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日経新聞に学ぶ 基幹システム刷新で属人化業務、定型作業から解放される方法

日本経済新聞社は2030年までに連結売上高4000億円、営業利益率10%を目指している。そのため、営業力や業務を変革するDXプロジェクトを推進してきた。プロジェクトマネジャーが基幹システム刷新プロジェクトの全貌を紹介した。

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 新聞を中心に雑誌書籍や電子メディア、データベースサービス、速報サービス、イベント、コンサートなどを全国51箇所の支局と37カ所のグローバル拠点で展開し、従業員3054人、売上高1734億円(ともに2023年12月期)の日本経済新聞社。収益目標として2030年に連結売上高4000億円、営業利益率10%を目指す長期経営計画を掲げ、その目標を実現するために営業力や業務を変革するDX(デジタルトランスフォーメーション)プロジェクトを推進してきた。


日本IBM 橋本賢治氏

 プロジェクトマネジャーを務めた日本IBMの橋本賢治氏(IBMコンサルティング事業本部 アソシエイト・パートナー)が、日本経済新聞社における基幹システム刷新プロジェクトの全貌を紹介した。

 日本経済新聞社が基幹システム刷新によって従業員を属人的な業務や手作業から解放し、判断・分析といったビジネス力の向上に寄与する業務にシフトさせた方法とは。

ERPとEPMで業務DXの基盤を構築

 日本IBMは、約3年半にわたって日本経済新聞のDXプロジェクトを支援してきた。DXプロジェクトの背景や目的について、構想から保守フェーズに至るまでプロジェクト責任者として携わった橋本氏はこう話す。

 「顧客マネジメントの一元化を目的としたSFA(営業支援システム)の導入や、データを基にしたKPIの設定などに取り組みました。また、高収益のテックカンパニーに生まれ変わるため、間接部門を中心に既存の常識や枠組みを打破し、業務の連携を強めて生産性を向上させるDXを推進しました」

 業務の変革には、大きく2つの取り組みがある。

 1つは、データに基づく経営の実現だ。それに向けて、経営情報の一元管理と可視化による意思決定品質とスピードの向上に取り組んだ。具体的には、予算実績の精緻な管理、柔軟な管理会計、部局横断データの活用などだ。

 もう1つは、働き方の見直しだ。それに向けて、デジタル技術を生かした業務改革や、人材活用の最適化・効率化に取り組んだ。具体的には、従業員情報を一元管理するプラットフォームの活用や、ジョブ型制度の導入、考課や人事異動の最適化、RPAや経費精算システムの電子化による業務の標準化・効率化、デジタル技術を持つ人材採用拡大などだ(図1)。


図1 プロジェクトの目的(出典:橋本氏の講演資料)

 日本経済新聞社は2023年9月、経理・財務業務の効率化と業務DXを加速する経営基盤として「Oracle Cloud ERP」を導入した。同社は経理財務BPO(Business Process Outsourcing)サービスを活用して、継続的に業務改善するための基盤を構築した(図2)。


図2 OracleのERPとEPMによる経営基盤(出典:橋本氏の講演資料)

 BPOサービスでは、AIやOCR、RPA(Robotic Process Automation)の活用によって生産性の大幅な向上を実現したという(図3)。以前は属人的な業務や手作業が業務全体の20%を占めていたが、これを解消した。


図3 旧システムと新システムの業務の違い(出典:橋本氏の講演資料)

 では、日本経済新聞社と日本IBMは、Oracle Cloud ERPを使ってどのように業務DXを推進しているのか。橋本氏は、1つ目の取り組みである、経営情報の一元管理と見える化、データに基づく経営について、こう説明した。

 「OracleのERP、EPM(ビジネス業績管理)を核に経営と現場を迅速に連携させる仕組みをつくりました。ERPには、部門や事業、商品、プロジェクトといった管理軸を持った実績データが収集されます。EPMでは同様の軸で予算策定します。ERPとEPMに予算と実績が集まるため、現場の部門が同月内に確認して実績と予算のギャップがあった場合に早期にアクションをとれます。経理部門は各現場の情報を横断して確認し、経営層は翌月に数字を確認せず月内にEPMで数字を確認し、早急に対応できます」(橋本氏)

 もう1つの取り組みの、業務の効率化、標準化、集約化の実現についてはこう説明した。

 「現場部門は日々の請求や支払い依頼など、経理業務は日々それらのチェック・承認業務などがあります。定形業務が業務の大部分を占め、本当にやりたい業務、例えば、予実の差異から必要なアクションを検討することや、アクション結果の確認、経営サポートなどの判断・分析業務に手が回っていません。そこで、AIやOCRやRPA、BPOを活用し、従業員を定形業務から判断・分析の業務にシフトさせることに取り組みました」(橋本氏)

8つの業務改革視点を基に課題解決の方向性を検討

 原因・課題を解消して業務改革を実現するために、8つの業務改革視点を基に、課題の方向性を検討した。8つの業務改革の視点とは「業務量の削減」「生産性の向上」「要員配置の適正化」という3つの取り組みにおいて実施される、「A 廃止」「B 簡素化」「C 自動化」「D 明瞭化」「E 集約化」「F 標準化」「G 再配置」「H 外部化」を指す(図4)。


