分かっているようで実は知らない「SAP Basis」 基本とABAPとの違いも解説
SAP Basisは、SAPの幅広い製品の中でも最も重要な製品の一つであり、SAPのアプリケーションが機能するために必要な技術的基盤である。SAP Basisの基本とABAPとの違いを解説する。
SAPはERPとして企業のおけるデータ管理を簡素化するためのソリューションだ。SAPの製品はデータ管理の効率化および一元化により、正しい視点を提供し、組織が複雑なビジネスプロセスをより適切に管理し、ワークフローを迅速化し、運用効率を向上させ、ビジネスの生産性と収益性を高めることを可能にする。
従来はSystem Analysis Program Developmentとして知られていたこの企業とその製品は、現在は頭文字をとってSAPと呼ばれている。
SAP Basisは、SAPのアプリケーションが機能するために必要な基盤だ。これは、ミドルウェアプログラムおよびSAPのツールで構成され、システムおよびデータベース間におけるSAPのアプリケーションの相互運用性と移植性をサポートする。
SAP Basisの概要と基本機能
「SAP Basis」は、SAPの幅広い製品の中でも最も重要な製品の一つだ。SAP Basisは「Business Application Software Integrated Solution」を意味し、基本的にはシステム管理のためのプラットフォームだ。これにより、さまざまなSAPのモジュールやアプリケーションが連携して動作し、組織の業務運営やシステムをリアルタイムで総合的に把握できるようになる。SAP Basisのプログラムやツールはシステム管理の作業をサポートし、SAP環境内の全てのシステムを常に安定して円滑に稼働させることを目的としている。
SAP Basisが管理および運用する業務には以下のようなものが含まれる。
- SAPの環境において、サーバやデータベース、その他の重要なコンポーネントを設定し、SAPのシステムをインストールおよび構成すること
- ユーザーアカウントを作成および管理し、全てのユーザーがSAPの機能やアプリケーションを使用するための適切なアクセス権を持っていることの確認
- データ損失から組織を守るためにバックアップを取り、必要に応じてその復旧と復元を実施
- CPUやメモリを含むSAPのシステムおよびリソースの健全性とパフォーマンスの監視
- SAPのアプリケーションのパフォーマンスを調整し、問題が拡大する前にトラブルシューティングをすること
- バックグラウンドジョブのスケジューリングや管理、実行、不要になったジョブの削除
- SAPの輸送管理システム(TMS)の設定
- システム制御、一貫性および整合性を維持するために、あるSAPのシステムから別のSAPのシステムへの変更の転送を管理
- さまざまなSAPのシステムのために必要な運用モードとプロファイルを設定および維持すること
SAP Basisの重要性
SAPは多数のアプリケーションとモジュールで構成され、その多くは相互に影響し合うため、オペレーティングシステムやデータベース間における相互運用性と移植性が求められる。SAP Basisは、多数のミドルウェアプログラムやツールを提供することで相互運用性と移植性を向上させている。
これらのリソースは、企業のSAPの環境で他で用意されたSAPのプログラムを動作させるための基本的なタスクの多くを管理する。SAP Basisは、これらのプログラムがユーザーエクスペリエンスに悪影響を与えたり、不具合が発生したりすることなくスムーズに実行されるように保証する。また、SAP Basisは、SAPのプログラムがインストールされているOSとさまざまな通信プロトコルの間に問題が生じないようにする機能も持っている。問題やエラーが発生した場合、SAP Basisがそれを解決し、最小限の中断と最適なシステムパフォーマンスを保証する。
SAP Basisは、進化するビジネスや技術要件に合わせて、組織がSAPシステムを適応させるためにも不可欠だ。SAP Basisの使用により、企業はSAPのアプリケーションやシステムを適切に構成およびインストールでき、権限を持つアプリケーションユーザーに適切な承認権限を割り当て、データのバックアップを維持し、必要に応じて重要なデータを復元し、SAPのシステム間の転送を管理できる。また、メモリ管理やデータベース間の通信といった重要なタスクの簡素化も可能になる。
SAP Basisがなければ、これらの事項の管理が難しくなり、インストールされたSAPのシステムから最高のパフォーマンスを引き出せなくなる。
SAP Basisのクライアントサーバアーキテクチャ
