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M365と既存システムの乱立で"業務はカオス" 農林中央金庫はどう解決した?

農林中央金庫は、業務プロセスの分断とコンテンツの分散による生産性の低下に悩んでいた。そうした中、同社はあるサービスを組み合わせて新しい情報共有基盤を構築した。その刷新プロジェクトの全貌とは?

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 農林中央金庫は、「Microsoft 365」を導入したが、既存のワークフローシステムやグループウェアが残っていたことで、業務が“非常にカオス”な状況だったという。

 業務に必要なコンテンツは外部サーバやワークフローの文書管理領域、旧グループウェアに分散していたため、資料を探すにも四苦八苦していた。業務プロセスの分断とコンテンツの分散が生産性を低下させていたという。

 こうした状況の中、同社は既存のITインフラを見直し、「Microsoft OneDrive」などにある既存のコンテンツを「Box」に集約する他、幾つかのサービスを使って情報共有基盤を刷新した。その経緯を農林中央金庫の柏原将飛氏(IT統括部 DX共創グループ グループ長)が語った。

農林中央金庫はなぜOneDriveを捨ててBoxを選んだ? 情報共有基盤、刷新の全貌

 農林中央金庫は、農業協同組合や漁業協同組合、森林組合などの第一次産業の協同組合を出資者とする金融機関だ。JAバンクのサービスやシステムの受託開発、市中金融機関と同様に農林水産事業者への投融資、国内外のマーケットへの投資などを通じて農林水産業の発展に寄与している。


農林中央金庫 柏原将飛氏

 2023年に100周年を迎えた農林中央金庫は、次の時代に向けてより付加価値の高い業務にシフトできる環境を整えるために、汎用(はんよう)ワークフローシステムとグループウェアを中心とするITインフラのリニューアルと併せて、制度の見直しやワークスタイルの変革を進めている。

 2024年4月には複数のデジタル部門を結集してDX共創グループを発足した。

 前述したように、同社は業務プロセスの分断とコンテンツの分散の課題を抱えていた。その解決を目的の一つとして、農林中央金庫はDXで実現したいシステムのグランドデザインを描いた。「ServiceNow」でワークフロー基盤を整備して、コミュニケーションのハブを「Microsoft 365」に統一、コンテンツを「Box」に集約する。また、それらをAPI経由で連携させてエンドツーエンドで業務を実行できる環境を目指すというものだ。

コンテンツのハブとしてBoxを採用 約2年で7000人に段階導入

 Boxの展開は3つのフェーズから成る。

 1次リリースは、他社とのコラボレーション機能を数百人に限定して利用できるようにした。外部関係者と大容量ファイルの授受が可能となった。その後、2年かけてグループ会社を含む7000人にBoxを展開した。

 2次リリースは、職員向けサービスポータルとして使っている「ServiceNow」とBoxを連携させた。ServiceNowで作成されたコンテンツはBoxに保存され、そのデータはアプリを介して閲覧できる。このタイミングで全社での利用が可能になった。システムを介しているのでユーザーはBoxを意識する必要がない。

 2024年8月に予定している3次リリースでは、「Microsoft Teams」(以下、Teams)とBoxを連携させる予定だ。普段使っているコンテンツをBoxで管理する。ユーザーが意識的にBoxを活用するようになるため、ここからがBox活用の正念場と考えているという。

悩んだ末に構築したBoxの3つの領域

 農林中央金庫のBox活用には以下の3つの領域がある。柏原氏はそれぞれについて詳しく説明した。

  • 社内コミュニケーションのために資料などを受け渡す「社内共有」
  • 厳密なコンテンツ管理が必要な文書を保存する「文書管理」
  • 社外とのコラボレーションのために資料などを共有する「社外共有」

「社内共有」領域

 現在、社内共有領域は、AWS(Amazon Web Services)のファイルサーバと、Teams、「Microsoft SharePoint」(以下、SharePoint)「Microsoft OneDrive」を活用しているが、2024年8月に予定している3次リリースでBoxに切り替える。BoxとTeamsの連携については「Box for Microsoft Teams v2」を採用した。

 さまざまなストレージに散らばっているコンテンツについては、丸紅ITソリューションズのの「Rocket Uploader」や「Box Shuttle」を活用してデータの移行を進めている。

