生成AIブームでもMicrosoftのAI機能「Copilotは使わない」 一番の理由とは?:Microsoft 365とGoogle Workspaceの利用状況/後編
ソフトウェアやアプリケーションに生成AIを組み込むベンダーの動きが盛んであり、Microsoftもその一社だ。2023年11月に「Copilot for Microsoft 365」がリリースされ話題となったが、利用状況はイマイチのようだ。
前編では「Microsoft 365」と「Google Workspace」の利用状況を概観し、勤務先で契約しているライセンスプランやユーザー当たりの利用料金、パッケージ版OfficeからMicrosoft 365に移行しない理由について、アンケート結果を紹介した(実施期間:2023年12月8日〜12月22日、回答件数:311件)。
後編では、注目が集まるMicrosoftの生成AI機能に対する読者の反応と活用状況、Microsoft 365とGoogle Workspaceに対する不満の声などを紹介する。
AIブームでも「Copilot」は使わない、一番の理由とは?
Microsoftは2023年11月1日(米国時間)に「Copilot for Microsoft 365」をリリースした。法人向けMicrosoft 365ユーザーを対象とした生成AI機能だ。リリース当初は大企業向けプランのMicrosoft 365 E3およびE5ユーザーに利用が限られていたが、Microsoftは2024年1月15日(米国時間)に中小企業向けに「Copilot for Windows 365」の提供も開始した。
大規模言語モデルを使ったAIによるサポート機能であり、業務効率化に貢献するものとして注目を集めたが、ユーザーの認知度はどの程度だろうか。勤務先で「Microsoft 365を利用している」とした回答者に対してCopilot for Microsoft 365の理解度を尋ねたところ、「何ができるかをやや理解している」が最も多く36.0%、「何ができるかを理解している」は8.7%にとどまる結果となった(図1)。
関連して「Copilot for Microsoft 365を利用したことはあるか」と尋ねた項目では、「利用した」は8.0%にとどまり、「利用しない」が84.0%と大半を占めた(図2)。
生成AIはIT分野の一大トレンドとなりソフトウェアやアプリケーションに組み込む事例も増え続けているが、MicrosoftのAI機能を「利用していない」と回答した裏にはどのような理由があるのだろうか。
Copilot for Microsoft 365を「利用しようとしたがやめた」「利用していない」とした回答者に対してその理由をフリーコメント形式で尋ねたところ、2つに大別できる。原因は機能そのもの以外にあった。
1つ目は「社内規定で禁止されている」ことだ。「AIの業務利用は個人情報の流出につながり兼ねないので利用は制限されている」「社外秘情報を入力できないので業務で利用できない」「会社の管理ポリシーで利用できないため」「内部統制面で会社のポリシーが確立されていない」などのコメントが寄せられた。
2つ目は「利用方法が分からない」といった理由で「(アンケート回答時点で)まだ英語版しか提供されていないため使い方がよく分からない」「どうやれば利用できるのかが不明」などの声だ。アンケート実施時期はまだCopilot for Windows 365のアナウンスもなく、ユーザーがMicrosoft 365 E3/E5契約者に限られるなど利用できる組織は限定的だったためか、サービスの存在を知っていても「使い方が分からない」といった声が目立った。また、対応するアプリケーションも9種類と限定的で、「Copilot in Excel」が日本語に対応していない(アンケート実施時点)ことも一因として考えられる。
Excelやword、Gmailだけじゃない 主要アプリ以外の活用事例
契約しているライセンスプランによって使えるアプリケーションやサービスは異なるが、Microsoft 365やGoogle Workspaceには文書作成や表計算ツール、メールクライアントだけではなく、業務効率化やプロセス改善に寄与するスイートサービスもある。
勤務先で「Microsoft 365を利用している」とした回答者に「Microsoft Excel」「Microsoft Word」「Microsoft PowerPoint」「Microsoft Exchange」「Microsoft One Drive」「Microsoft Teams」以外のアプリケーションやサービスの利用有無を尋ねたところ、「使ったことがある」(46.5%)、「使ったことはない」(43.2%)、「使おうとしたがやめた」(10.3%)となった(図3)。
