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Microsoftの「Copilot+ PC」はこれまでのWindows PCと何が違うのか

MicrosoftはAI処理をローカルで実行可能にする「Copilot+PC」の販売を開始した。Copilot+PCは一般的なWindows PCと何が違うのか。性能や機能から違いを見ていく。

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 2024年6月18日、AI処理専用NPU(Neural network Processing Unit)を搭載した「Copilot+PC」の発売が始まった。

 発売されたのは「Surface Pro」第11世代の5モデルと「Surface Laptop」第7世代の13.8インチ画面5モデル、15インチ画面4モデルだ。同社はこれらを「新しいWindows PCカテゴリー」と位置付けている。同日にAcerやDell、日本HP、Lenovo 、ASUSからもCopilot+PCが発売された。Copilot+PCは一般的なWindows PCとどこが違い、どのような特徴があるのか。日本マイクロソフトの発表会の内容を基に解説する。


Copilot+PCのラインアップ(出典:筆者撮影)

Copilot+ PCと一般的なWindows PCの違いはどこに?

 Copilot+ PCの最大のポイントは、ローカルで高速なAI処理を可能にした点にある。AIでテキストや画像などを生成するには、これまではクラウドでの処理を必要としていた。生成AIが必要とされるシーンが増えると同時に処理スピードも求められ、そのためにはAI処理をエッジデバイス側で実行することが有効だと考えられた。

 Copilot+ PCではAI処理の高速化のために、AI処理に最適な高速NPUとCPU、GPUを乗せたARMベースの「Snapdragon X」が採用された。なぜ、他のプロセッサではなくSnapdragon Xが必要だったのか。

 プロセッサそのものはCopilot+PCの要件ではないが、Copilot+PCが目指すAI処理には40TOPS(1秒間に40兆回の操作)が必要とされ、その性能を満たすのがSnapdragon Xだった。

 Snapdragon XはQualcomm製の高性能SoC(System on Chip)で、12コアの「Snapdragon X Elite」と10コア「Snapdragon X Plus」の2種類がある。新しいSurfaceの上位モデルにはEliteが、下位モデルにはPlusが搭載されている。どちらも動作周波数は3.4GHzだが、NPUを搭載し、40TOPSの高速処理性能を備えているのがこれまでのプロセッサとの違いだ。グラフィックス処理専用にGPUが使われるように、NPUは高速AI処理を担う。画像認識や音声認識、自然言語処理などを高速に実行できる。

 PCでのAI処理の多くをNPUが担うため、それ以外の処理性能を低下させることがないのもポイントだ。

 「ChatGPT」などの生成AIサービスは「GPT-4」などの大規模言語モデル(LLM)を使用しているが、Copilot+PCにはその軽量版である小規模言語モデル(SLM)が用いられている。これによってローカルでもAI処理が実現できるようになった。

 ただし、全てのAI処理をローカルだけで実行することが前提ではなく、クラウドとPCでバランスを取りながら実行できるようにしたいというのがMicrosoftの考えだ。必要なときだけにクラウドに接続し、それ以外はローカルで実行するという合理的な方式だ。

 Microsoftが公表しているCopilot+ PCの最小システム要件は次の通りだ。

  • 「Windows 11」の既存の最小システム要件を満たすこと
  • 承認されたプロセッサまたはSoC(System on a chip)とNPU搭載、40TOPS以上のプロセッサ/SoCであることが必須
  • 16GB DDR5/LPDDR5のRAM
  • ストレージデバイス256GB SSD/UFS以上

 発表されたCopilot+ PCと一般的なWindows PCとの分かりやすい違いは、キーボードに「Copilotキー」が追加されたことだ。これはWindows PCのキーボード史上で30年ぶりの大きな変更であり、MicrosoftのCopilotに対する意気込みを象徴するものだ。なお、MicrosoftはOpenAIの最新マルチモーダルLLMである「GPT-4o」への対応を予定しており、音声オペレーションをはじめとするユーザーインタフェースのさらなる向上が期待されるところだ。


Copilot+ PCの「Copilotキー」(出典:筆者撮影)

Copilot+PCの3つの新機能

 Copilot+ PCではどのような機能が利用できるのだろうか。Microsoftは「Image Creator/Cocreator」「Windows Studio Effect」「ライブキャプション」の3つの機能を発表した。

