AIはERPの未来をどう変える SAP、Microsoft、Oracleの取り組みから考える
生成AIやその他の機械学習ツールが急速にERPに統合され、ビジネスプロセスに自動化と効率化をもたらしている。各ERPベンダーの取り組みから、ERPにおけるAIの未来が分かる。
生成AIは企業全体の非構造化データを含む複雑なデータを検索し要約できるため、ビジネスにおける生成AI活用への関心が高まった。未来予測の精度向上や意思決定の自動化、複数のアプリケーションや従業員、パートナーにまたがるワークフローの合理化も関心を集めている。
ERPベンダーはAIとアプリケーションの複雑なやりとりを簡素化し、多くの人が活用できるよう、AIアシスタントやチャットbotなどを開発している。
ERPにおけるAIの未来はどうなるのだろうか。SAP、Microsoft、Oracleの取り組みから考察する。
SAP、Microsoft、OracleのERPはAIでどう変わった
主要なERPベンダーは、以下のような新しいAI機能を企業向けアプリケーションに統合している。
- SAPは業界固有のAIツールを開発し、ビジネスシステムへのアクセスを多くのユーザーに届けるために、AIアシスタントの「Joule」を導入した
- Microsoftは、「Dynamics 365」に幅広いAI機能とバーチャルエージェントを追加し、販売の効率化や顧客インサイトの強化、サプライチェーンの最適化、不正行為の削減を図っている
- Oracleは、ERP向けのOracle AIアプリを発表した。新しい生成AI機能に加えて、これらの新機能をOracleのさまざまなクラウドや業界アプリケーションに広く組み込むことを目指している
PwCのリッチ・サーニャク氏(米国におけるSAPのプラクティスリーダー)は、次のように述べた。
「企業はAIを既存のアプリケーションに統合しており、ERPの使用と設定が容易になった。しかし、AIが真の効果を発揮するのは、生成AIを使ってワークフロー全体が構築され、単にタスクを容易にするだけでなく、仕事の進め方に変革が起きたときだろう」
例えば請求書処理のワークフローには、前工程が完了しなければ着手できないタスクが多々あり、多くの人によるデータの読み込みや統合、ERPへの移動が含まれている。生成AIを活用すると、プロセスを反転させられ、面倒な反復作業をAIが事前に処理してくれる。そうなると、人々は、データを読み、評価し、統合し、転記することではなく、データの検証に集中できるようになる。
一般的な使用例
PwCのブレット・グリーンスタイン氏(パートナー兼生成AIの領域のリーダー)は、新しい生成AI機能がERPにもたらす効率性に特に期待を寄せている。ユーザーは自然言語でERPからデータを取得し、評価できる。また生成AIは、企業独自のニーズに基づくERPの設定やカスタマイズを容易にする。その他の応用方法として、AIの活用によってERPの既存の機能を効率化したり、操作を容易にしたりすることもできるだろう。
また、プロセスマイニングにおけるAI搭載ツールは、ERP全体のログを分析し、ネットゼロや持続可能性(ESG)の目標に取り組むために必要な洞察を導き出す。例えば、サードパーティーサプライヤーの炭素排出量に関連するデータは、ERPやスプレッドシート、サプライチェーン管理アプリケーション、その他の分断されたシステムに埋もれている可能性がある。このようなデータを集約するプロセスをAIは自動化し、企業がESG目標をより迅速かつ効率的に達成できるよう支援する。
以下は、その他の一般的なAIの使用例である。
- 予測分析によって将来の結果を予測し、ユーザーによる積極的で適切な意思決定を支援する
- データ変換と統合の取り組みでは、チームが大きなデータセットやさまざまな種類のデータを扱うことをAIで支援し、スケジュールの最適化を実現する
- インテリジェント・プロセスオートメーションは、ロボティック・プロセスオートメーションといった脆弱(ぜいじゃく)なアプローチでは実現できない、より多くの種類のプロセスの効率化を推進できる