Google Workspaceでは、「Google ドキュメント」「Google スプレッドシート」「Google ドライブ」「Google カレンダー」以外のアプリケーションやサービスを「使ったことがある」が71.2%となり、両サービスで利用するアプリやサービスに違いがあることが分かった(図4)。
具体的に「どのアプリケーションおよびサービスをどのような目的で利用したのか」とフリーコメント形式で尋ねたところ、Microsoft 365利用者は主にアプリ開発で、Google Workspace利用者からはアプリや仕組みの開発に加えて、情報共有やタスク管理、資料作成などのコメントが寄せられ、両者で利用する用途に違いがみられた。具体的には、以下の内容だ。
Microsoft 365ユーザー
- 部内のデータ管理のために「Microsoft Access」でデータベースを構築し、「SharePoint」で部内ポータルサイトを作成した。その他「Microsoft PowerApps」「Microsoft PowerAutomate」とSharepoint Listでワークフローを構築した
- PowerAppsで商品画像の登録アプリを開発した
- メールサービスにExchange Onlineを利用しているが、共有メールボックスの見落とし対策のために、Power Automateを使ってメール受診時に登録メンバーへ通知を飛ばす仕組みを作った
Google Workspaceユーザー
- 「Google Classroom」で社内研修を管理している
- メモ用途で「Google Keep」を利用している
- 文書管理に「Google Cloud Search」を使っている
- 「Google Apps Script」を使って作業を自動化した
- 電帳法対応の帳票保存システムをGoogle フォームとスプレッドシート、Gmail、Googleドライブをスクリプトでつないで開発した
近ごろは市民開発の意識が高まってか、特にMicrosoft 365ユーザーからはPower Platformを使ったアプリ開発に関するコメントが多い傾向にあった。
「M365」「Google Workspace」に不満を感じるポイントは?
最後に、Microsoft 365とGoogle Workspaceに対する満足度を調査した結果を紹介する。
Microsoft 365を利用しているとした回答者は「満足」が15.0%、「まあ満足」が61.0%。Google Workspace利用者は「満足」が15.4%、「まあ満足」が71.2%となった(図5、図6)。
Microsoft 365およびGoogle Workspaceに対して「やや不満」「不満」とした回答者に対してその理由をフリーコメントで尋ねた。
Microsoft 365に不満を感じる理由は、主に次の3つだ。
1つ目は「価格」に関する不満の声だ。「価格が高額になってきていて、寡占企業のため飲まざるを得ない状況が不安」「価格の高さ。2024年にも大幅な値上げが発表されていて不安しかない」など、2022年3月と2023年4月に続き、2024年4月にも予定されている価格改定への懸念が多く挙がった。
2つ目は「使いづらさ」に関する声で「『Microsoft Teams』と『Microsoft Outlook』に機能不足を感じる」「クラウドベースの操作性に難がある」「UIがよく分からない。パッケージ版の方が分かりやすい」などだ。
最後の3つ目は「アップデート」に関する不満で「勝手にアップデートされ、その度に画面の体裁やレイアウトが変わる」「突然のアップデートで通信負荷がかかったり、Outlookの動作が重くなったりする」などの声が寄せられた。加えて「アップデートの頻度が高すぎる」点も不満要素の一つとして指摘された。
Google Workspaceに関しては、次の2点に不満が集中した。
1つ目は「互換性」に関するもので「Microsoft OfficeをGoogle ドライブで開くとレイアウトが崩れ、文字化けによって修復不可能になるなど、生産性に影響する」「Googleアカウントを持っていない人とコミュニケーションが取りにくい」などの声が聞かれた。
2つ目はMicrosoft 365と同様に「価格改定」に関する声だ。これまで急激な価格変更がなかったGoogleも2023年4月に価格改定に踏み切りったことで、ユーザーも今後に不安を抱いているようだ。
今回の調査で特に大きなトピックとなったのが、Copilot for Microsoft 365だ。リリース間もない機能であり、今後の情報更新に期待したい。特にIT部門の管理者は、今後のさらなるAI機能のリリースやアップデート情報を逃さないよう、注視したいところだ。
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