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「ウチは学歴よりスキルだから」 口だけの企業はなぜ減らないのか?

スキルベースの採用方針への変更を発表した企業のうち、約45%は名目だけの変更だった。スキルベースの採用が進まない企業の実態と弊害とは。

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HR Dive

 ある雇用市場のデータ分析機関とビジネススクールが2024年2月14日(現地時間)に発表した報告書によると(注1)、ほとんどの企業が採用における学位要件を取り下げたり、学位を持たない従業員の割合を増やしたりせず、スキルベースの採用は進んでいない。

スキルベース採用が進まない実態

 スキルベースの採用方針への変更を発表した企業のうち、約45%は名目だけの変更だった。求人広告から学位要件を削除しても、採用行動に実質的な変化はなかった。学歴フィルターが残り、スキルベースの採用が進まない企業の実態とは。

 報告書には、次のような問題提起がある。

 「多くの雇用主が採用における学位要件を撤廃して大学の学位の代わりに求職者のスキルを評価すると約束し、スキルベースの採用は勢いを増しているように思える。民間企業と政府は多々このような宣言をしたが、これらの宣言は本当にスキルベースの採用の増加につながっているのだろうか」

 報告書によると、2014〜2023年にかけて、雇用主が学位要件を撤廃した求人の数は約4倍に増加した。しかし、これは必ずしも採用プロセスの変化には結び付いていない。

 大企業の1万1300の職種で学士号を持たない従業員の割合は約3.5ポイント増加した。この変化は、期間中に要件を撤廃した職種の3.6%のみに適用された。つまり、学位を持たない従業員の採用の純粋な効果は、0.14ポイントの増加にとどまっている。

 雇用市場のデータ分析を行うBurning Glass Instituteと、Harvard Business Schoolによると、このわずかな変化は、年間7700万人の新規雇用のうち約9万7000人の候補者に新たな機会を提供するものだ。つまり、2023年では700人に1人未満にか影響を与えていない。

 スキルベースの方針を採用した企業全体で、それ以上の進歩が一様に起こらなかった。一方で、学位要件を撤廃した企業の37%では、採用に大きな変化が見られた。報告書からは、企業には次の3つのスキルベースの採用タイプがあると分かった。

  • スキルベースの採用を率先する企業: 37%の企業が変更し、自社のコミットメントに従って、学位を持たない従業員の割合を20%近く増やしている
  • 名目上の変更にとどまる企業: 45%の企業がスキルベースの採用へのシフトを発表したが、実際の採用慣行に変化はなかった
  • 後戻りした企業: 18%の企業は、学位取得要件の撤廃後に短期的な利益を得たが、それを維持しなかった。長期的に見ると、これらの企業は学位を持たない従業員の採用割合を減らしている

 報告書では、「スキルベースの採用を成功させるためには、求人広告から単に文言を削除するだけでは不十分であると明らかになった。スキル重視の採用を成功させるためには、企業は雇用慣行を意図的に変えなければならない。しかし、大きな変化を実現するのは難しい」と述べられている。

 コンサルティング企業であるEYと、ソフトウェア開発企業のiMochaの報告書によると、従業員はスキルを優先するアプローチを望んでいるが(注2)、雇用主は転換に苦労しているという。スキルを優先するアプローチを採用した企業は、キャリアパスや社内流動性といった人事目標に焦点を当てているが、人事プロセスにスキルデータを統合することは難しい場合が多い。

 技術やデザイン、ビジネスの分野におけるスキル向上支援を行うGeneral Assemblyの報告書によると、特にテクノロジー分野において、雇用主は、市場の需要を満たすために十分な速さでスキルベースの採用を取り入れることができていない(注3)。このギャップを埋めるために、企業は社内研修や、従来とは異なる学習や能力開発の機会を活用し、従業員のスキル向上を図っている。

 このような場合、スキルベースの採用を促す新しいリソースが役立つかもしれない。例えば、非営利団体のSociety for Human Resource Management Foundationは、雇用慣行におけるスキルベースの考え方を促進するためのツールキットを発表した(注4)。このツールキットには、雇用慣行を改善し、多様な採用を優先させるために雇用主が実施できる12のアクションアイテムが掲載され(注5)、テクノロジーを活用したステップ、仕事と昇進に関するコミュニケーション、組織改革などが含まれている。

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