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Copilot for Microsoft 365はChatGPTよりも回答が“イマイチ”でも選ぶ理由って?

「Microsoft Copilot for Microsoft 365」は、他のChatGPTをベースとしたサービスと何が違うのでしょうか。ChatGPTやMicrosoft Copilot(旧Bing Chat)があればCopilot for Microsoft 365は不要なのか、日本語と英語で精度や回答に違いはあるのか。ユーザーの「気になる」に専門家が答えます。

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 Microsoftは、OpenAIによって開発されたChatGPTの技術を「Microsoft 365」と統合し、「Microsoft Copilot for Microsoft 365」(以下、Copilot for Microsoft 365)としてサービスを提供しています。2023年11月のリリース直後から大きな関心を集めており、一部の従業員を対象にしたパイロット導入を進める企業も増えてきました。

 一方で、Copilot for Microsoft 365を使いはじめたユーザーからは、ChatGPTと比べて回答の質が高くないのではないかといった声を聞くことがあります。Bing検索をベースとしたMicrosoft Copilot(旧Bing Chat)と比べても、Copilot for Microsoft 365の回答がイマイチだと感じる人が多いようです。どれもOpenAIのGPTがベースになっているはずなのに、違いはどこにあるのでしょうか。

 今回は、それぞれのサービスの特徴を掘り下げた上で、「ChatGPTやMicrosoft Copilot(旧Bing Chat)があればCopilot for Microsoft 365は不要なのか」「日本語と英語の精度や回答に違いはあるのか」――といったユーザーからよくある質問について、多くの生成AIサービスを利用してきた筆者の視点から考察します。

結局Copilot for Microsoft 365は何がいいの? ChatGPTよりも回答が”イマイチ”だけど選ぶ理由

 回答の質が高いか低いかを評価するのは難しいですが、それぞれのサービスで利用されるLLM(大規模言語モデル)の世代は明確に異なります。

 2024年5月には、OpenAIが新しいフラグシップ言語モデルとなる「GPT-4o」を発表して大きな話題となりました。GPT-4oは、音声や画像の認識性能を高めた他、反応速度や英語以外の言語性能を向上させるなど、大きな進歩を見せています。OpenAIの自社サービスであるChatGPTにはいち早くGPT-4oが組み込まれ、ユーザーが利用できるようになっています。筆者も有償版のChatGPTでGPT-4oを利用していますが、その反応速度を体験してしまうとCopilot for Microsoft 365の動作を遅く感じてしまいます。ChatGPTやCopilotでは、生成AIと会話で作業を進めることになるため、反応速度の違いはユーザーの満足度に直結してしまうように思えます。

 しかし、Microsoftにもアップデートの計画が無いわけではありません。2024年5月に開催された「Microsoft Build 2024」のイベントにおいては、GPT-4oが組み込まれたCopilotなどのデモが数多く紹介されており、間もなく提供される予定だと発表されました。おそらくはCopilot for Microsoft 365にもいずれGPT-4oが組み込まれていくでしょう。これまでの例を見ても、ChatGPTと比較してCopilotに最新モデルが組み込まれるまでにはタイムラグがありました。ChatGPTへの実装が一番早く、Microsoft CopilotやCopilot for Microsoft 365は、遅れての実装となっています。CopilotがGPTそのものではなく、アプリケーションとして作り込まれているため仕方のないところでしょう。


新しいAIモデルがCopilotに実装されるまでのタイムラグ(出典:内田洋行の提供資料)

 いずれどのサービスにも実装されることを考えると、「今」実装されている言語モデルの新しさで優劣を判断しても大きな意味はありません。確実に言えることは、常に最新のGPTを利用したいのであれば、ChatGPTを利用すべきということだけです。

ChatGPTはおしゃべり? 業務特化のCopilot for Microsoft 365と汎用性のChatGPT

 GPT-4oといった言語モデルの違いを差し引いても、Microsoft CopilotやCopilot for Microsoft 365の回答は硬直的で思ったような回答が返ってこないと感じるユーザーもいます。実は筆者もその一人で、AIとの会話からアイデアを引き出したいときなど、創造性を期待する場面においては、ChatGPTの方が豊かな発想力を発揮すると考えています。

 ChatGPTと比べてCopilotは、真面目で慎重な振る舞いをするように思えます。Copilotは差別的であったり侮辱的であったりする不適切な言葉を話さないように、かなり入念に制限されているようです。実装の詳細は公開されていないため、私たちは外から振る舞いを観察して想像する他ありません。性格の違いを確かめるためには、それぞれに同じ質問をして回答を比べてみるのが良いでしょう。


言葉遣いに厳格なCopilot(出典:内田洋行の提供資料)

 最も真面目で慎重な振る舞いを見せるのは、Copilot for Microsoft 365です。Copilot for Microsoft 365を利用するユーザーは主に業務利用することになるため、できるだけ間違いが少なく事実に基づいた答えを返そうとしているのだと考えられます。回答の内容も簡潔で、ChatGPTと比べると“おしゃべり”ではありません。そのためか振る舞いの幅が小さく、ユーザーが質問や指示として送るプロンプトを工夫したとしても、回答の内容に大きな違いが見られないこともあります。

