検索
特集

奮発して導入したCopilot for Microsoft 365の元を取る方法

Copilot for Microsoft 365を導入後、ただユーザーにライセンスを割り当てただけで活用が進む例をほとんど見たことはありません。どのような施策を打てば、ユーザーに浸透するのでしょうか。

Share
Tweet
LINE
Hatena

 「Office 365」や「Microsoft 365」のライセンスを保有している企業であれば、Copilot for Microsoft 365のアドオンライセンスを購入するだけで利用できます。費用は年間契約で1ユーザー当たりおよそ月4500円(税別)で、「Microsoft 365 Business Premium」の料金と比べても高く、決して安くはありません。ライセンスを購入したからには、ユーザーには十分に活用して欲しいと願うのは当然でしょう。しかし、ライセンスをユーザーに割り当てたからといって、活用が進む例をほとんど見たことがありません。

 せっかく導入したCopilot for Microsoft 365を放置させないためには、幾つかの施策が必要です。それらの施策によって、普及率が一気に80%近くまで高まった事例もあります。以下で、施策と効果の測り方について紹介します。

奮発して導入したCopilot for Microsoft 365が使われなくなる理由

 生成AIの業務利用は始まったばかりです。参考にできる事例も少なく、自分たちでユースケースを見つける必要があります。

 新製品やサービス市場への普及率を表すマーケティングの考え方として、イノベーター理論が有名です。この理論においても、新しいツールを自分たちの力で積極的に活用しようとする「アーリーアダプター」は全体の16%程度と言われています。イノベーター理論は社内での普及を示したものではありませんが、社内の状況を思い浮かべてみても、10人に1人くらいは“新しいもの好き”がいるのではないでしょうか。社内での普及を考えると、そうした従業員だけが使っても効果は出ません。まずは普及率30%を超えられるかどうかが一つの目安になるでしょう。普及率を高めるための活用支援施策が重要です。

何ができるかを知る

 Copilot for Microsoft 365の使い方は簡単です。さまざまな場面で画面に表示されるCopilotのボタンをクリックして機能を呼び出し、チャットで指示をするだけです。他にもメールの要約などのように、ワンクリックで使える機能も多く用意されています。しかし、そのシンプルさが逆にユーザーを悩ませます。「何に使えるのか分からない」「いつ使ったらよいのか分からない」と悩むユーザーも多くいます。それでも導入直後は目新しさもあって使ってみますが、1カ月後には使い続けているユーザーが大きく減っていることもあります。

 そこでまずやるべきことは、Copilot for Microsoft 365がどのように役立つのかを示す利用例をユーザーと共有することです。ここでは、機能の使い方ではなく利用例であることが重要であり、ユーザーの身近な業務でどう役立つかをイメージできるものが望ましいです。そのために、社内における利用例を見つけることをお勧めします。先ほどの新しいもの好きである社内のアーリーアダプターの協力を得られると心強いでしょう。社内の利用例は、ユーザーにとっても使い方や効果を実感しやすく、モチベーションも上がりやすいと考えられます。


Copilot for Microsoft 365でセミナーアンケートの速報レポート作成(出典:内田洋行の提供資料)

 他にも、インターネットに公開されている記事から情報を入手したり、普段からMicrosoft 365関連で付き合いのあるパートナーに相談したりしてみるのも良いでしょう。Microsoftパートナー企業の中にも、近ごろはCopilot for Microsoft 365の導入や利用を支援するサービスを提供する企業が増えています。私が所属する企業の関連会社であるウチダスペクトラムでは、管理者向けのワークショップのほか、パイロット導入の支援やユーザー向けの利活用推進研修など、さまざまなサービスを提供しています。

活用支援策の計画

 Copilot for Microsoft 365の活用を推進するための施策は一つではありません。Copilot for Microsoft 365は進化も早く、新機能や新たな利用例などの情報を継続してユーザーと共有する必要があるでしょう。それらの施策によって、どれだけ活用が定着したかを測る術も検討しておく必要があります。


Copilot for Microsoft 365の活用施策の4分類(出典:内田洋行の提供資料)

 活用推進施策の計画時は、「知る」「学ぶ」「実践する」「定着する」の4つのポイントで、それぞれ具体的な施策を検討するのが良いと考えています。中でも重要なことは、「知る」に関する施策です。これには、Copilot for Microsoft 365の利用メリットなどをユーザーと共有したり、マニュアルやガイドラインなどを周知したりする施策が含まれます。これらは、いわば社内向け広報活動の側面もあり、今度どのようにしてユーザーとコミュニケーションを取り続けるかの計画でもあります。

 とある企業では、Copilot for Microsoft 365に関する情報をまとめた社内ポータルを「SharePointサイト」で作成しています。さらには、そのポータルサイトに注目が集まるように、サイトを周知するためのポスターを社員食堂に張ったり、オフィス内のディスプレイに映像を流したりするなど施策を展開しています。他にも、将来的な生成AIの活用にもつながるCopilot for Microsoft 365の導入を社内のIT変革の一つと捉え、社長から従業員に対して利用を促がすメッセージを発してもらうことも効果的です。

