Dynamics 365が値上げ 新価格とMicrosoftの思惑
MicrosoftはDynamics 365の価格を2024年10月1日から引き上げると発表した日本での新価格や、Microsoftが値上げを実施する背景を解説する。
Microsoftは2024年4月8日(現地時間、以下同)の週、「Dynamics 365」の価格を2024年10月1日から引き上げると発表した(注1)。
「Microsoft Teams」(以下、Teams)が「Microsoft 365」「Office 365」から分離し、新価格が発表されたことは話題となったが、同じタイミングでDynamics 365も値上げされている。
日本での新価格や、Microsoftが値上げを実施する背景を解説する。
値上げした新価格とMicrosoftの思惑
Microsoftはブログ投稿で、値上幅について次のように述べた(注2)。
「値上げは販売や顧客サービス、財務、サプライチェーン管理、人事、その他のDynamics 365ERPのおよびCRMソリューションに影響し、平均11%のコスト増になる」
以下は価格が改定される製品のリストだ(出典:日本マイクロソフトの公式Web)。
製品 | 2024年10月1日までの価格 | 2024年10月1日以降の価格 |
---|---|---|
Microsoft Dynamics 365 Sales Enterprise | $95 | $105 |
Microsoft Dynamics 365 Sales デバイス | $145 | $160 |
Microsoft Dynamics 365 Sales Premium | $135 | $150 |
Microsoft Relationship Sales 3 | $162 | $177 |
Microsoft Dynamics 365 Customer Service Enterprise | $95 | $105 |
Microsoft Dynamics 365 Customer Service デバイス | $145 | $160 |
Microsoft Dynamics 365 Field Service | $95 | $105 |
Microsoft Dynamics 365 Field Service デバイス | $145 | $160 |
Microsoft Dynamics 365 Finance | $180 | $210 |
Microsoft Dynamics 365 Supply Chain Management | $180 | $210 |
Microsoft Dynamics 365 Commerce | $180 | $210 |
Microsoft Dynamics 365 Human Resources | $120 | $135 |
Microsoft Dynamics 365 Project Operations | $120 | $135 |
Microsoft Dynamics 365 Operations - デバイス | $75 | $85 |
Microsoftは「Microsoft Copilot」(以下、Copilot)を生成AI戦略の中心に位置付けており、Dynamics 365と「Microsoft 365」のエコシステムにチャットbotアシスタントを組み込んでいる。
Microsoftは、Copilotを基盤とした生成AI機能の幅広いポートフォリオを着実に構築してきた。このアシスタントは、Microsoft 365の一般的な生産性向上ツールから、機能別ソリューションのDynamics 365まで、同社のソリューション全体に展開されている。
調査企業であるForresterのケイト・レジェット氏(バイスプレジデント兼プリンシパルアナリスト)は、「今回の値上げは、企業向け製品でCopilotを実行するためのコストに起因する。これらの製品がDynamics 365のユーザーにもたらすコスト削減と効果的な活用に関する価値は、値上げを正当化するものだ」
Microsoftは2024年4月16日の電子メールで、この発表に関するさらなるコメントを控えると述べた。
Microsoftは2023年2月に財務、営業、顧客サービス向けにCopilotを展開し(注3)、同年9月にはMicrosoft 365でAIアシスタントを一般提供した(注4)。ブランディングの一環として、「Windows 11」を搭載したPCと「Surface」シリーズにはCopilotキーが搭載される(注5)。
ツールが普及するにつれ、Microsoftとハイパースケーラーの競合企業は大規模なデータセンター構築に資金を注ぎ込んでいる。AIに最適化されたシリコンハードウェアや、大規模な言語モデルのワークロードを実行するために設計されたGPUサーバを追加し、この投資は必然的にコストを押し上げる。
調査企業であるGartnerのジェイソン・ウォン氏(バイスプレジデント兼アナリスト)は「これは、データセンターと生成モデルに関連する消費電力を回収するための一つの方法だ」と述べた。
コストはAIモデルのトレーニングだけにとどまらない。組織がCopilotの機能を活用する際、これらのワークロードは「Microsoft Azure」(以下、Azure)で実行される。
「これらのビジネスアプリケーションを実行するにはコストがかかり、今回の値上げは追加のコンピューティングの一部をカバーするためかもしれない」(ウォン氏)
MicrosoftがコラボレーションツールであるTeamsをMicrosoft 365から分離したのはわずか2週間前で(注6)、Dynamics 365の価格設定の発表と重なった。この動きは、同社のソフトウェアライセンスに対する規制当局の監視の強化や、欧州連合(EU)によるクラウド請求の複雑さに関する広範な懸念を促した。
「企業顧客にとって、Dynamics 365は彼らが対処しなければならない請求の一部に過ぎない。他には、Azureのコンピュートやクラウドストレージ、Microsoft 365や『Power Platform』のビジネスインテリジェンス、Microsoftのサポートなどもある。顧客にとって、これらのサービスのコストを理解したり予測したりするのは難しいかもしれない」(ウォン氏)
出典:Microsoft raises business application suite prices as Copilot permeates Dynamics 365(CIO Dive)
注1:New pricing for Microsoft Dynamics 365 effective October 2024(Microsoft)
注2:New pricing for Microsoft Dynamics 365 effective October 2024(Microsoft)
注3:Microsoft rolls out Copilot AI tool to finance teams(CFO Dive)
注4:Microsoft introduces Copilot GPTs, teases low-code builder(CIO Dive)
注5:Microsoft introduces Windows Copilot key for PCs(CIO Dive)
注6:Microsoft decouples Teams from 365 globally(CIO Dive)
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