PC調達ガイド リース、レンタル、サブスクの違い、メリット・デメリット
クライアントPCは調達して終わりではなく、運用や管理、廃棄など、ライフサイクル全体で考えるべきものだ。IT部門が多忙なこの時代において、いかに効率良く運用できるかどうかが肝になる。
定常的に発生するシステムの運用管理に加えて、業務プロセスのデジタル化や法令対応、セキュリティ対策など企業としてやるべきことが増えた現在、PCの調達からキッティング、運用管理、故障対応、廃棄までのPCライフサイクルマネジメントはIT部門にとって重荷となる。これからはいかにこの負担を抑え、コアコンピタンスにかける余力をどう生み出すかという視点をもってPC運用を考えたいところだ。
これまで、業務で利用するPCはリースをするのが常識とされていて、その傾向は今も根強く残る。法人向けPC市場(約4000万台)において、「購入」と「リース」を合わせると約9割を占めるとも言われている。「ヒト・カネ・モノ」の分配がさらに重要になる今後において、今のPCの調達、運用方法は最適だと言えるだろうか。「リース」「レンタル」「サブスク(Device as a Service、DaaS)」の違いとメリット、デメリットを整理した上で、あらためて自社にとって最適なPCの調達、利用法を考えてみよう。
「リース」「レンタル」「サブスク」のメリデメを整理
PCの主な調達手段であるリース、レンタル、サブスクリプションサービス(DaaS)において、どの調達法を選択するのが最善なのだろうか。それぞれのメリット・デメリットをみていこう。
「リース」のメリット・デメリット
リース契約に必要なのは主にPC本体のリース料金で、サービス事業者によってはオプションとして保守費用や修理費用が含まれることもある。サービス事業者がユーザーの希望する機種を代理で購入して貸し出すため、PCの機種は選択の幅が広く、ユーザー部門の業務内容に適したPCを自由に選択できる。
PCの運用・管理はユーザー側での対応となり、万が一PCが故障した場合は代替機を調達するなどの対応が必要となる。リースは最短でも2年間の契約が必要になるなど、レンタルと比較して契約期間が長い。多くのサービスではリース期間中の途中解約はできず、解約する場合は解約金が発生する。また、場合によっては支払い総額が購入価格よりも高くなることもある。会計処理は貸借対照表(バランスシート)に資産として計上する必要があり、負債が増える可能性がある。
これに加えて考慮すべきこととして、業務で利用するアプリケーションがより高い性能や機能を要求するケースが多くなってきたことがある。
テレワークが普及したことで高性能のカメラと内蔵マイクは不可欠の条件となり、SSDの搭載もほぼ標準的な仕様となった。また、部署や部門によってはPC本体のストレージ容量よりも処理の速さを重視する場合もある。システムやアプリケーションの進化によって、PCに対する要求水準は年々高まる中で、利用環境の変化にそぐわなくなったPCを、リース期間満了を待たずして解約、変更するのはコスト面で大きな負担になるだろう。3年、5年といった長期のリース契約が適しているかどうかはあらためて検討する必要がある。
これらのポイントを考えると、利用するPCの機種を自由に選択できることを重視し、長期的な利用を前提とする場合はリースの方が適していると言える。
「レンタル」のメリット・デメリット
レンタルは短期間の契約が可能で、中途解約の場合は解約清算金が発生する場合もあるが、原則的に利用期間の料金だけを支払えば済む。ニーズに合わせて機種変更や再契約も容易で、故障した場合は代替機を貸与できる。会計上は経費として計上できるオフバランス処理が可能な場合もある。レンタル事業者にもよるが、保守サポート費用がレンタル料金に含まれているサービスも多い。
注意すべき点としては、レンタルできるPCは事業者が保有する機種に限られるため、選択の幅が限定されることだ。サービス事業者がユーザーの希望する機種を代理で購入して貸し出すリース契約に対して、レンタルは事業者があらかじめ購入し保有する機種を貸し出す。事業者がどの機種を保有しているかは、リースかレンタルかを選択する上で重要なポイントとなるだろう。特定のPCを求める場合は、事業者にRFP(提案依頼書)を提出して適切な機種をレンタル可能かどうかを確認しておく必要がある。また、レンタル期間が長期間に及ぶ場合は、購入よりも総額が高額になるケースもある。