Image Creator/Cocreator機能

 プロンプトを入力することで画像を生成するImage Creatorが標準のペイントアプリで利用可能になった。クラウドでの処理を待つことなくローカルのNPUを使用して画像を生成するため、スピーディーな処理が可能になった。プロンプト入力ボックス直下にある「創造性フィルター」を選択すると、油絵風や水彩画風、アニメ風などのタッチを選択でき、強度をスライダーで変化させることも可能だ。

 これに加えて今回の目玉は、自分が思い描いているイメージをペイント画面に描くことでそのイメージに合った画像を生成できるCocreator機能だ。プロンプトと描いた絵を基に画像が生成され、思い描いたイメージをスピーディーに具現化できる。ペイント画面でCocreator機能を起動してプロンプトを入力し、画面にペイントと同様に絵を描くことでイメージに基づいた画像が描かれる。各種フィルターや強度を調整すると、よりイメージに近い画像を生成できる。

 ただし、英語に最適化されていて、プロンプトの入力で日本語も使えるが英語ほどの精度はないようだ(本稿公開時点)。


コクリエイター機能の実行例、「夕日の海辺の風景」とプロンプト入力し、左のキャンバスに描いた絵によって右上の画像が生成された(出典:筆者撮影)

 なお、MicrosoftはAdobe製品や「Da Vinci Resolve Studio」「CapCut」「Cephable」「LiquidText」などのアプリケーションのAI機能をNPU向けに最適化するために、各アプリケーションベンダーと連携する考えだ。

Windows Studio Effect機能

 Web会議で通話者をより好印象にするのがWindows Studio Effectだ。イラストやアニメ、水彩画などのクリエイティブフィルター機能(エフェクト効果)やポートレイトライト機能(人物の明るさ自動調整、光の反射抑制など)、音声フォーカス/エコーキャンセル機能(雑音除去)などが特徴的だ。

 この他にも背景ぼかしや、目線が他を向いていても画像加工で正面に向けるアイコンタクト・テレプロンプター、前面の超広角カメラの映像から話者を自動的にセンタリングしたり拡大したりできる自動フレーミングなど、NPU搭載PCならではの効果最適化ができる。

ライブキャプション機能

 44言語から英語へと高速な翻訳を可能にするのがライブキャプション機能だ。音声やビデオコンテンツに容易に英語字幕を付けられる。Web会議でも活用できる。

新「Surface」3機種のそれぞれの違い

 Copilot+ PCはSurfaceをはじめ主要PCベンダーから一斉に発売され、今後さらにラインアップが増えることが予想される。Copilot+ PCとして発表された(2024年6月時点)新Surfaceの特徴的な部分を紹介しよう。

Surface Laptop/Pro

 両ラインアップに40TOPS NPU搭載のSnapdragon X EliteまたはPlusを搭載した。高性能のNPUが搭載されている。

Surface Laptop

 処理性能は前のモデルと比較して86%高速化した。本体サイズはコンパクト化したがベゼルを薄くしたため、表示画面が拡大した。バッテリー駆動時間は15インチモデルで最大22時間、13.8インチで最大20時間。新たに大型のハプティックスタッチパッドを搭載した。

Surface Pro

 処理性能は前モデルと比較して90%高速化した。Snapdragon X Elite搭載モデルにはディスプレイにOLED(有機EL)を搭載し、バッテリー駆動時間は最大14時間。前面カメラは超広角クアッドHDカメラ。Windows Studio Effectを組み合わせることで効率的に映像が作成可能。本体から外した状態でも入力可能なフレックスキーボードがラインアップに加わった。ペン入力にもハプティクス効果を付加。入力ボックスにペンで文字を手書きすればテキスト変換が可能。


Copilotを立ち上げ、プロンプトをペンで文字入力するとテキスト変換してAIチャットが可能に(出典:筆者撮影)

 なお、Microsoftは2030年までにSurfaceを100%リサイクル可能にすることを目標としていて、環境に配慮した素材選びや設計に加え、修理のしやすさ、セキュリティ、アクセシビリティーにもこだわっている。

 今後、メーカー各社から続々とリリースされるCopilot+ PCは、その性能の高さと優れたUI、そしてAI機能によって、市場シェアを拡大していくだろう。業務用PCとしてどう企業にアプローチするかは未知数だが、今後のさらなる機能の充実に期待しながら、状況をみていきたい。

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