テレワークは生産性への影響が“ほぼ”なし どのような実施が最適か
ある調査によると、テレワークが生産性に悪影響をほとんど与えないことが明らかになった。今後のテレワークのあるべき姿とは。
ある調査によると、テレワークが生産性に悪影響をほとんど与えないことが明らかになった。また、テレワークへの移行が必ずしも生産性を促進するわけでもない。
テレワークが生産性に影響を与えないとはいえ、テレワークを廃止する理由にはならない。今後のテレワークのあるべき姿とは。
生産性に大きく寄与しないテレワークをどうする
サンフランシスコ連邦準備銀行の研究者は、「テレワークやハイブリッドワークへの移行が生産性の伸びを大幅に抑制したり、促進したりする証拠は、産業データからはほとんど見出せない」と述べた(注1)。
43の産業におけるテレワークの可能性と時間当たりの国内総生産の成長との関係を調査した結果、研究者たちは、「テレワークと親和性の高い産業は、親和性の低い産業よりも生産性の成長率が大幅に減少または増加したわけではなかった」と述べた。
サンフランシスコ連邦準備銀行の研究者によると、パンデミックの間、米国の労働市場は急速にテレワークへと移行し、COVID-19の発生前は労働時間の5%であったが60%まで急増した。しかし、2023年12月にその割合は30%に減少した。
テレワークが生産性に与える影響に関する調査の結果はさまざまである。サンフランシスコ連邦準備銀行の研究者によると、幾つかの調査では「テレワークで生産性が上がる」という結果が出ている。
しかし、研究者は「一部の従業員は、育児が必要であったり、設備が劣悪であったりするなど、より多くの困難に直面する可能性がある。また、オンラインでのアイデアの共有は難しい可能性があり、従業員は新しいスキルを学ぶために時間を費やす必要があるかもしれない」とも指摘している。
ニューヨーク連邦準備銀行が2023年に発表した事例研究によると、パンデミックの初期にオフィス勤務からテレワークに移行した従業員の生産性は4%低下した。研究者によると、顧客へのサービスが低下し、従業員は同僚と相談することが困難になったという。
「Fortune 500」に指定されている企業のコールセンターの従業員1965人を対象とした事例研究において、ニューヨーク連邦準備銀行の研究者たちは、「テレワークは電話の量だけでなく質も低下させる」ことを明らかにした(注2)。そのデータは、パンデミック前からCOVID-19が全面的なテレワークへの移行を余儀なくした後までの期間を含んでいる。
ニューヨーク連邦準備銀行の研究者によると、テレワークで勤務する従業員の「キャリアの軌道」は低下している。パンデミック前、彼らの昇進率はオフィス勤務者の半分に過ぎず、トレーニングセッションも少なく、マネジャーとの1対1のミーティングも少なかった。しかし、コールセンターが閉鎖された後、昇進率の差がなくなった。
従業員はテレワークを期待している
2022年に発表されたNational Bureau of Economic Researchの研究「Why Working From Home Will Stick」によると、パンデミックの開始以来、テレワークを期待する米国の従業員の数は倍増している。
このような期待の広がりと厳しい労働市場は、CFO(最高財務責任者)と経営幹部に、チームワークやイノベーション、企業文化、利益成長を損なうことなく、テレワークという選択肢で従業員を惹き付け、維持する方法は何かという課題を突き付けている。
全米経済研究所(NBER)の調査によると、パンデミック以前はフルタイムの労働時間のうちテレワークは5%であったが、パンデミックの後、20%がテレワークに移行した(注3)。テレワークは、CFOや他の企業の意思決定者の間で広く受け入れられているが、万人に受け入れられているわけではない。
NBERの研究者は、パンデミック後の経済における「再最適化された労働体制」が生産性を5%向上させると予測しているが、「従来の生産性指標では、通勤時間の短縮による時間節約を把握できないため、この生産性上昇の5分の1の効果しか現れないだろう」とも述べている。
労働省の発表によると、複数の四半期にわたる停滞の後、第3四半期の米国の労働生産性の伸びは5.2%へと増加し、前四半期比では過去3年間で最大の伸びとなった(注4)。サンフランシスコの研究者は、「継続的なイノベーションこそが、生産性を持続的に成長させる鍵である」と述べている。
彼らは「テレワークは、コミュニケーションコストの削減や、地域間の人材配置の改善を通じて、イノベーションを促進する可能性がある。しかし、アイデアの創出と拡散を促進するオフィス内での交流が減少することで、イノベーションを阻害する可能性もある」と語った。
業種によってテレワークの実現可能性に違いがあり、生産性の向上を正確に測定する取り組みを複雑にしている。
サンフランシスコ連邦準備銀行の研究者によると、データ処理や金融、保険、科学技術などの専門サービスが最もテレワークに向く業種であり、宿泊業や飲食業、一部の小売業は最もテレワークに向かないという。
研究チームは「今回の調査結果は、テレワークの普及による生産性の伸びの将来的な変化の可能性を否定するものではない。パンデミックの最中とそれ以降、経済環境は多くの点で変化しており、テレワークの長期的な効果を見えにくくしている可能性がある」と述べた。
研究者たちは、次のように述べている。
「未来の仕事は、テレワークの利点と限界のバランスを取ったハイブリッド型になる可能性が高い」
出典:‘Little evidence’ remote work harms productivity: San Francisco Fed(CFO Dive)
注1:Does Working from Home Boost Productivity Growth?(Federal Reserve Bank of San Francisco)
注2:Working Remotely? Selection, Treatment, and the Market for Remote Work(Federal Reserve Bank of New York)
注3:WHY WORKING FROM HOME WILL STICK(National Bureau of Economic Research)
注4:PRODUCTIVITY AND COSTS(U.S. Bureau of Labor Statistics)
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