 業務特化型とも言えるCopilot for Microsoft 365は、Microsoft 365に保存された社内のコンテキストに限定して利用できる点がメリットの一つです。「Word」や「Excel」などのアプリケーション内にコンテキストをさらに限定して利用することもできます。コンテキストが限定できることということは、プロンプトをより簡単にできるということでもあります。社内のことや作業中の内容に関わることであれば、簡単な指示や質問で、事実に基づく簡潔な回答を得られるのがCopilot for Microsoft 365の良さでしょう。

コラム:日本語と英語の違い

 Copilot for Microsoft 365に関するよくある質問として「日本語と英語のそれぞれで利用した場合の性能差はあるか」があります。以前は、英語で質問する方が正確な結果が得られると思っていましたが、近ごろはその差はあまりないと実感します。言語を変えて同じ質問をすると、Copilotからはそれぞれの言語で同じ内容の回答が返ってくるようになりました。

 ただし、新機能に関しては英語環境のみで優先的に提供されることもあり、英語か日本語かというよりも、英語かその他の言語かの違いで使える機能に差がある場合もあります。

多くのユーザーが簡単に利用できるCopilot for Microsoft 365

 Copilot for Microsoft 365を利用していると、簡単に生成AIの機能を利用できるようにする工夫が各所にちりばめられていることに気が付きます。そこではプロンプトを書く必要すらなく、ワンクリックで、または、完全に自動でCopilotが働いて作業を支援してくれます。これは、アプリケーションに組み込まれて提供されるCopilot for Microsoft 365の大きなメリットでしょう。

 「Microsoft Teams」でのオンライン会議の終了時間が近づけば、Copilotは「会議の要約を作成しませんか」と提案します。その提案に従えば、すぐにCopilotが会議の要約を作成するので、これを参加者と共有することで会議内容を要約する時に役立ちます。「Outlook」でメールを返信しようとすると、Copilotは返信の文面を提案します。Wordで文章を作成している際にも、マウス操作だけで文章の書き換え案を出力できます。


簡単操作で使えるCopilot for Microsoft 365(出典:内田洋行の提供資料)

 筆者は、こうしたところにCopilot for Microsoft 365がユーザーに提供する狙いやコンセプトが、表れているのではないかと考えています。ユーザーがChatGPTを利用するには、いかに効果的なプロンプトを作成できるかが重要です。プロンプトの作成スキルはプロンプトエンジニアリングとも呼ばれ、特別なスキルと捉えられています。一方で、Copilot for Microsoft 365では、プロンプトを極力減らし、利用開始前に必要なトレーニングを少なくすることで、より多くのユーザーがより簡単に生成AIを利用できるようになっています。

用途に応じて使い分けよう

 ChatGPTやCopilot for Microsoft 365は生成AIを利用しているサービスという点では同じですが、それぞれ異なる性格付けがされているサービスです。自由で創造性のある回答を返してくれるChatGPTは、アイデア出しの際の壁打ち相手などとして有益でしょう。一方で、ChatGPTをより多くの用途に応用するには、最適なプロンプトを作成するテクニックも求められますし、ChatGPTからの回答を利用する場合も慎重に内容を見定める必要があります。

 Copilot for Microsoft 365は、会議やメール、文書作成、資料作成など業務におけるちょっとした作業で利用できます。複雑なプロンプトを作成することなく、簡単に利用できることがメリットです。柔軟なアイデアが欲しい場面では物足りなさを感じることもありますが、Microsoft 365ユーザーであれば、Microsoft Copilotを「商用データ保護付き」としてビジネス利用することもできます。

 Microsoft Copilotは、ChatGPTほどではないものの、Copilot for Microsoft 365よりも創造的な回答を返します。Microsoft Copilot自体は無償でも利用できることから軽視されがちですが、Copilot for Microsoft 365を契約していたとしても、場面に応じて使い分けることをおすすめしています。さらに深く生成AIを利用したいのであれば、ChatGPTを別途契約してさらに使い分けしていくと良いでしょう。


ChatGPTやCopilotの使い分けを考える(出典:内田洋行の提供資料)

 ChatGPTと比べて柔軟さに制限がある一方で簡単に利用できるCopilotは、今では広く市場に受け入れられてきたローコードとプロコードの開発ツールの違いに似ています。ローコードがあればプロコードが不要になるわけではありません。プロコードの開発ツールが使えるからといって、ローコードの開発ツールを全く使わないわけでもありません。その時々の用途や場合に応じて使い分けることが大切です。生成AIのソリューションだとひとくくりに考えず、それぞれのツールの特徴を捉える必要が出てきています。

著者プロフィール:太田浩史(内田洋行 エンタープライズエンジニアリング事業部)

2010年に内田洋行でMicrosoft 365(当時はBPOS)の導入に携わり、以後は自社、他社問わず、Microsoft 365の導入から活用を支援し、Microsoft 365の魅力に憑りつかれる。自称Microsoft 365ギーク。多くの経験で得られたナレッジを各種イベントでの登壇や書籍、ブログ、SNSなどを通じて広く共有し、2013年にはMicrosoftから「Microsoft MVP Award」を受賞。


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