「文書管理」領域

 文書管理領域では、機密性の高い文書を扱うため、「Box Shield」を使っている。機密性に基づいてファイルを分類し、フォルダ、ユーザーの情報を組み合わせてアクセス権などを細かく統制している。この領域にユーザーが直接コンテンツを保存することはなく、ServiceNowなどのワークフロー機能を介して保存する。

 保存されたコンテンツは、「削除不可」「編集不可」などの統制をかけている。さらに機密性の高い情報は「電子透かし」を付けたり、ダウンロードや印刷を不可にするなどの統制をすることで情報漏えい対策をしている。

 文書管理領域には、決裁データも保存される。決裁のワークフローはServiceNowとBoxの連携で構築した。最終承認者による決裁の完了後は、メタデータを付与した上で文書管理領域に自動保存される。案件ごとの閲覧の制限を構成しやすいなどのメリットがある。

 膨大に蓄積されるデータの検索にはメタデータを利用している。「文書管理検索用」「電帳法文書用」「電子契約用」など、特定の目的に応じたテンプレートを用意し、これらのテンプレートにさまざまなワークフローに適したメタデータを事前に設定した。電子契約などの複数のメタデータにまたがる管理が必要な場合は、テンプレートを複数付けられるようにした。

「社外共有」領域

 「社外共有」領域に保存した情報は外部と共有できる。柏原氏は出資者ポータルとの連携やファイル送信の脱PPAP対策について触れた。

 現状では、外部へのメールに添付ファイルを付けて送信する際は、いわゆるPPAP方式で送っているが、2024年秋には脱PPAP策としてBoxと「mxHERO」を使った文書共有の仕組みをリリースする予定だ。

 具体的には、添付ファイル付きのメールを送信すると、mxHEROが添付ファイルを受けてBoxに格納し、Boxが共有リンクを発行、メールの添付ファイルに置き換えて相手に送信する。相手側はブラウザ経由でコンテンツにアクセスする。誤送信してしまった場合でも、共有リンクを切ることで情報漏えいを防止できる。ファイルがダウンロードされたかどうかはBoxで確認できる。

 出資の申請などができる出資者ポータルとの連携も検討している。Boxの共有リンクを埋め込むことで、資料の授受などを共有フォルダでやりとりできるようになる。

 懸案となったのはBoxユーザーでない出資者だが、Boxと出資者ポータルのアカウントとひも付けることで、あたかもBoxユーザーのようにコンテンツの授受ができる。この仕組みはペーパーレス化にもつながり、負荷の高いやりとりの省力化が期待できる。

「あの資料どこ?」をなくす、Box AIに大きな期待

 柏原氏は今後のBox活用について展望を述べた。

 まず、生成AIアシスタント機能である「Box AI」を規定に埋め込むという。Box AIとは、Box内のドキュメントを基に、その要約や翻訳、要点の抽出、記事の下書きや議題のテンプレート作成などを実行するものだ。

 現在はBoxに保存された規定を、「Microsoft Power Apps」で構築したアプリを介して検索し、利用している。Box AIを利用する場合のイメージは以下の通りだ。ユーザーが「経費 旅費」といったキーワードを検索すると、3つの関連する項目が提示される。任意の項目を選び、Box AIのボタンをクリックすると、質問を入力するためのウィンドウが表示される。

 例えば、「立て替え処理の流れを教えて」と質問すると、Box AIが回答を生成し、その引用元の情報も併せて表示する。この機能は早ければ2024年秋にリリースする予定だ。

 「Box Hubs」の利用も検討している。Box Hubsとは、Boxに保存されているコンテンツを安全かつシンプルに管理、整理、公開するHub(ポータルサイト)を作成する機能だ。特定の業務に関わる職員は、申請を提出する際に、規定・手続き、通知、マニュアル、FAQなどのドキュメントを横断的に確認する必要があり、その内容について関連部門に問い合わせをすることも多い。現在はBox Hubsで特定業務のポータルを作成し、Box AIで自己解決が図れる回答が得られるかどうか、検証を進めている。これによって問い合わせ対応の負荷軽減を目指している。

 最後に柏原氏は、「取り組みはまだ緒に就いたばかりですが、長く使ってきたレガシーシステムをクラウドに移行し、それと併せてリニューアルを進めていきたいと考えています。新しい仕組みをしっかり組織に根付かせてコーポレートトランスフォーメーションを実現したいです」と意気込みを見せた。

本記事は、Boxが2024年6月25日〜26日に開催した「BoxWorks Tokyo 2024」の内容を編集部で再構成した。

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