SAP Basisのアーキテクチャは、3層構造であるクライアント、アプリケーションサーバ、データベースサーバから構成されている。
クライアントはプレゼンテーション層に位置する。これはユーザーがSAPのシステムとやりとりする場所だ。このやりとりは、SAP Basisがバックグラウンドでサポートしており、ユーザーとSAP Basisの間で直接的なやりとりはほとんどないか、全くない。通常、ユーザーとSAPのやりとりは、SAPのアプリケーションの画面(デスクトップやノートPC、ウェブベース)を通じて行われる。例えば、「SAP GUI for Windows」「SAP GUI for Java」「SAP GUI for HTML」「SAP Fiori」などが使用される。
アプリケーション層には、ビジネスロジックとプロセスを格納するために1つ以上のアプリケーションサーバがインストールされ、SAPのアプリケーションを実行し、データベースサーバと連携させる。この層は、プレゼンテーション層(SAP GUI)における視覚的な表示のためにデータを準備する役割も担っている。異なるアプリケーションごとに異なるアプリケーションサーバがインストールされる場合がある。
データベース層は、SAPのシステムの重要なビジネスデータを格納するデータベースシステムが存在する場所である。データベースには、SAPのインメモリデータベースである「SAP HANA」のみならず、Oracle、IBM(Db2)、Microsoft(SQL Server)などのサードパーティー製データベース製品が使われる場合もある。
SAP BasisとABAPの違い
SAP Basisにおける管理者とABAPにおける開発者の役割の違いをはじめに、SAP Basisと「Advanced Business Application Programming」(ABAP)の違いは曖昧なことが多いが、SAP BasisとABAPは異なるものだ。
SAP Basisは、SAPのシステムおよび運用を管理するためのツールキットだ。SAPのシステムのパフォーマンスとセキュリティを最適化し、ボトルネックに対処し、ビジネス要件や需要に応じてシステムを拡張または縮小するために不可欠だ。また、SAP Basisは、組織におけるさまざまなSAPのアプリケーションやモジュールの円滑な連携を支援する。
SAP ABAPは、SAP独自のプログラミング言語だ。ABAPはJavaと並ぶ主要言語の一つで、SAPアプリケーションの開発や大量データ処理を効率化するために使用されている。
ABAPプログラムは「SAP NetWeaver」プラットフォームで実行され、組織はそのニーズに応じてアプリケーションをカスタマイズできる。また、ABAPプログラムはJavaやJavaScriptなどの他の言語で記述されたプログラムと並行して動作することが可能だ。
多くの企業では、SAP Basis管理者がABAPプログラミングの知識を持っていることが多く、ABAP開発者もSAP Basisについて理解している場合が多い。ただし、一般的にはBasisとABAPの業務領域は分かれている。
SAP Basisの仕事内容とは?
SAP Basisのプロフェッショナルには、SAP Basis管理者、SAP Basisコンサルタント、SAP Basisアプリケーションサポートスペシャリスト、SAP Basisアーキテクト、SAP HANA Basisコンサルタントなどの役職がある。SAP製品を導入している企業では、独自の役職と責任が設定されることもある。
SAP Basis管理者は通常、SAP環境の管理を担当する。構成や監視、調整、トラブルシューティング、TMSのスケジュール設定と実行などが主な業務だ。さらに、システムのアップグレードやデータ移行、ソフトウェア更新の計画と実行も担当し、環境全体の健全性とパフォーマンスを維持する役割を果たす。
SAP Basisコンサルタントは、SAPシステムの技術サポートとリーダーシップを提供する。業務内容には、標準や要件の策定、機能強化の評価、パフォーマンス監視プロセスの実装、システムの設計と実装が含まれる。さらに、SAPの利用状況を分析し、最適なパフォーマンスとROIを実現するために環境の調整を行うことが求められる場合もある。
認定管理を取得するためには、SAP管理に関連するさまざまなタスクや領域で専門知識を持っていることや、SAPモジュールの統合に必要な技術インフラの標準や要件を理解していることが求められる。認定取得のためには、SAPの認定クラスやコースウェアへの参加が一般的だが、サードパーティーのコースや動画学習で知識を深めることもできる。
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