという。世界全体では、次の10年で1億5000万の仕事が高齢の従業員のものとなり、これは米国の全労働人口とほぼ同じ数字である。

増加する高齢者が“戦力”になる企業の特徴

 Bainのパートナーであり、同社のシンクタンクであるBain Futuresの共同議長を務めるジェームズ・ルート氏は「これらの変化が予測されているにもかかわらず、高齢の従業員を人材システムに統合するためのプログラムを導入している組織は少ない」と述べる(注2)。

 同報告書は、企業が高齢の従業員を採用・維持し、労働力に統合するために取るべき3つのステップを概説している。

 第一に、彼らが何を仕事における動機としているかを理解すること。これには興味深い仕事や自律性、柔軟性、適切な報酬が含まれる。第二に、彼らを再教育し、今後10年間で必要になるスキルを身に付けさせること。例えば、55〜64歳の従業員の22%が技術スキルを必要としているが、彼らを新しい仕事に参加させるためには彼らを引き付ける研修プログラムを設計する必要がある。第三に、彼らの強みを尊重すること。

 Bain Futuresの共同議長であるアンドリュー・シュヴェーデル氏は「適切なツールキットがあれば、企業は高齢の従業員を活用して人材不足に対する先手を打てる。彼らのスキルと経験を競争優位性に変え、質の高い仕事を創出できる」と述べている。本報告書を作成するために、Bainは19カ国で業種や年齢、教育背景、職種を問わず、4万人以上の従業員を調査した。

高齢者活用の現状

 定年後も働き続けたいと考える従業員にとって、経済的な安定は重要な要素かもしれないが、それだけの理由で雇用の継続を望むわけではない。

 非営利団体であるEastersealsとVoya Financialのプログラムである「Voya Cares」は、定年後に働く1000人以上の従業員を対象とした調査の結果を2023年2月に発表した。本調査によると、米国の定年退職者の10人に6人が「まだ健康で働けるから働き続けている」と回答している(注3)。また、半数以上の56%が「仕事を続けることで目的意識を持てる」と回答し、58%が「自らの精神をアクティブな状態に保つために働いている」と回答している。

 コンサルタントのデスラ・ジャイルズ氏は2023年4月に開催された米国人材マネジメント協会(SHRM)が主催するタレント・カンファレンスで次のように指摘した。

 「残念ながら、定年退職後に意思決定者などから受ける年齢差別のために、米国のベビーブーマー世代は、未開拓の人材プールとなってしまっている(注4)」

 採用プラットフォームのZipRecruiterが2022年に発表した報告書によると、若い従業員が多い業界では、企業は「自社に合わないだろう」と高齢の従業員の採用可能性を見落としているかもしれない(注5)。また、人材に関するアドバイザリーサービスを提供するWerkLabsの2021年の調査によると、40歳以上の従業員は「職場よりも、選考段階や最終的な採用の決定において、年齢に対する偏見に遭遇することが多い」と述べている(注6)。

高齢者を人材プールに取り組む実例

 これらの状況を変えるために人事部ができることは何か。ある専門家は「HR Dive」に対して、次のように語った。

 「重要なのは、人事には候補者を採用プロセスの入口に立たせる責任があるということだ。求人サイトの掲載内容を工夫して応募を増やしたり、バーチャル環境を利用した高齢者専用の就職フェアに参加したりできる。さらに、人事は高齢の従業員がもたらす機会について、採用担当者を教育できる」

 これは企業のリーダーにとっても重要なテーマだ。経済協力開発機構(OECD)の調査は「従業員の年齢に多様性のある企業はベンチマークよりも離職率が低く、生産性が高い」と指摘している。

 Bainの報告書では、企業における高齢の従業員の活用実例も紹介している。

 世界的なテクノロジー企業のAtosは、50歳以上の従業員のスキルギャップを埋めるためのプログラムを作成したという。同報告書によると、従業員は目標を設定し、どのようなコースや資格、トレーニングが役立つかを決定しなければならない。

 三菱自動車と東京ガスは、それぞれ60歳以上および50歳以上の従業員を対象に、カスタムメイドの研修や求人マッチング、個別相談を提供するキャリアセンターを設置している。米国合衆国保健福祉省の下部組織である米国国立衛生研究所も例として取り上げられている。同研究所はセカンドキャリアを探す人々を積極的に採用しており、その多くは元軍人や元教育者だ。

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