図4 8つの業務改革視点(出典:橋本氏の講演資料)

 これらには、グローバルでのオペレーション統合を実現したIBM自社業務運用ノウハウや、BPOを含む他社の変革支援を通じた培った設計ノウハウのベストプラクティスが生かされているという。橋本氏は8つの業務改革の視点についてこう解説した。

 「業務量の削減では、不可欠な業務以外をなくし(廃止)、業務効果を最大限維持しながら可能な限り作業負荷を減らします(簡素化)。生産性の向上では、自動処理できることを極力人手ではやらず(自動化)、属人的に処理されている業務や不明瞭な基準に基づいて処理されている業務を文書化し明確にします(明瞭化)。また、共通度の高い提携業務を複数部門に分散させず、1カ所で集中処理し規模効果を効かせ(集約化)、共通度の高い業務のやり方を統一し、習熟効果の向上により効率化を達成します(標準化)。さらに、要員配置の適正化では、難易度や統制面の影響を見ながら下位職位へ業務権限の一部を移管(再配置)しました。業務の定形度合い・性格に応じて適切に要員配置し、定型的・遠隔実施可能な業務は海外を含めた社外の人材も活用します(外部化)(図5)」(橋本氏)


図5 業務の課題に対する解決パターンのひも付け(出典:橋本氏の講演資料)

 さらに業務の生産性を下げる原因パターンを12に分類し、それらを解消するために8つの業務改革の視点にひも付けた。例えば、(1)「作業を人手で実施するため、時間がかかる、ミスが発生する」という原因パターンについては、「C 自動化」を推進する。(2)「重複/過剰なプロセスが存在するため、処理が時間がかかる」という原因パターンについは、「A 廃止」「B 簡素化」をするといった具合だ。

 日経新聞社は多岐にわたる事業を展開しているため、全ての業務改革をOracle ERPで実現するのは難しい。そこで、Oracel ERP・EPMに加え、ワークフローや請求書の受領・発行、入金消し込みといった複数のSaaSを組み合わせた新システムを実現した。また、新聞の販売店の管理、電子版の管理などでは既存システムを活用し、ERPとの連携は、連携基盤による統一インタフェースで対応している。

 「約1000人の方が経理業務に関わっています。多くの方がERP Cloudを直接触れるのではなく、ワークフローのSaaSソリューションを使って発注や検収、支払い依頼の入力などをしています。Oracle ERPでは標準機能をそのまま利用し、主にBPO担当の方がERPを操作するという仕組みです(図6)」(橋本氏)


図6 SaaSを活用してFit to Standerdを実現(出典:橋本氏の講演資料)

ERPとEPMのデータに基づく経営判断に貢献

 橋本氏は、業務変革の事例として、まず、支払依頼の標準化、集約化、外部化を紹介した。

 日経新聞社では、原稿や講演の依頼が多いため頻繁に源泉徴収の支払いをする必要がある。海外に多数の支局があるため、さまざまな外貨で支払いするという特徴もある。

 従来はそれぞれの部門が発注・検収をしていた。また、請求書も各部門が入力し、経理部門が全ての伝票をチェックして承認作業をしていたため工数がかかり、品質にばらつきがあった。

 「発注や検収を標準化し、共通のワークフローの基で各部門が実施するようにしました。また各部門で請求書を受領して支払依頼を起票する場合もOCRでデータ化し、BPOが集中してチェックするようにしました。ERPと連携させ、ERPで内容の精査をし、承認作業をすることで現場の負荷を抑え、入力データ品質を保つことができました。経理部門は例外のみに対応するため、支払い業務負荷のほとんどを外部化、効率化できました(図7)」


図7 発注や検収を標準化した業務フロー(出典:橋本氏の講演資料)

 同じように、請求依頼・入金消込業務も、標準化や集約化、外部化を進めた。


図8 請求依頼・入金消込業務を標準化した業務フロー(出典:橋本氏の講演資料)

 橋本氏は日本経済新聞社の業務DXを実現する最適なアーキテクチャ価値を実現できたとして、課題にも触れた。

 「SaaS間連携や処理自動実行で活用しているERPのAPIコールが、ERPの四半期アップデートの影響を受けやすくなっています。影響を抑えるため、IBMがデリバリーしているプロジェクト間の連携やオラクル社との協力によって事前に情報収集し、アップデート適用前に非本番環境へ適用して、主要シナリオを検証を実施して、本番業務に影響を与えないように努めています」

 さらに今後は、ERP、EPMのデータを活用し、日本経済新聞社の「データに基づく経営判断」に貢献していく構えだ。

 「この4月から保守体制に移りましたが、まだ課題も残っています。例えば、経営スピード化やデータの見える化を構想していますが、まだ実現していません。そうした課題の解消と継続的な業務改善によって、日経新聞社さまの目標の実現に向けて貢献していきます(図9)」(橋本氏)


図9 まとめ、今後の展望(出典:橋本氏の講演資料)

本稿は、日本オラクルが2024年4月18日に開催した「Oracle CloudWorld Tour Tokyo」のセッション「日本経済新聞社様と実現したOracle Cloud ERP・EPM経営基盤及びBPO事例のご紹介」の内容を編集部で再構成した。

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