- 自動要約機能は、異なる役割や目標、専門知識のレベルに応じて、複雑な文書群から知見を導く
- 異常検知アルゴリズムは、問題や課題を迅速に特定し、解決やコスト削減に貢献する
- レコメンデーションエンジンは、ビジネス戦略におけるパートナーや製品提供、次のステップを提案する
- 財務報告の予測では、AIを使ってERPや文書、スプレッドシートから関連データを抽出し、財務分析のさまざまな側面を効率化できる
- 予知保守アルゴリズムは、機械の状態やスケジュール、部品在庫、プロセスの依存関係に関するデータを分析し、保守および修理を最適化する
ERPにおけるAIの主なビジネスメリット
サーニャク氏によると、AIはERPの速度や規模、スキルを高められるという。同氏は「生成AIは、自然言語を使うことで開発ツールやデータへのアクセスを容易にし、人々の作業効率を高め、経験の浅い人々のスキルを向上させる」と述べた。
同時に、「全てのAIシステムは統計的なプロセスによって動いており、それには限界があると理解することが重要だ」と述べた。最も極端なケースでは、生成AIツールが誤情報や誤解を招く提案を出力する場合がある。他の形式のAIも同様の問題に悩まされる可能性がある。
グリーンスタイン氏によると、生成AIのアウトプットの質を評価するためには、熟練した人材が常に必要だ。しかし最近のイノベーションは、これらに取り組む人々の生産性を格段に向上させるという。
プロジェクト管理プラットフォームを提供するDeltekのミシェル・チポローネ氏(製品担当副社長)は、AIは次のこともできると述べた。
- コンテキストを認識し予測と洞察を生成することで、データの処理と分析を改善し、企業がより適切な意思決定をし、パフォーマンスを最適化できるようにする
- 顧客のニーズと好みをより深く理解し、パーソナライズされた推奨事項とサポートを提供することで、顧客エクスペリエンスを向上させ、最終的に顧客の満足度と忠誠心を向上させる
- スマートアルゴリズムやチャットbot、デジタルアシスタント、音声認識などの機能を使用して、購入決定やリソース計画、人的資本管理、マーケティングおよび顧客サービスなどのさまざまなビジネスプロセスを自動化および改善する
- 新しい機会や製品、サービスを創出し、変化する市場状況や顧客の期待に企業が適応できるよう支援することで、イノベーションと変革を実現する
ERPにおけるAIの未来
サーニャク氏は、「ERPへの生成AI統合は今後も進むだろう」と予測している。「現在のワークフローでの作業を単に効率化するのではなく、生成AIがユーザーに代わってワークフロー全体を処理するようになる」と同氏は述べた。
ただし、ERPのAIから最大限の価値を引き出すことは簡単ではない。まず、「ベンダーや顧客、パートナー、規制当局など、ERPの関係者によるさらなる協力と調整が必要になる」とシポローネ氏は述べた。
またAIは、データのプライバシーやセキュリティ、説明責任、透明性など、倫理的、法的、社会的な問題も引き起こす。また、組織文化や変更管理だけでなく、スキル開発やトレーニング、教育においても新たな課題が生まれる。
これら全ての根底には、AIを活用するためのデータとプロセスの整理に焦点を当てることがある。モバイルデバイス用ソフトウェアベンダーであるEasologyのジョン・コリンズ氏(チェンジリーダーおよびトランスフォーメーションリード)は、「これまで一緒に働いてきたAI自動化チームの多くは、最初に対処する必要がある不十分なプロセスを発見するだけだった」と語った。
「AIをプロセスに統合することは、一般的に改善の機会となる。しかし、これには時間がかかり、対象分野の専門家による新しいアプローチを積極的に受け入れる意欲が必要だ」(コリンズ氏)
同氏は「特に財務報告や個人データへのアクセスに影響を与える場合は、アクセスとプロセスの管理についてたくさん話し合う準備をしたほうがいい」と述べた。このような課題は克服できないわけではないが、特にAI監査が関係する場合は、予想よりもはるかに時間がかかる可能性がある。
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