ERP導入企業の4割が「リプレースを予定」 選定のポイントは?:ERPの利用状況(2024年)/後編
前編ではERPの利用状況を企業規模別に分析した。後編では、ERPのリプレース動向や、リプレース先のERPを選定する際に導入企業が重視するポイントを紹介する。
キーマンズネットは「ERPの利用状況に関するアンケート(2024年)」(実施期間:2024年3月8日〜29日、回答件数:241件)を実施した。
前編では、ERPの導入率は全体の約4割で、半数以上がクラウド型、SaaS型のERPを利用していることが分かった。また、1従業員数1000人以下の中堅・中小企業において、導入しているERPの満足度が42.9%と半数を下回っており、主に人件費を含めた保守コストの高騰や、EOS/EOLへの対応、業務プロセスに合わせたシステム設計のためのIT人材確保といった課題がある状況にも触れた。こうした課題の有無は、リプレース意向の有無とも関連していそうだ。
後編では、ERPのリプレース動向や、リプレース先のERPを選定する際に重視するポイントを紹介する。
企業規模別に見る、ERPのリプレース動向
現在利用中のERPのリプレース予定の有無を聞いたところ、「予定はない」と回答した割合は、従業員数5001人以上の大企業で67.6%であるのに対して、1000人以下では54.3%と約半数がリプレースを「予定している」と答えた。特にこの規模帯ではリプレースのタイミングが「1〜3年以内」が25.7%と高く、リプレース予定の実に6割以上が3年以内に実施すると回答している(図1)。
前編でも触れた通り「SAP 2027年問題」への対応が大きな理由と見られる。ERP運用の課題やトラブル例をフリーコメント形式で聞いたところ、2つの理由が見えてきた。
1つ目は、企業成長に伴って変更される業務プロセスやルールの追加、変更に柔軟に対応できない点だ。
「中小企業であっても規模の拡大に伴うインフラ整備にはERPは必要なツールである」という認識はあるものの「汎用(はんよう)的すぎて自社のビジネスルールを大幅に変える必要がある」や「業務をどれだけERPに合わせるのかが重要になる」「FIT&GAPが不十分で後からカスタマイズコストが高くなり、カスタマイズを断念せざるを得なかった」など、運用設計が困難といったコメントが寄せられた。
2つ目は「バージョンアップ時のアドオン対応の負荷」や「全システムと機能が変わり仕事が滞っている」「SaaSの不具合、IFの突然の変更」のように、ERPベンダーのサービス品質や変更への対応コストが見合わないという理由だ。共通するのは、当初のERP導入目的と運用面でギャップが生じているという点だ。
リプレース先ERPの「選定ポイント」や「利用形態」
関連してリプレースの際に重視するポイントを聞いたところ、「旧バージョンを利用していた」(17.1%)、「標準機能の充実」「業界特化のテンプレートがある」(同率で9.8%)、「コストが低い」「システムの一元化」(同率で7.3%)が上位に続いた(図2)。
移行コストを抑えるため、同一ベンダーのサービスを選択する企業が多いのだろう。また、標準機能の充実や業界特化のテンプレートの有無など、カスタマイズしなくとも業務プロセスを合わせやすいサービスにもニーズが集まっている。
リプレース予定のERPの導入形態は「SaaS」(46.3%)と「IaaS、PaaS」(19.5%)であった(図3)。今利用しているERPの導入形態は「SaaS」(32.8%)と「IaaS、PaaS」(21.1%)で半数以上を占めていることから、2023年に比べてSaaS型ERPの導入率は上がっていないものの、リプレース先としては需要が高いことが分かる。
詳細を見ると、オンプレミス型のERPを導入している企業の約4割がクラウド型に移行する予定だ。また、リプレース予定のERPは「未定」(41.5%)が最多だ。リプレースする際の導入形態については明確に方向性が定まっているものの、導入製品については検討フェーズなのだろう。移行先の製品としては「SAP S/4HANA」(26.8%)が最多であった。
リプレース予定の約7割が「不安がある」と回答
ERPのリプレースについて聞いたところ、「とても不安がある」(26.8%)や「やや不安がある」(29.3%)など、全体の65.9%が不安を抱えている(図4)。
不安の詳細をフリーコメントで聞いたところ「(今の業務が)ERPの標準機能に合致すればいいが、許容されない場合は導入が進まない恐れがある」や「リプレースの際は自社開発でなく既製品を検討しているが、マッチしたものがあるか分からないのが不安要素」など「業務との適合性に不安感がある」との理由が大半を占めた。
また「社内の根回しや業務調整」「現場担当者や経営陣の支持が得られるか」のように、現場や上層部の理解やトップダウンでの指揮の必要性を挙げる声も多かった。上層部とリプレースの目的を明確にすることや関係部門の巻き込みなど、体制を整えるハードルはどの企業でも高いことが予想される。
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