 活用推進施策を検討するときには、ユーザー向けの勉強会などの「学ぶ」に関する施策は思い付きやすいのですが、施策の基盤となるユーザーとのコミュニケーション施策はおろそかにしがちなため気をつけたいポイントです。

特にCopilot for Microsoft 365において、なかなか利用を始められないユーザーの多くは「使いたいけれど何ができるか分からない」といった悩みを抱えがちです。ユーザーとのコミュニケーションをしながら、何ができるかを知ってもらう機会を増やしましょう。導入当初における「知る」施策の効果は大きく、利用率が一気に80%近くになる例もあります。そうして一時的に高まった利用率を下げないために、他の「学ぶ」「実践する」「定着する」施策を考えていくのが良いでしょう。社内で立ち上げるオンラインコミュニティーも、そうした施策例の一つです。

ユーザー同士が情報を共有するオンラインコミュニティー

 推進担当者がユーザーに広くアンケートを取ったり、直接ユーザーにインタビューしたりするなどして情報を集め、社内活用集を作るような例もあります。しかし、担当者の負担も大きくなり、継続できず一度きりになってしまうことも多々あります。そこで、「Microsoft Teams」や「Microsoft Viva Engage」などを利用したオンラインコミュニティーを作成し、ユーザーが情報を共有する場を設けることも検討しましょう。


社内のCopilotユーザーのためのオンラインコミュニティー(出典:内田洋行の提供資料)

 オンラインコミュニティーのメリットは、ユーザーの率直な感想や、日常の業務における使い方を知れる点にあります。ユーザー教育のための研修などでは、コンテンツの準備や時間の制約もあり、どうしても事前に整えられたキレイな使い方しか共有できないこともあるでしょう。現場の業務はそうした都合の良いものばかりではありません。ユーザーが本当はどのように使っているのかというのは、こうしたコミュニティーなどへの投稿から見えてくることが多くあります。

 もちろん社内オンラインコミュニティーを作成してすぐに全員が情報を投稿してくれるとは限らないでしょう。初めのうちは何人かがサクラとなり、他のユーザーの投稿の呼び水となるような投稿をするなどの工夫が必要です。社内オンラインコミュニティーが存在しなかった企業では、ユーザーの利用が浸透するまでに時間がかかることもあります。しかし、ユーザーが情報を共有する場を持てることは、Copilot for Microsoft 365の活用推進以外においても有益な取り組みです。この機会にチャレンジしてみても良いでしょう。

 頻繁に情報を投稿してくれるユーザーが出てきたら、社内向けのセミナーとして、パネルディスカッション形式での座談会などを開催するもの良さそうです。例の企業ではオンライン会議が定着しており、こうしたセミナーも短時間で気軽に開催できるようになっています。

導入効果を測る

 Copilot for Microsoft 365の導入後に悩ましいのが、導入効果を測ることです。まずは、利用率を見てみましょう。社内の管理者は、Microsoft 365管理センターから簡易な利用レポートを確認することができます。ここでは誰が利用しているか、長い期間利用していないユーザーがいないかどうかなどを見ることができます。特に、「最後に使ったのはいつか」の情報を定期的に確認することで、頻繁に利用しているユーザーが誰かが見えてきます。全体を俯瞰すれば、社内での利用の定着率も見えてきます。

 業務での効果を測るには、ユーザーアンケートも重要です。Copilot for Microsoft 365を導入する前後で、どのような業務に時間削減などの効果があったかを回答してもらいましょう。さらには、業務で生み出した成果物の質についても確認すると良いでしょう。定性的な評価にはなりますが、導入効果を測るための重要な指標となります。アンケートも定期的に実施することで、利用状況の推移をつかむことができます。

利用例数の重要なKPI

 社内の利用例の数も、重要なKPIの一つです。今後、生成AIが社内でさらに活用されるようになると、ユーザーが自発的に使い方を見つけ出せるかどうかが生産性に大きく影響するようになるでしょう。とある企業では、Copilot for Microsoft 365を将来的な生成AI活用の題材の一つと捉えて取り組んでいます。

 社内の利用例をどれだけ考えられたか、考えられないとしたらその原因は何なのかをふり返ることが、将来に向けて意味を持つと考えています。うまくいかない原因もさまざま考えられるでしょう。ユーザーへの教育が不足している場合もあれば、社内での認知度を高める活動が不足している場合もあります。弱点を強化することは、Copilot for Microsoft 365だけではなく、他のツールやサービスを導入する場合にもプラスの効果をもたらします。

 以上で説明した活用推進策を検討するときの「知る」「学ぶ」「実践する」「定着する」の4つのポイントは、どれも大切で欠かすことのできないものでしょう。Copilot for Microsoft 365の導入時は、こうした活用推進策も合わせて検討しましょう。

著者プロフィール:太田浩史(内田洋行 エンタープライズエンジニアリング事業部)

2010年に内田洋行でMicrosoft 365(当時はBPOS)の導入に携わり、以後は自社、他社問わず、Microsoft 365の導入から活用を支援し、Microsoft 365の魅力に憑りつかれる。自称Microsoft 365ギーク。多くの経験で得られたナレッジを各種イベントでの登壇や書籍、ブログ、SNSなどを通じて広く共有し、2013年にはMicrosoftから「Microsoft MVP Award」を受賞。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る