会計のオフバランス化を図る企業にとっては、リースよりもレンタルの方が好適な場合もある。ただし、日本でも国際財務報告基準(IFRS)との整合を図り、2026年以降にはリース会計の基準が変わり、レンタルPCも資産としての計上が必要になる可能性がある。これについては、会社の規模とPC調達費用との関連で企業の個別対応が迫られることも考えられる。今後は、新リース会計基準への対応についても視野に入れておく必要があるだろう。
リースとの大きな違いは、レンタルサービスの多くは保守サポート費用が利用料金に含まれることだ。保守サポートの内容は故障対応や代替機の貸し出しにとどまるケースもあるが、「Active Directory」への登録や業務アプリケーションのインストール、必要なドライバの組み込み、PCの初期設定、アップデートやセキュリティパッチの提供もサービスに含める事業者もある。
横河レンタ・リースのサービスを例に挙げると、ユーザーの要望に合わせてPCのマスターイメージを作成し、必要台数分のクローニングを行い、さらにユーザー個別の各種初期設定を済ませた状態で納品する。ユーザーは電源を入れてネットワークに接続すればすぐに利用できるため、IT管理部門の負荷を軽減できる。
また、同社は「Windows Update」の適用状況をダッシュボードで確認できる「Unifier Cast」を提供する。PCの運用管理に加えて、OSのアップデート対応も含めたPCライフサイクルの運用負荷を下げたいと考える企業にとっては、利用コストだけでなくこうした付帯サービスにも目を向けたいところだ。
これらをまとめると、PCの選択の幅が限定されるものの、レンタルはPCの利用料に加えてPCの運用管理の一部を事業者が請け負うことで「見えないコスト」を削減する効果がある。メリットを決裁者に理解してもらえるかどうかは難しいところだが、管理負荷を数値化して比較することで、自社にとって適しているかどうかが明らかになるはずだ。
「サブスク(DaaS)」のメリット・デメリット
PCを月額課金で利用できるDaaSはここ数年の間で登場したサービスだ。基本的にはレンタルと同様の仕組みで、サービス事業者が購入、保有するPCを契約期間に応じて貸し出す。ラインアップされたPCの中からエンドユーザーである従業員が機種を自由に選択でき、キッティング済みのPCが従業員の手元に直接届けられる(テレワーク中なら、執務場所または会社)。
横河レンタ・リースのDaaSである「Cotoka for PC」では、オプションで「Microsoft 365」のライセンスを付属させることもでき、すぐに利用可能な状態でPCが従業員の手元に届けられる。PCのライフサイクルマネジメントをサービス化したものだと考えると分かりやすいだろう。また、リースはある程度まとまった台数の契約が必要とされる場合もあるが、DaaSは1台からでも、大量導入でも対応可能だ。
レンタルの場合と同様に故障やトラブルが発生した場合は、代替機の貸与が受けられる。セルフキッティングなど、多様な運用管理サービスがパッケージされているため管理者負担の軽減にもつながる。会計処理については、レンタルと同様に利用料金を経費として計上できる場合もある。
注意点として、レンタルと同様に選択できるPCが限られ、運用管理コストが利用料に含まれているため、利用期間によっては割高となる場合もある。
法人向けPCの調達方法のうち、リースとレンタル、サブスクリプションサービス(DaaS)の3つのメリット、デメリットを解説した。IT部門の人手不足と言われて久しいが、PCの調達では、デバイスそのものの利用コストだけでなく、運用、管理などの「見えないコスト」をいかに削減するかという視点を持つことが大切だ。
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